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拠点と愛情

「おお……」


 広大な草原を長時間歩き続け、俺たちはようやく街に到着した。

 様々な店や民家が建ち並び、老若男女問わずたくさんの人々が闊歩している。

 とても広く大きい街のようで、人々の喧騒でかなり賑わっていた。


「ここは草の領域の中でも、かなり大きな街ですから。拠点にするとしても、最適な場所かもしれませんね」


 隣でユーがそう微笑みかけてきたが、言葉の途中に気になる単語があった。


「草の領域って?」


「あ、この国のことです。森とか草原とかありましたよね? それは、この国を草の精霊が管理しているからで、草の領域と呼ばれているんです。他の国には土の領域とか炎の領域とか色々ありますけど、全て別の精霊が管理しているんですよ」


 得心がいった。

 全部でいくつ国があるのかは知らないが、各国に一人ずつの精霊が管理しており、その精霊によって呼ばれ方も土地までも違うようだ。


 俺はまだ、この世界に来てから間もない。

 これからも、ユーやエルには色々と教えてもらう必要がありそうだ。

 とはいえ、ツンツンしているエルはそんなに教えてくれるかどうか分からないが。


「早く家に行くわよ。自分の家の場所くらい、それですぐ確認できるから」


「え? ああ……」


 エルに促され、手の甲の痣を撫でる。

 そうして出てきた半透明の画面を指で操作していくと、確かに詳細な地図が表示された。

 家に着くまでの道を、しっかりと示してくれている。方向音痴にも優しく、凄まじく便利だ。


 その地図を頼りに、辺りを見回しながら街の中を歩いていく。

 色々と気になる店などもあったが、とりあえずは家に帰るほうが先だろう。

 草原があまりにも広く、気づけば空はオレンジ色に染まってしまっているし。


 そんなことを考えながら歩くこと、およそ十数分。

 視界の先に、ようやくそれを見つけた。


 見つけた……のだが、購入時に見た写真より、遥かに……何というか、その。

 小さい、気がする。

 俺たち三人でギリギリくらいだろうか。

 外観も決して綺麗とは言えず、周りの街の綺麗な光景と比べると何だか浮いているような感じすらしてしまう。


「うぇぇ……あたしたち、こんなとこで暮らすの……?」


「文句言わないの、お姉ちゃん。一応グレイさんに守ってもらったんだし、我慢しないと」


「守ってもらってなんかないわよ!? むしろ、あたしの剣で勝てたんだから、こいつには感謝してもらわないと――」


「お姉ちゃん。そんなワガママ言っていられないこと、まだ分からないかな」


「ひぅっ!? は、はい、我慢します……」


 ユーは変わらない微笑を浮かべたまま……のはずだが、その穏やかな口調ですら静かな怒気を孕んでいた。

 エルが涙目になってしまっているけど、正直俺もちょっと怖かった。


「あの、ごめんなさい、グレイさん。お姉ちゃんのこと、嫌いにならないでくれると嬉しいです」


「あ、いや。小さい家なのは確かだし、嫌いになんてならないから大丈夫だよ。もっとポイントが増えたら、広くしてみるか」


「はいっ、ありがとうございますっ!」


 ユーはぺこりと頭を下げる。

 怒ったときはちょっと怖かったけど、やっぱりいい子だ。

 あのランダムのガチャで出てきたのが、この子で本当によかったとすら思える。

 エルは……まだ俺に心を開いてはくれていないようだけど、それも仕方ないだろう。


 何はともあれ、扉を開いて中に入る。

 左にトイレ、右に風呂。奥にリビングと寝室。一応ベッドは人数分置かれていた。

 普通の生活に必要なものはとりあえずあるし、狭さにさえ我慢すれば大丈夫だろう。


「……ねえ、グレイ。絶対に変なことはするんじゃないわよ?」


 リビングの椅子に座って一息ついていると、不意にエルがそんなことを言ってきた。

 変なこと……年頃の男女が同じ家、同じ部屋で暮らすというのだから、そういう心配をしてもおかしくはないか。


「するわけないだろ。そもそも何だよ、変なことって」


「えっ? う、うるさい! あたしは風呂に入ってくるから、ユーはそいつを見張ってなさい」


「ちょ、ちょっと、お姉ちゃん……っ」


 ユーの制止の声も待たず、エルは一人で脱衣所に入っていった。

 困ったな……二人はこれから一緒に戦う仲間であり、言わば相棒のような存在なのだ。

 ユーのほうは心配いらないと思うが、エルが俺のことを認めてくれていなければ、勝てるものにも勝てなくなってしまう。


「色々と、ほんとにすみません……。あんなお姉ちゃんですけど、変わらずに愛情を注いであげてくださいね?」


「いや、大丈夫大丈夫……って、ん? 愛情?」


「あ、はい。わたしたち召喚隷(スレイヴ)は、召喚主(マスター)からの愛情を感じることで強くなっていくんです。どんなことで愛情を感じるかなんて、その召喚隷(スレイヴ)にも寄るとは思いますが……今までに感じた愛情が多ければ多いほど、召喚主(マスター)の武器となったときに強さが増すんです。なので、わたしたちが自分で戦うより、グレイさんが武器となったわたしたちを扱ったほうがいいんですよね」


 愛情により、強くなる……?

 あのときエルがキスを求めてきたのは、そういうことだったのか。

 確かにどういう行為で愛情を感じるかなんて人それぞれだけど、エルの場合は咄嗟に思いついたのがキスだったと。

 思っていたより何倍も、乙女なやつだ。


「わたしとお姉ちゃん、両方に愛情を注いでいただけると……二人分なので、少し強くなりやすくなってるんですよ」


 それは少しお得かもしれない。

 だからこその、LRというわけか。


 でも、生憎と俺は今までに彼女なんかもできたことがないのである。

 愛情を注ぐだなんて、一体何をすればいいのか分からない。

 俺が一方的に愛情を注いだつもりでも、召喚隷(スレイヴ)である二人がちゃんと愛情を感じてくれなければ意味がないみたいだし。


「あの、グレイさん。そこでひとつ、提案があるのですが……」


「……なんだ?」


 訝しみ、問い返す俺に。

 ユーはぐいっと顔を近づけ、その言葉を言い放った。


「明日――わたしたちと、で、デートしませんかっ!?」

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