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火炎と本性

 全速力で駆ける。

 一刻も早く。一秒でも早く。

 休んでいる暇などない。どれだけ体が疲れようと、今の俺に関係はなかった。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 足を止め、息を整えながら建物を見上げる。

 その、紅蓮の火炎に包まれた店を。


 事故か、もしくは誰かの仕業なのか。

 いや、そんなことより、中にいたはずの人たちは今どうなっているのか。

 エルは、ユーは、ロコモは、ダンやアデリナは……みんなは無事なのか。

 何度、自問自答を繰り返そうと、答えなど返ってくるわけもない。

 この足で、様子を見に行かない限りは。


「プラムはここで待っててくれ。今から、俺が――」


「わ、私も行くっ!」


 上目遣いで、じっと俺を見上げるプラム。

 それだけで、分かった。

 当然、俺だけじゃない。ダンやアデリナもいるし、他の客だっている。プラムだって心配でたまらないのは、当たり前のことだ。


「分かった。気をつけろよ」


「……うん。くっついてていい?」


「あ、ああ、いいぞ」


 俺が頷くや否や、プラムは俺の右腕に両腕を回し、しがみついてきた。

 プラムの豊満な胸が少し当たってドキドキしてしまうが、今はそんな場合ではない。ないのである。


 炎の中を二人で歩く。

 熱で汗が吹き出す。

 辺りを見回し、人の姿を探す。


 一階には誰もいない。

 そうなると、あとは二階か。

 案の定、階段も炎に包まれ、所々が崩れてしまっている。


 再三の注意を払いながら、一歩ずつ慎重に、尚且つ急いで階段を上っていく。

 目指すは、俺たちが泊まっていた部屋。エルやユーやロコモがいるであろう部屋だ。

 店の中がこんなことになってしまっている以上、さすがにまだ眠っているなどということはないと思うが……念のためだ。


 周囲の炎で熱を帯びたドアノブを回し、扉を開け放つ。

 ……いた。

 部屋の中にいるのは、四人。


 炎に取り囲まれ、身動きが取れなくっているエルとユーにロコモ。

 そして――炎の外側から、三人を見ているアデリナだった。

 アデリナの手には、奇妙で大きな銃のようなものが握られている。


「……何だ、もう来たのかい。思ったより早かったね」


 肩越しにこちらを振り向き、見たことのないような笑みを浮かべた。

 俺の推測は、当たっていた。

 やっぱりアデリナは――召喚隷(スレイヴ)だったのだ。


「……アデリナ、さん……何、してるのぉ……?」


「何って、放火だけど?」


 プラムの震え声に、アデリナは何でもないことのように答えた。

 そうして、手の銃から火炎を放出し、壁を燃やし尽くした。


 銃。いや、違う。

 あれは、火炎放射器というやつだ。


「あたしの名は、アデリナ・ダイス。Rで、武器は火炎放射器の――召喚隷(スレイヴ)だ」


 火炎の放出を止め、こちらに背を向けたままそう名乗った。

 R……? その割には、あまりにも炎の威力が凄まじい気がするが……。

 これも、召喚主(マスター)から愛情を受けた恩恵というわけか。おそらく、あいつの。


「アデリナさん、何でぇ……?」


「決まってる。あんたら召喚主(マスター)召喚隷(スレイヴ)を――皆殺しにするためさ。先にあんたら二人を店から追い出すことで、先にこいつらを始末しようかと思ったんだけどねぇ……。やっぱり召喚主(マスター)召喚隷(スレイヴ)が一緒にいると、危険だからねぇ」


 ついに明かした本性。

 まさか、あの優しそうだった受付の女性が、内心ではそんなことを考えていただなんて。


「そんなぁ……アデリナさんが、そんな人だったなんて思わなくて……」


「当たり前だよ。ずっと隠してたんだから。でもバレたからにはしょうがない……ここであんたらを始末するしかないねぇ」


 最初からそうするつもりだったくせに。

 アデリナは、ゆっくりとこちらへ歩み寄る。

 あの三人の身動きが取れなくなっている今、俺に戦う術はない。


 考えろ。

 どうする。どうすれば、この危機を切り抜けることができる。


「安心しな。すぐに燃やし尽くして――」


 火炎放射器をこちらに向け、放とうとした瞬間。

 突如として、辺りに響き渡った。

 穢れた心さえも浄化してしまえそうな、綺麗な笛の音が。


「この音、もしかしてぇ……!」


 プラムがぱぁっと表情を輝かせ、勢いよく背後を振り向く。

 俺も次いで背後を見て、驚いた。

 いつの間にか、すぐそこに男性が立っていたのである。

 プラムの召喚隷(スレイヴ)――ダン・グラムスが。


「ダン……ッ!」


「……アデリナ。僕がいないときに少年少女を襲うとは、少々大人げない気もするが?」


 口から笛を離し、鋭い眼光でアデリナを睨む。

 そう言えば店の中に姿を見つけることができなかったが、今までどこにいたのだろうか。

 いや、今はどうでもいいか。

 これは間違いなく、紛れもなく、強力な助っ人だ。


「行こう、プラム。少女を救おう」


「うんっ」


 プラムは笑顔で頷き、ダンの大きな背中に両腕を回して抱きついた。

 瞬間――ダンの肉体は光の粒子となり、やがてひとつの笛の姿へと変化した。


 俺たちの場合はキスだったが、プラムとダンの場合は抱きつくことで武器になれるらしい。

 ダンは、それで愛情を感じるということだろう。何というか、逆に大人な感じがする。


「奏でるよぉ……清浄の調」


 笛に口をつけ、プラムは綺麗な音色を響かせる。

 刹那。三人を囲んでいた炎が、みるみるうちに消えていく。


 いや、取り囲んでいた炎だけではない。

 既に燃えてしまった部分が元通りとまではいかないものの、店を包んでいた紅蓮の火炎が全て消火されていった。


「お前ら、無事か!?」


 咄嗟に駆け寄る。

 エルはほっと安堵に溜め息を漏らし、ユーは涙目で俺にお礼を告げ、ロコモは無言で抱きついてきた。

 召喚隷(スレイヴ)とは言えど、普通の女の子に違いないのだ。怖くて当然だろう。


「チッ……けどね、こっちだってまだまだ燃やせるんだよ!」


 火炎放射器から、再度火炎を放出するアデリナ。

 しかし、それと同時にプラムが先ほどと同じ音楽を奏で、燃えた瞬間に火を消していく。


「……グレイ。私の力、使って」


 抱きついたまま、上目遣いでロコモがそう言ってきた。

 そういえば、仲間になってからまだロコモの力は使っていなかった気がする。

 ロコモはR、だけど相手もR。ちょうどいい機会だ、ここでロコモの力を使わせてもらおう。


「ああ、分かった」


 頷き、顔を近づける。

 そうして、ロコモと唇を重ね――。


 光の粒子となった直後にスタンガンの姿へと変わり、俺の手に納まった。

 R同士の勝負が始まる。

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