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小船と爆発

「……こっち」


 ロコモはくんくんと地面や壁の匂いを嗅ぎながら、先へ先へ駆けていく。

 身体能力が高くて壁を駆け登ったりもしているため、ついて行くのが大変だった。

 というか、プラムに至っては何度も転んだり迷ったりしており、今ではダンに背負われている。


 それを繰り返し、やがて大きな港に辿り着いた。

 大小問わず船がいくつか停まっており、店なども並んでいてたくさんの人々で賑わっている。


「もしかして、海を渡っちゃったってことぉ……?」


 ダンの背中で、海の向こうを眺めながらプラムが呟く。

 何とか匂いを辿ってここまでは来れたが、もし本当に海を渡ってしまったのならこれ以上は追うことが不可能になってしまう。


 でも、ロコモは答えない。

 ただ真っ直ぐ、海へ向かって歩を進めた。


 そして頻りに匂いを嗅ぎ、きょろきょろと見回す。

 歩く。止まって匂いを嗅ぐ。

 何度もその動作を経て、とあるひとつの船の前で完全に足を止めた。


 それは、小ぢんまりとした船だった。

 客船ではなく、誰かが所有しているものなのだろうか。


「……この中にいる、と思う」


 淡々とロコモが言い、こちらを見て「どうする?」とでも言わんばかりに首を傾げる。

 とはいえ、本当にこの中にいるのなら、入る以外の選択肢は存在しない。


 でも、どうしてこんな船の中に留まっているのだろう。

 何かを待っているのか、これ以上は逃げる必要がないと判断したのか、それとも別の理由があるのか。

 まあ、どんな理由があろうと、入るしかないのだから関係ない。


 そう思い、船の中に入ろうとした――瞬間。



『……だめ』



 不意に、頭の中に声が聞こえた気がした。

 聞いたことのない、女性の綺麗な声。

 しかし、辺りを見回してもそれらしき人はいない。

 気のせいだろうか。何だか、やけにはっきりと脳内に響いたような気がしたのだが。


「グレイ君、どうかしたのか?」


「えっ? あ、いや……何でもない」


 怪訝そうなダンに問われ、俺は訝りながらもそう答えた。

 よく分からないけど、気のせいか何かだろうし気にするだけ無駄か。


 そう判断し、俺たちは意を決して船の中に入っていく。

 奥には、手足を縄で縛られ、口にも縄によって喋れないようにされているエルとユーがいた。

 俺たちが来たことに気づき、すぐ「んー! んー!」と喋れないなりに叫ぼうとする。


「ま、待ってろ、すぐに解く!」


 俺とロコモは駆け出し、二人で縄を解く。

 そこまできつくはなかったため、すぐに解くことができた。


 近くにリラたちの姿はないし、どうしてこんなところにエルとユーを放置したのかはさっぱり分からないが……二人が無事ならそれでいい。

 でも――口の縄を解いた瞬間、二人は突然叫び出した。


「な、何で来たのよ! 今すぐ逃げなさい!」


「お願いします……早くしないと、大変なことになるんですっ!」


 わけが分からない。

 助かって喜ぶどころか、この慌てようは一体何だ。

 もしかして、まだ俺たちの知らない何かが、リラたちによって仕組まれているのか――。


「グレイ君、早急に離れるぞ! この中はまずいッ!」


 何かに気づいたかのように、突如叫びだすダン。

 それと、ほぼ同時だった。

 船底から、カチッカチッと規則的な時計音が聞こえてきたのは。


 何の音かを問う余裕も、船の外に逃げる暇すらもなく。

 その時計音は徐々に大きくなり――僅か数秒程度で。


 耳をつんざく、大きな爆発音へと変わった。


 視界が、炎と煙、そして海に包まれる。

 全身が悲鳴をあげ、されど口からは一切の悲鳴は漏れず。

 体が海に沈んでいくのを感じながら、意識も闇に落ちていった――。



     §



「は~ぁ、これでいいわけ?」


「……ええ。ありがとう。これで、もう生きてはいないでしょう」


 遠くから炎上する船を見ながら、静かに笑む女性――リラ・アイボリー。

 その隣では、少女とも言える小柄な女性が退屈そうに眺めていた。


 ウェーブがかった綺麗な金色の髪は、腰の辺りまで伸ばしている。

 とても肌が白く、黒のニーソックスや黒を基調とした服を着ているため、余計に肌の白さが際立っていた。


 彼女の名は――カル・スコット。

 リラの、三人目の召喚隷(スレイヴ)である。


「あたしの爆弾だって、別にそこまで万能じゃないんだけどー……ま、あいつら弱かったし、どうせグレイとかいう召喚主(マスター)だって雑魚なんだろうし、今ので生き残れるわけないわ」


「これで、もう草の領域にいる召喚主(マスター)はわたくしだけ。であれば、もうこの地に滞在する理由もありません。別の国へ向かう準備をしましょう」


「はいはい。次は、もっと強い相手と戦いたいもんだわ」


「あまり調子に乗らないほうがいいですが。カルはHRなのだし」


「うっさい! レア度で判断するなって言ってるでしょうが! ふふん、あたしはLR以上の力があるわ」


「はいはい、そうですね」


「流すな、この陰湿メガネ!」


「何ですか、合法ロリ。あなたの実年齢、言ってさしあげましょうか?」


「何よ、その脅し! そんなものに屈するわけ――」


「さんじゅう――」


「わっ、ばか言うな! ごめんなさい許してあとで殺す!」


 わいわいがやがやと騒ぐカルと、あくまで冷静に返し、その場から立ち去るリラ。

 二人は、信じて疑わなかった。

 グレイたちが、爆発に呑まれ、もう死んでしまったのだと。


 召喚主(マスター)の痣から見ることのできる世界地図に、草の領域にいる召喚主(マスター)の人数が、三人から減っていないことにすら気づかず。

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