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第003戯 RPGの経済学

「父上は手ぬるい! どうしてもっと徹底的に魔物を退治せぬのですか!」


 それが彼の口癖だった。

 彼は大陸の辺境にあるN国の第一王子。

 いずれは国を継ぐ立場である。


「若いお前にはまだ分からんのだ。我々は共存関係にあるのだよ」

「お戯れを! 魔物と共存など出来る訳がありません!」


 N国には古来よりずっと魔物がはびこり、その来襲による人的・金銭的被害も少なくは無かったのだ。

 王は自国はもとより他国からも勇者・戦士などの冒険者を募ってその対策に当たっていたが、魔物を根絶するには至っていなかった。


「俺が王になったら、あいつらを駆逐してやる」


 それも彼の口癖だった。

 そして、ほどなくして王は亡くなり、彼が王位についた。


「我が国に被害を与え続けた魔物を殲滅する!」


 彼は意気揚々とその対策にあたった。


 まず彼は町中の教会と宿屋に補助金を出し、冒険者の復活と回復を無料にした。

 国の為に働く冒険者から金を取るなどけしからん、というのがその理由だった。


 もとより教会が(ゴールド)を請求して冒険者を復活させるのには多くの批判があったから、民衆はこれを歓迎した。


 教会は猛反対して何度も新王の説得を試みたが、彼はもちろん民衆は聞く耳を持たなかった。


 やがて『冒険者に手厚い国』の噂を聞きつけ、国外からも多くの冒険者が集まるようになった。

 そのおかげで、武器屋・道具屋・酒屋などが潤い、かつて無い好景気がもたらされた。


 無料の宿屋は繁盛しその補助金は多額になったが、他の商店からの税収が増えたために全く問題は無かった。


「やはり俺は正しかった」


 魔物も減って平和になり、景気も良くなったことで民衆は新王を圧倒的に支持し、彼はN国史上最も偉大なる王と称されて、我が世の春を謳歌した。



 しかし、そんな時代も長くは続かなかった。


 魔物が短期間に急減し討伐対象が消え失せてしまった為、冒険者は魔物からゴールドを奪うこともできず、不要になった武器も防具も売れなくなった。

 失業した冒険者は昼間から酔っ払い、酒場や町で暴れるようになって治安は急速に悪化した。


 やがて、冒険者達は一人また一人と寂れ果てた町を後にし、失業した商人達も新しい仕事を求めて国を出て行ってしまった。


「どうしてこうなった……」

「恐れながら、申し上げます……」


 従者もほとんどいなくなった王宮で悲嘆に暮れる新王に、以前は町で一番大きい教会の司祭だった男が懺悔とも恩讐とも受け取れる告白をした。


「教会が冒険者からゴールドを搾取していたのは、魔物に分け与える為だったのでございます」


「なんだと!?」


「魔物がゴールドをため込み、それを倒した冒険者が収奪する。その戦いで死んでしまった冒険者を教会でゴールドを支払って生き返らせる。不自然でしょうが、皆が騙された振りをして、そうやってゴールドを流通し続ける。それが経済というものでございますから」


「どうして言わなかった!?」


「何度もご説明に上がりましたが、あなた様は門前払いをされたではありませんか」


「まさか、魔物達の黒幕が我が国の教会だったとはな……」


 がっくりと肩を落として彼は呪詛の言葉を吐くように呟いた。


「俺はあまりにも無知で急進的ラディカルすぎたわけだ……あは。あはは。あははは。あはははははあははははははあははははははあははははははあははははははあははははははあははははははあははははははあははははははあはははははははははははははははははははは」


 新王は一晩中笑い続けた後、翌朝自害し、N国は彼の代で滅亡した。


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