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RPGになるということ

RPGといったらスライムかゴブリンだよね。

 『あーテステス。聞こえていますかー、きーこーえーてーいーまーすーかー?

 よし! 二回も確認したし聞こえてますね、そうですね!』


 頭になり響くような不思議な声だ。10代後半だろうか。声的には年齢が近めな気がする。


 『皆さんには今からあーるぴーじーをしてもらいます。選択権は特にないです。頑張ってください』


 そんな一方的な発言をしたら、その声はもう響かなかった。


 何を言っているか分からなかった。だけど、台風のような突風と共に巨大な龍が校舎の上空を横切ったのを見たとき――

 西洋で言われる龍で、その体躯は果てしなく校舎全体と比べても更に大きい。

 あんな化物(いきもの)を見たことない。いや、あんな生き物がいるなんてあり得ない。


 だから、この世界は変わってしまったのだと理解した。そして、心臓が力強く鼓動する。世界の変革を本能が感じ取ったのか、生まれてこの方感じたこともないような感覚が駆け巡る。体が歓喜の産声を高らかに上げるのが分かる。そして、感じた。思った。


 この世界は何だか楽しそうだ。


 ーーーー


「ぎゃぎゃぎゃ」


 変な笑い声だ。そいつは音もなくいきなりそこにいた。ゴブリンだ。そう呼ぶしかないような小柄な体躯に薄汚れたような緑の肌。棍棒を酒瓶を持ち歩くかのごとく掴む。本当にRPGによく出てくるステレオタイプのゴブリン。


 屋上には僕を除けば、ゴブリンと僕を虐めている三人組のヤンキーグループしかいない。正直名前は知らない。チビデブノッポと呼んでいる。分かりやすいし。


「なんだこいつ?」


「俺知ってるぜ! これゴブリンだ! ゲームとかで良く見るもん!」


「はぁーん。一丁前に武器なんか持ってやがるぜ」


 デブが舐め腐ったようにゴブリンの頭を無造作に掴む。怖いもの知らずかよ。


 グシャ


 ゆっくりと耳にこびりつくような不快な響きの音だ。


「ぎゃああああああ!!!」


 いきなりゴブリンが棍棒でデブの膝を砕くものだから、その場にいた全員が固まる。そんなことされるなんて微塵も思わなかった。曲がってはいけない方向に曲がる足を見て脂汗が滲み出るのを感じる。


 グシャリ

 また不快音。足を押さえて悶え苦しむデブの頭に棍棒が叩き込まれ、ピクリとも動かなくなった。


「あああああああああ!!!!!!」


「か、かず! 嘘だろ!? 嘘だよな!?」


 動かなくなったデブを抱え込む二人。突然の出来事に理解が追いつかない。

 さっきまで、死ぬようなことが起こるなんて微塵も考えていなかった。


 あ、今度はノッポの頭に棍棒が叩き込まれた。後頭部に棍棒がめり込んでる。あれは、即死だ。考える暇もなく二人死んだ。殺された。


 何でだ?


 理解が追い付かない。何でこんなことが起きてる?だって、ついさっきまで陰湿な虐めこそあれど殺しのこの字すらなかったはずじゃないか。

 世界がRPGになったから?


「ぎゃぎゃぎゃ」

 ゴブリンが規則性のある奇声をあげる。あれは多分笑みだ。しかも、残虐的な方の。まるで、子供が蟻を潰すような笑み。なんの抵抗も出来ずに殺されていく僕らはゴブリンにとって蟻となんら変わらない。


「ひっひぃいいいいいい、く、くるな! くるなくるな!!!」


 尻餅をついて、後ずさるチビ。目尻から涙がにじみ出ている。

 ゴブリンに容赦はなく、棍棒をぶら下げてゆっくりとチビの方に向かう。わざとゆっくり歩いて怖がらせているようにしか見えない。


「くそったれぇえええええええ!!!!」


 やけくそに叫び、懐からバタフライナイフを出して突撃するチビ。


 グシャ


 だけど、その健闘もあっけなく棍棒で地面に叩き込まれてしまった。

 あっという間に三人も殺された。なんだよ……なんだよこれ。


 足元に転がってきたバタフライナイフが目に入る。ゴブリンは僕に背を向けていて、まだ気づいていない。胸が苦しい。締め付けられるようだ。


 こわい。でも、やらなきゃ。

 人殺し。いや、人じゃないか。じゃあ、ゴブリン殺し?あぁ、やばいこっちに振り向く。そしたら終わりだ。

 今ならやれる。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 うるさい。


 いや、違う。


 煩いのは僕だ。これ、僕の声だ。


 ゴブリンの瞳は驚愕の色に染まっていた。言葉はたぶん通じないけど、理解る。

 その瞳は『そんな馬鹿な』と物語っていた。彼も自分の命がこんなところで潰えるなんて思っていなかったのだろう。 

 ゴブリンはうつ伏せに倒れた。まだ、生きている。生きようとしている。なんとか逃げようとしている。

 地面を血で汚しながら這いずり移動したが遂には動かなくなってしまった。


 なんだよこれ。なんだよ。全然楽しくない。全然楽しくないよこれ。肉の感触をナイフ越しに初めて味わった。手が震える。



 『レベルアップしました』

 『初めてのモンスターを倒したことでステータスを獲得。スキル【解説(ナビゲーション)】獲得』

 『最適化。本人が使用する機器で最も使用頻度が高いものでステータス確認及びその他機能が使用可能』

 『モンスターが出現してから一時間以内に討伐をしたため称号【決断者】を獲得』


 なんだよこれ。頭に鳴り響いてうるさいな。でも、最初の声とは違うな。なんというか事務的な音声というか。


 最適化ってなんだ?そもそもステータスってなんだよ。本当にRPGなのかな?

 使用頻度の高い機器と言われるとスマホぐらいしか思いつかない。スマホに電源を入れると見慣れないアプリがあった。



 開くと『ようこそ』と文字がポップアップした。なんだいかにもみたいなこのポップアップは。もうちょっと装飾つけるとかして盛り上げて欲しいなぁ。個人的には『HELLOWORLD』みたくお洒落な感じにして欲しい。



 ステータス

 所持品

 スキル習得

 ガチャ

 ショップ


 え?ガチャ?ガチャ引けるの?

ガチャ引きたいです。GoogleかiTunesカードが欲しいそんな思いを込めた小説です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の空元気のお陰か、胸糞なシーンでも陰鬱な気持ちにならずに最後まで読めました。 [気になる点] ゴブリンを殺して動揺しているはずなのに、その後の主人公の呑気さに違和感を感じました。 […
[気になる点] 最適化。本人がする機器で最もな使用頻度が高いものでステータス確認及びその他機能が使用可能 最適化。本人が使用している機器で最も使用頻度が高いものでステータス確認及びその他機能が使用可…
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