電撃と斬撃
血飛沫が、飛び散る。
視界が、真っ赤に染まっていく。
全神経が、激痛のみに支配される。
「……ぐ、ごほ……か、ぁ……ッ」
口から血を吐き出し、声にならない声を漏らしながらその場に蹲る。
ジャマダハルは既に俺の腹部から離れ、ボルドーの手元にまで戻っていた。
「やりましたね、ボルドーさん」
「ああ、上出来だ。これでもう、動けやしねえだろ」
背後から、ジャマダハルの姿のクーコとボルドーの会話が聞こえる。
だけど、そんなことを気にしていられる余裕など疾うになかった。
力が徐々に失われていき、視界が霞む。
頑張って意識だけは保とうとしていたものの、あまりの出血量と激痛で、それももう限界が近いようだった。
「く……そ……」
最後にそれだけを漏らし、俺はうつ伏せに倒れてしまう。
もう一ミリも、動ける気がしなかった。
これ以上、痛みに抗える気がしなかった。
「はっ、意外と呆気なかったじゃねえか。だが悪いな、お前の召喚隷は俺様が貰っちまうぜ」
ボルドーの足音が近づいてくる。
それとは逆に、俺の意識は徐々に薄まり、遠くなっていく。
「し、しっかりしなさい、グレイ! このままだと本当にあんた……」
エルが、赤い剣の姿のまま叫ぶ。
いつも聞いていた怒鳴り声が、今の俺には何だか子守唄のようにも感じられて。
闇に沈んでいく意識を、取り戻すことはできなかった。
「そんじゃま、これでお別れとしようぜ。じゃあな――愚者さんよッ」
ブンッと風を切る音が聞こえる。
そして、ジャマダハルの刃が迫る気配がして――。
刹那、耳を劈いた奇妙な音に、俺の意識は再びはっきりとしてきた。
何だ、この音は。
ビリビリと、まるで電撃のような――。
ゆっくりと、顔だけを後ろに向ける。
そこに広がっていた光景に、驚愕に目を見開き、思わず絶句してしまう。
さっきまで、少し離れた位置で俺たちの戦闘を眺めていたロコモが。
俺とボルドーの間に立ちはだかり、手に持ったスタンガンでジャマダハルの攻撃を防いでいたのである。
ビリビリバチバチと、スタンガンから稲妻のようなものを走らせながら。
ロコモの武器は、スタンガンだったのか。
でも、スタンガンと言うには、あまりにも電圧が強すぎる。
「……おい。何してんだ、お前。誰が召喚主か、忘れたんじゃねえだろうな?」
「……分かってる。でも、この人はやらせない。殺しちゃ、だめ」
ロコモの小さな声を受け、ボルドーは少しだけ距離をとる。
更にロコモも、少しだけ後退した。
「ああ!? Rとかいう雑魚のくせに、出しゃばってんじゃねえ!」
「……この人は! 私がRだってことを知っても、助けようとしてくれた。気絶させた私を怒るどころか、敵なのに救いの手を差し伸べようとしてくれた。だから私は、あなたよりこの人について行きたい……っ!」
「てめえ……言うようになったじゃねえか。いつも何考えてんのか分かんねえ無表情してやがったくせによ」
ああ、そうか。
それが、ロコモの本心か。
だったら俺も――それに応えないとな。
ここで負けたら、エルとユーだけでなく、ロコモの意思にまで背くことになってしまう。
それは、だめだ。
何より俺の、意志が許さない。
力が戻ってくる感覚がした。
二振りの剣の柄を強く握り締め、ゆっくりと立ち上がる。
「グレイ、さん……?」
ユーが困惑した声をあげる。
俺自身、どこからこんな力が沸いてくるのか分からない。
だけど、そんなことは別にどうだっていい。
今この瞬間。
みんなを守るために、戦うことができるのなら。
「……ッ!?」
一閃――。
振り向きざまに剣を振るい、ジャマダハルがそれを受け止めた。
つい先ほど、ボルドーは少しとはいえ距離をとった。
つまり、俺の剣が届く範囲には今いないのである。
では、どうしてジャマダハルが受け止めることになったか。
単純な話だ。
カンナとの戦闘中と同様、赤と青の剣にはそれぞれ同色のオーラが纏ってあり。
そこから、肉眼でも目視できるほどの斬撃を飛ばしただけに過ぎない。
自分でもどうしてできるのかは分からないが。
きっとこれも、召喚主になったが故の本能的なものなのだろう。
「チッ……何だ、お前。何でピンピンしてやがる!?」
「さあな。お前に、イラついたからかもな」
静かに答え、勢いよく駆け出す。
そうして、二振りの剣を用いて、次々と斬撃を浴びせていった。
「くッ……さっきより一撃一撃が重くなってやがる……調子に乗ってんじゃねえぞッ!」
叫び、再びジャマダハルの刃をドリルのように回転させた。
だが今度は独りでに動かしたりはせず、そのまま俺の肩を目がけて突いてきた。
だから俺は、剣で下から上に斬り上げ――ジャマダハルを吹っ飛ばした。
「な……ッ!?」
驚愕に表情を歪めるボルドー。
しかし、それでも俺は動きを止めたりなどはしない。
生じた隙を見逃してやるほど、今の俺はボルドーなんかに優しくはなれなかった。
「お前は一生癒えない傷を抱えながら、ずっと反省してろッ!!」
二つの剣を交差させた、赤と青の斬撃。
胴体に直撃したボルドーが、無事でいられるわけもなく。
「ぐ、がはァ……ッ」
口から血を吐き出しながら、遥か後方に吹っ飛んでいった。
そうして仰向けに倒れたまま、ぴくりとも動かなくなった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
勝った。
そう認識した途端、一気に疲労や痛みなどが襲ってきて、俺はその場で膝をつく。
少し、無理をしすぎたかもしれない。
「グレイさん、大丈夫ですかっ!?」
エルとユーは人間の姿に戻り、心配そうに声をかけてくる。
だけど、俺はそれに答える余裕すらもうなかった。
視界がぼやけて揺れる。
上下も左右も分からなくなり、息がどんどん荒くなっていく。
エルとユー、そしてロコモを救えた。
体の激痛や疲労は大きかっただろうが、その安堵からもあったのだろう。
気づいたときには、俺はうつ伏せに倒れ――。
ぷつん、と糸が切れたみたいに、呆気なく意識が途絶えた。
俺の名を呼ぶ声や、心配そうに叫ぶ声を耳にしながら。




