☆灰と赤
「うぐおおあああ……」
とある休日の昼間。
自室の床に這いつくばって、そんな奇妙な唸り声を発している男がいた。
というか、俺なのだが。
服装は、いつもの私服。
片手には、スマートフォン。
そしてその画面には、とあるソーシャルゲームのタイトルが映し出されていた。
更に、タイトルの下には――。
――『サービスを終了いたしました』という無慈悲で残酷な文字が。
当然、数ヶ月ほど前からサービス終了が近いことは発表されていた。
それから毎日忘れることなくプレイを続けていたのだが、ついにこのときが来ようとは。
悲しすぎて涙が止まらない。俺の唸り声も止まらない。
俺――桜河灰は、大のソシャゲ好きである。
まだ未成年の大学生だが、バイトをしてお金を稼ぎ、少しずつ課金までしている。
それくらい愛情を注いできたゲームが、こうしてサービス終了するとなれば、やはり涙くらい流して当然だろう。
涙を手の甲で拭いながら上体を起こし、ソシャゲの画面を閉じる。
すると――一件、SNSの通知が来ていることに気づいた。
開いてみれば、俺のフォロワーの中でもかなり親しい人物からのメッセージだった。
『サービス終了、残念だったねー。ボクも結構課金したんだけどなあ』
アニメキャラのアイコン、ボクという一人称。そして俺との会話や、呟きの内容。
などなどから、勝手に俺より少し年上の男性だと思っているが、実際の性別や年齢は一切知らない。
もちろん本名も、住んでいる県も、何も知らない。
だけど、そんなことは別にどうでもよかった。
あくまでネット上の友達であり、共通の趣味がたくさんあるおかげで、話しているだけでとても楽しいから。
『そうだな、さっきまで泣いてた。いや今も泣いてる』
『そうだと思ったw そんな君に、ちょっとした話を持ってきたのであるー!』
『話?』
文字を打ちながら、無意識に首を傾げてしまう。
こいつが持ってくる話なんて、面白いアニメがあるとか、面白そうなゲームが出るとか、そういうのばかりだったけど。
訝しみながら待つこと、数分。
送られてきたメッセージには、とあるURLが貼られていた。
『新しくリリースされたソシャゲだってさー。ボクもやるつもりだから、一緒にやろーよ』
新しいソシャゲか。
貼られたURLから公式サイトへ飛んでみれば、リリース開始日が今日と記されていた。
武器でのアクションがメインとなり、使用するキャラによって武器アクションが異なるらしい。
なるほど、確かに面白そうだ。
『分かった。今から始めてみる』
『おおー、そう言ってくれると信じておったぞー! ボクも今から始めるから、フレンドなろーねー』
『おけー』
そこでやり取りを中断し、公式サイトからインストールを始める。
完了してすぐにゲームを起動すると、名前の入力画面が表示された。
俺の名前は『灰』だ。
灰色を英語にした、『グレイ』という名前をずっと使っている。
しかし、今度は苗字を入力してくださいという表示が。
仕方なく、『桜河』という苗字を少しだけ変え、『オーカー』と入力した。
完了を押し、
ようやく、
ゲームが開始され――。
突然、左胸に激痛が走った。
おずおずと、視線を下に下ろしていく――と。
スマートフォンの画面から伸びた、鋭利な手のようなものが。
俺の左胸を、貫いていた。
止めどなく血が溢れる。
胸からも、口からも。
脳を激痛が支配し、全身から力が抜けていく。
そうして、血で赤く染まった床に倒れ。
俺の意識は、闇の中に落ちていった――。