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6 待遇改善したいから質問させて?


「そんなこんなで、労働力は余ってるみたいです」


 奴隷仲間に意見を聞いた日の夜。俺は早速領主であるクルシュ様に報告をしていた。余っている労働力が適切に使われれば、クルシュ様の負担も少しは少なくなると思うんだけどなぁ。

 今日のクルシュ様は、昨日のアドバイスが効いたのかあまり体を締め付けないふんわりとしたワンピースを着ていた。そういう格好も似合うんだなぁと感心してしまう。


「対価がでかすぎるだろう。却下だ。

 奴隷が逃げ出すリスクが高すぎる」


「んー…確かに『絶対に逃げない』とは言えないのが辛いところですが…。

 じゃあ、普通に美味しい食事とかでダメですかね?

 肉体労働の場合タンパク質…肉とかの栄養が足りないと長持ちしませんし」


 あんまり長持ちとか言いたくないけど、説得するならこう言った方が効果的だろう。


「確かにやらせてみれば計算が得意な奴隷もいるだろう。しかし軍の機密に関わるようなことを男にさせてはいかんという法律がある。そこはいくら領主といえどもまげられない」


 男に武器を取らせるな、というのがこの国の根幹にある思想のようだ。確かに、大きな力を持った男が暴走した例は腐るほどありそうである。しかしながら、女が権力に溺れなかったかというと、別問題だとは思うが。

 とはいえ、その辺りをクルシュと論じていても現実は変わらない。


「なるほど。では、武力に関わらないもの…例えば税収の計算などであれば男に任せてもいいのでは? それだけでも大分雑務が減るでしょう?」


「まぁ…そうだが」


「あとは希望者がいれば、料理をやらせるというのもありではないでしょうか」


「料理を?」


「はい。美味しいものが食べたければ自分で作ってみろ、ということですね。うまくすれば 男たちが率先して新しい作物の栽培などにも着手するかもしれませんし」


 正直に言えば一番の武器は知識だと思う。それを男から奪って、なんとなく惰性でいきるように仕向ければ、とりあえず女権国家が成り立つのはわかる。

 しかし、領主であるクルシュの負担を減らすためには、仕事の分配が最重要任務なはずだ。

 それと、男奴隷たちの待遇改善にも繋がるかもしれないという期待もある。

 リック自身が腹上死とかいう非業の最期を遂げないように、それとなく男奴隷の地位を格上げしておきたのだ。


「ふむ…」


「他にも男たちにある程度の仕事を任せれば、適正を持ったものも出てくるかもしれません。かく言う自分がそうですね。あの中で裁縫を担当してましたから」


「お前は特殊な例だろう」


 自分と言う具体例をあげたのだが、そこはバッサリきられてしまった。

 知識においては確かに前世の記憶持ちという時点で特殊かもしれないが、能力においては他の男たちとなんら変わらないはず。むしろ腕力などは大いに劣る自信があるのだが。


「しかし…労働を欲しがるとはな」


「例えばなんですけど…。これからクルシュ様が妊娠したとしましょう?

 その際に『不測の事態が起こってからでは遅い。寝室から出るのを禁ずる』なんてことになったらどう思います?」


「は? まぁ、あり得なくはないが…その際は書類仕事をすることになるか」


「それも母体のストレスになるので禁止、と言われたら?」


「なにもできないではないか! 産まれるまでずっとそんな状態であれば逆にストレスがたまるぞ!」


「はい。何もすることがなく、時間が流れるのを待つというのはある意味贅沢かもしれませんが、本当に退屈でストレスがたまるんです」


「…なるほど。男奴隷たちはそのような状態だ、と」


「幸いというか、彼らは娯楽を知りません。一番の娯楽が美味しい食べ物、くらいなんでしょうね。

 衣食住は満たされているので反抗する気はまるでない、というのは素晴らしいことかもしれませんが、彼らは毎日無為に過ごしているような徒労感があるのです」


「種奴隷にでもならせればよいか?」


「えーと…それもあまり人気ではありませんでしたね。

 それこそ種奴隷は妊娠をさせるだけで、育てることもないでしょう? そして男の子が生まれれば自分と同じ境遇です。

 その上自分自身が死ぬ可能性もあるとすればやりたくないのも当然ですよね」


「…そ、そう言われれば、確かに」


「子育てを男がやる、というのもアリかもしれませんよね。

 誰がどんな適正を持っているかわかりませんから」


「しかし、料理や裁縫、書類仕事ならともかく子育てに間違いは許されないぞ」


 この時点で書類仕事の間違いもある程度なら多目に見てくれる上司であることがうかがえて、ちょっと羨ましくなったのは内緒の話だ。


「それこそ分担したらいいと思いますよ。

 この国を担っていく女の子にきちんと教育したいのであれば、それ相応の知識を持った人がやるのがいいでしょう。

 でも丈夫な体になれるようにと走ったり遊んだりするのは、男たちでもできるのではありませんか?」


「なるほどな」


 そういうと、クルシュは黙って考え込む。

 こういうときはあまり言葉をかけない方がいいだろう。

 彼女の中では今まで考えもしなかった発想であるのは想像に堅くない。であれば、彼女が自分で考えをきちんとまとめるのを待った方がいい。

 あとその隙にさっさと寝て逃げたい。

 連日の“お務め”は正直体に堪える。主に、腰に。


「こちらの方でもいきなり男が出張ってくるとなれば良い感情を持たない者も出てくるだろう。しかし、それでも手が足りないのは事実。まずは簡単な雑用から…。

 って、おいキサマ主を放って寝るとはどういう了見だ! おい!」


 気づかれてしまったが狸寝入りは続行だ。

 正直叩き起こされることも想定していたが、彼女はしばらくして諦めてくれたようだ。

 

 こうして俺の安眠は守られたのである。…明日大分どやされそうだが。


閲覧ありがとうございます。

少しでも面白いと思っていただけましたら、ブクマや評価よろしくお願いします!

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