1奴隷だけど質問ある?
見切り発車作品。書き上がれば本日23時2話目更新予定。
某月某日、この物語の主人公、平野栄太は死亡した。
まだまだやりたいこともあったような気もするけど、長生きしても仕方がなさそうな現代日本だったし「まぁしゃあないか」と思ったのが前世の最後の記憶である。
そう、前世の話。
それはつまり今世があるということ。ラノベで流行の転生とかいう奴である。
ラノベで流行っているとはいえ、自分自身がそんな境遇になるとは思わなかった。
それで何に転生したかというと…。
「ほら、キリキリ働きな! 飯抜きになるぞ!」
奴隷である。
人の形をした家畜。人権無視。24時間働けますか。
あ、これ死んだ。現代日本で社畜やってたけど、まさかガチ奴隷になるとは思わないじゃないですかーやだー。
と、思っていたのが数日前のこと。
「あ、そっちの方は終わりましたよ。手が空いた奴にはあっちの方も片付けに行きましたっていう報告をしにきました」
「お? そうか。オマエ新入りだったか? 馴染むのが早いな?」
「ははは、ありがとうございます」
「あ、じゃあ悪いが、あっちのゴミも処理場まで持ってってほしい。
もしまだ使えるモノがあれば持ってってもいいという話だ」
「あ、ありがとうございます。じゃああちらが片付き次第ゴミの分別と処理してきますね」
こんな具合だ。気さくなお目付役に手を振られ、持ち場へと戻る。
奴隷の仕事は、言いつけられたノルマさえクリアすればあとはフリー。そしてそのノルマもやればきちんとこなせる仕事量だ。ごく稀に繁忙期もあるが基本はきちんとやれば終わるもの。その上、こうやってたまにおこぼれにも預かれるという寸法だ。
ちょっとは見習って欲しい現代日本。一生懸命やっても終わらない仕事量というのは明らかに人員不足だと思うぞ。
衛生状態が現代日本よりもよろしくないとか、一人部屋がないとかそういう不満はあるが、奴隷ならそんなもんだろう。女性がこんな環境に落とされれば少々キツイかもしれないが、ここではそんなことはない。
この世界で奴隷と言えば、それは須く男だからだ。
奴隷という身分上、簡単に情報収集などできないため正確な知識はない。
だが、この転生した体にあった知識によると、どうも今いる国は女尊男卑国家…いや、女権国家という方が正しいか。とにかく、そういう国らしい。
国の政治を仕切る王は女性でその周りの側近だの大臣だのも女性がほとんど。男は一番下が奴隷、上が国境警備、ごく稀に政治に食い込むと言った具合。
ちなみに先ほど話していたお目付役も女性だ。そのせいか奴隷に対する心配りもきちんと行き届いている…気がする。いや別に男性上司にウラミツラミネタミソネミがあるわけでは…あるけど。イヤな思い出とか腐るほどあるけど。
まぁそんなこんなでこの体…リックと言う名前らしい。リックの体に転生してきてから、奴隷ではあるモノのそこまで不自由な生活は送っていない。今日もきちんとノルマをこなし、奴隷仲間たちにお目付役からの伝言を伝える。
一人でおこぼれに預かるとあとからめんどくさそうだからな。
「お前、持ってくのそんなんでいいのか?」
「破けていても文字の勉強にはなるからなぁ」
奴隷仲間たちと廃棄物を漁る。大当たりは破けたシーツとかで、裁縫がうまい奴がいれば頼んで繕ったりしている。というか、その裁縫が出来る奴って俺なんだけどな。この前の廃棄物から偶然古くなった裁縫箱を発見したので、奴隷仲間の中で繕い業も承っている。流石に服を仕立てるとかはできないが、簡単な風呂敷バッグのようなものならチクチクやればなんとかなる。そういう特技があるお陰で新入り奴隷だけれどいじめられたりはしていない。むしろ、男奴隷にしては体力がないので色々助けて貰っていたりする。…これでも筋肉は以前よりついたと思うんだがな。
話がそれた。
今回の廃棄物からゲットしたのは廃棄された本や書類だ。
ノルマを終えた奴隷は基本的にフリーだ。暇すぎて奴隷部屋の近くの庭を借りて栽培とかしてるやつもいたりする。フリーダムか。でもちゃんと許可を貰ってきてるのが面白いところだ。
また話がそれたが、ちゃんとノルマを終えた奴隷には時間がかなりある。
だが、現代日本と違って暇つぶしのスマホゲーはない。
じゃあ何をやるか。悩んだ末に俺は裁縫をやっていたが、それも飽きがくる。あと指痛い。
なので、この世界の文字でも学んでみるか、と思って破けた本を貰ってきた次第だ。
「ふーん? そんなもんかね?
あ、リック! あとでゲットした布でなんか作ってくれや」
「なんかってなんだよ…。まぁ力仕事手伝って貰ってるし全然いいけどさ」
「この前荷運びできる袋みたいなの作ってたじゃねぇか。ああいうのがあったら荷運びの時とか便利じゃないか?」
「荷運びなぁ…それなら布だけより木材とかと合わせて…背負子とか? 担架みたいなのあった方がいいんじゃないか? シーツで作っても破れるだろ」
「ショイコ? タンカ…? なんだそれ?」
「あーうん。明るいうちに試作してみるか」
実際に作ったことはないけれど、なんとなく雰囲気で試作くらいはできるだろう。
こんな具合に心配りをしてくれる女上司と、気さくな男同僚と一緒に奴隷ライフを送っている。文字はまだなんとなくしかわからないけど、まぁ時間はかなりあるのでいつかは読めるようになるだろう。
そう考えていた時期が俺にもありました。
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