2 見初められたけど質問ある?
そんなこんなで現代日本の社畜ライフよりもよっぽど快適な奴隷ライフは、かれこれ数週間続いている。
日の出とともに起きて朝のお勤め。これは大体飼っている家畜とかの世話。
その後朝飯を食って、家畜と一緒に畑耕したり荷物運んだり。そんなこんなしていれば大体昼食の時間で追加仕事がない日はこれで終わり。仕事が遅くなっても夕飯までには終わる。夕飯の時間を超えても仕事があったのは、なんかお偉いさんが来るとかで屋敷を全部模様替えした時くらいだろうか。
きついのは肉体労働がずっと続く日くらいだが、裁縫のおかげで周りが助けてくれるからなんとかなっている。
で、お楽しみの自由時間だが、他の奴隷はワーカーホリックなのか仕事がないとつまらなさそうだ。どうやら、時間をどう潰していいかわからないらしい。三食夕寝付き奴隷みたいなもんだから皆寝てたりする。仕方ないよな、一応奴隷という身分だから酒飲んだりとかの楽しみないし。娯楽だってない。
俺の場合は、裁縫や読書をしている。で、その合間に奴隷仲間向けの暇潰しとして昔話なんかを披露してたりする。ちょっとした吟遊詩人気分だ。といっても俺が知ってるのは日本昔話とかイソップ童話とか、その辺りなんだけどこれが意外とウケた。仲間に娯楽を提供して円滑な人間関係を育むのも悪くないもんだ。
あと、奴隷達は読み書き算術がまるでダメな連中も多いから、そいつらに教えたりもしている。そんなん知ってどうすんだよってやつには教えてないけど、これも意外と需要があるみたいだ。とはいえ俺自身この世界の文字(話してる言葉は日本語だと思うんだけど、書き言葉は全く違う)の勉強中の身だから偉そうには教えられないんだけどな。
今日もそんな、いつも通りの一日が始まる、と思っていたのだが。
「おい、リックってのはどこにいる?」
「はい、リックは俺ですけど」
奴隷達が自由時間を過ごす奴隷部屋に、見慣れない女性が入ってきた。かなりの美人で、掃き溜めに鶴とはまさにこの事かって感じ。実際問題、奴隷部屋は俺が掃除するようになってからは多少マシになったけど…まさに掃き溜めって感じだった。掃除機欲しい。出来れば全自動の。
まぁそういう事情の要するに汚い場所に現れた美人さん。身分最底辺な奴隷の俺にとって、女性は全員上司である。名前を呼ばれたら名乗り出ないわけにはいかない。
…俺、なんかしたっけ?
「オマエは読み書きができると聞いたが本当か?」
「まだ勉強中の身です。先日廃棄した本をいただいたので、それで」
「ふむ。では、奴隷たちに算術を教えていると聞いたがそれは?」
「それは本当です。
たまーに買い物行くときに、おつり間違えたらもったいないんで」
「仕事の環境改善もしていると聞いたぞ」
「楽に仕事できれば嬉しいですし、部屋はキレイな方が疫病とかも流行りにくいですよね」
「……なるほどな」
内心ビクビクしながら、けれど表面上は取り繕って平然と答える。圧迫面接だ、もしくはモンスタークレーマーと思え。ビクついたら飲まれて負けるぞ!
何に負けるかは知らないけど。
そんな俺の心情を知ってか知らずか、彼女は俺の頭のてっぺんから爪先まで余すことなくジロジロ見てくる。
「かなり汚いな…」
本当の事言うのはやめてくれー!
気にしないようにしてるけど、この場所も俺も汚いのは本当なんだ。
奴隷には当然のごとく風呂はないし、近くに川とかもないしさー。比較的きれいな端切れを濡らして体拭くくらいしかできないんだって現状。まぁ、奴隷仲間でそんなんしてるのいないけど。
つまり、奴隷の中では俺が一番マシなはずなんだけど、それでも上流階級の女性から見たら汚いのも仕方ない。とはいえ、言われると傷つくよ流石に。
「そうですね。奴隷に風呂とかありませんから。
この環境って病が流行ったら一発アウトだと思うんですが…」
一縷の望みをかけて、風呂作ってアピールをする。すると、彼女は興味深そうに笑った。
「知識もあり、度胸もまぁまぁのようだな…ふむ。
気に入った。おい、お前らコイツを身綺麗にさせろ。新しい種にする」
「へっ?」
なんだ? 種って…。
唐突な展開に意味が分からなくなり、周りを見渡す。すると、気の毒そうな顔をしている奴隷仲間が目に入った。
なに? 何が起きるんだよ!
「達者でな、リック。作ってもらったもんは大切に使うからよぉ…」
「えっなになに、どゆこと?」
「心配するな。ちょっと命の危険があるだけだ。
おい、連れてけ」
「えっえっ!? どういうことー!?」
混乱している間に、強そうな女の人たちに囲まれてあれよあれよと連れていかれる。流石に奴隷の身分で逆らうわけにもいかず(というか女の人たち俺よりも強そうなんだよな…)ついていくと、そこは風呂場。うん、シャワーとかあるわけじゃないけど、たぶんそう。
そこで裸にひん剥かれて、女性たちにありとあらゆる場所を洗われた。
うん、ほんと、ありと、あらゆる、ばしょを。
…もうお婿にいけない。いや、婿になりたい願望があったわけじゃないけれど。
その時点で俺は茫然自失状態。作業がやりやすくなったと笑う女性たちに全てをさらけ出し、全裸のままででかいベッドのある部屋にいれられた。
「とりあえずそこでお待ちくださいな。時間が出来次第領主さまがいらっしゃいますから」
「あ、はい、え? 領主様?」
ちょっと待ってほしい。
誰か俺の質問を受け付けてくれ。
閲覧ありがとうございます。
少しでも面白いなと思っていただけましたらブクマや評価をよろしくお願いいたします。
また誤字脱字の指摘や感想も大歓迎です。