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二十と二人

 あれから様々な店を見て回り、気づけば空は暗くなり始めていた。

 男たちのナンパから救ったあと、エルも一緒にデートすることにはなったのだが……相変わらずツンツンとしてそっぽを向いたままだ。

 少しは距離が縮まったかと思ったけど、それはまだ早かったか。


「あの、どうしましょうか。そろそろ――って、ん?」


 不意にそう声をかけてきたユーだったが、途中で辺りを見回して言葉が途切れた。

 訝しみ、俺も周りを見て、思わず絶句してしまう。


 ピンク色の看板の建物に、その中に入っていくカップルと思しき男女。

 そう。これは間違いない。俗に、ラブホテルと呼ばれるものだった。

 周りにはいくつも建っており、キャバクラのようなものや風俗のようなものまで並んでいる。


 三人で肩を並べて歩いている間に、いつの間にかこんないかがわしい通りに来てしまっていたらしい。

 ユーとエルの顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。


「あ、ああ、あの、グレイさん。そ、その、そういうことはまだ早いっていうか……い、いや、グレイさんがどうしてもって言うならわたしも、その……あ、でもその、そういう経験はないので優しくしてほしいっていうか……」


「お、落ち着け、ユー!」


 ユーは耳まで真っ赤に染まり、その目はぐるぐるになってしまっていた。

 錯乱しているとはいえ、少しだけ乗り気そうなのが逆に怖い。


 対するエルは、ラブホテルを直視したまま固まっている。

 口をぱくぱくして、声にならないようである。

 もちろん俺もだけど、二人とも耐性がなさすぎる。俺もだけど。


「あ、あんた! 知ってて、こんなとこに連れて来たんじゃないでしょうね!?」


「そんなわけないだろ!? ほら、とにかく戻るぞ!」


 我に返ったかと思うと、理不尽に怒鳴られてしまった。

 この街を見て回ったのは初めてなんだし、こんな通りがあるなんて俺が知っているわけないだろうに。


 ユーは頭から湯気が出そうなほど真っ赤な顔で錯乱しているし、エルからは赤面したまま怒鳴られるしで大変だ。

 だから急いでその場を離れ、もう夜になっていることもあって、拠点である家への帰路を辿った。



     §



 ユーが作ってくれた夕食に舌鼓を打ったあと、またすぐにエルは一人で風呂へ直行。

 その間、ユーは積極的に話しかけてくれたりはしたものの、エルのほうはだんまりである。

 心を開いてもらうというのが、ここまで難しいものだとは。


「……なあ、ちょっと気になったんだけどさ。召喚主(マスター)ってのは、俺以外にあと何人くらいいるんだ?」


召喚主(マスター)は世界中にたったの二十二人しかいないと言われてます。なので、グレイさんの他、あと二十一人ということになりますね」


「二十一人、か……」


 多いように感じられるが、何億と存在する人々の中で二十二人しか選ばれないのだとしたら、かなり少ない。

 だけど……俺は確信にも似た思考を手放せずにいた。


 そもそも、俺がこの世界に来たきっかけは――まず間違いなく、あのソシャゲだ。

 ゲームを開始する瞬間に、スマートフォンからあんなものが出てくるだなんて、どうしてもそうだとしか思えない。


 つまり。

 その二十二人の召喚主(マスター)、全員が――あのソシャゲが要因で、この世界に連れて来られた人たちなのではないだろうか。


 もし本当にそうなのだとしたら。

 あのソシャゲを俺に勧めてきたあいつも、この世界に来ている可能性が高い気がするのだ。

 咎めたり責めるつもりなど一切ない。ただ一緒に連れて来られているのだとしたら、やはり会いたいと思ってしまうのだった。


「他の召喚主(マスター)の居場所って分かったりしないのか?」


「あ、それなら……その痣の地図機能を使えば多少は分かるはずですよ。でも正確に、どこに誰がいるのかまでは分からないんですけど……」


 説明され、痣を撫でて液晶画面を出現させる。

 そして世界地図を表示させると、その国にいる召喚主(マスター)の人数のようなものまで記されていた。

 今俺がいる草の領域には、全員で四人。

 その中の一人は俺のことだろうから、他に三人だけこの国に存在しているということになるのか。


 どれが誰なのか分からない上に、この国にいたとしても広すぎて探すのはかなり困難だろう。

 もし別の国にいるのだとしたら海を渡る必要まで出てくるし、そもそもこの世界に来てすらいない可能性だって大いに有り得る。


 それでも、可能性が少しでもあるのなら。

 できる限り他の召喚主(マスター)を探し、あいつに会いたい。

 顔も声も何もかも知らない相手だけど、ずっとネット上で仲良くしていた友達だから。

 俺の中では、それくらい大きな存在になっているのだ。


 その旨をユーに話すと、当然と言うべきか驚愕し、少し渋るような素振りを見せた。

 無理もないだろう。何せ、かなり途方もない話なのだから。


「そんなに、大切な人なんですか……?」


「大切な人かって言われると分かんないんだけどさ……あいつは最高の友達だと思ってるよ」


「そう、ですか……分かりました。わたしは召喚隷(スレイヴ)ですから、召喚主(マスター)の意思は尊重します。問題はお姉ちゃんですけど……説得はわたしも手伝いますね!」


「はは、助かるよ」


 エルからは絶対に反対されるだろうし、説得は頑張らないと。

 数分くらいで済んでくれればいいのだが。


「でも、くれぐれも気をつけてくださいね? 召喚主(マスター)の人たちは、みんなグレイさんみたいに優しい人ばかりではないんですから。襲われる可能性だって……」


「ありがとな。でも大丈夫だよ、ユーたちだっているんだし」


「も、もう……そんなに信頼されても困りますよ。そのためにも……もっと強くならないと、ですね」


 少しはにかんだように笑うユーに、俺は深く頷いた。

 だから、まずはエルの心を開かせられるように頑張るか。


 何をどう頑張ればいいのかは分からないんだけども。

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