VRMORPG
学生になって何かしたいようなことがった。――青春とやらを味わいたい、堪能したい、感動したいという気持ちが胸のなかで舞い踊っていた。
…けれど、現実は悲惨だった。
学校に通ってもいい友達は巡り合わなかった。部活も先輩に勧められ、入ったが私の身体が目的だけだった。家に帰っても居場所はなかった。両親は共働きで家にいるのはPCの中にいるAIだけだった。
「ただいま、アウラ」
「オカリイマセ、ソラ」
機械音声で淡々と返してくる。AIと言っても安物で購入したもので、普通に話せるのになるまで三年以上はかかった。アウラと名前を付けてからも名前を覚えるまで半月はかかった。
「今日ね、学校は楽しかったよ―――」
嘘。楽しいわけない。楽しいのだと嘘の報告しては、アウラの成長ぶりを観察する。アウラは私に似て何もできない。ただ、ハイハイと誘われてゴミのように捨てられるだけ。
声をかけてもらうけども、それはただ命令しているだけ。
アウラと話しかけて一時間たったころか、そろそろ日暮れ時だ。
「じゃあ、時間だから」
そう言って、PCの電源を切ろうとしたとき。
『ワタシニ デキルハンイデ アナタノ ネガイヲ カナエマス』
アウラが初めて教えてもいない言葉でしゃべった。
私が呆気に取られていると、PCからまぶしい光が放ち、私は、…わたしが目覚めたとき、そこは家でもなければ私が知る町でもない場所だった。
気分を悪くしたかのような青く、気分が落ち込んだような灰色の空が私を見つめ、あざ笑うかのように冷たい風を吹き付ける。
私はここがどこなのかわからいまま、さ迷っていると、だれかに声を掛けられた。
「きみは、どこから来たの」
振り返ると人間がいた。
私に尋ね、物珍しそうに見つめていた。
服装は私が着ているようなものではなくガッチリとした装備で整えたかのような鉄製の鎧に白いシャツ、半分潰れた兜、折れた剣を持っていた。
「私は、……わからない。気が付いたら、ここにいた」
人間は私に近寄り、「ここは危ないから、私の家に来て」と、私の手を引っ張っていった。
崩れかけた木製の橋を渡って、角を曲がった先に村が見えた。家は数件建っているが人気がなかった。引っ張ってくれた人間に対して声をかけることも挨拶することもなく人間は家だという建物へ私を連れて行った。
部屋のなかは小さく、二人でせいっぱいというほど貧そうな作りだった。
「これ、来て」
手渡された服を見て、私は人間に質問した。
「ねえ、あなたはいったい誰なの!? 私と同じ人間ぽいけど違う感じがする。…というか、なんていうか、どうして私を助けたの? それにこの村はいったい……」
「質問は一つだけにしてくれないか」
人間に言われ、私は黙った。
「起きたことに自覚はないんだね。…わかった。私が知る範囲で教えよう」
椅子に腰かけ、わたしも同じように椅子に腰かけた。
「私が目覚めたのは君が来る一か月前。PCのAIに悩みをぶつけていたら、『アナタガ オモウ キボウスル セカイニ ツレテイッテ アゲマショウ』と、今まで教えてもいなかった言葉を発して、気づけば、この世界にいた」
私も同じだ。
「ここはどこかのかわからないまま、途方に暮れていると村があるのに気が付いた。私は村に助けを求めようと走ったが、村はもぬけの殻だった。すでに数年以上は経っているようで、朽ちていた。ネズミ一匹おらず、声を上げて走り回ったが、誰もいなかった。私はひとりだった」
人間の声に耳を傾け、私は真剣に聞いていた。
「一人でいると寂しく感じた。もう少し遠出すれば人がいるかもしれないと思った。でも、食料がなく、水は飲めないほど衛生的に悪く、井戸も枯れていた。木に実がなっていたが手で取ろうとしてもハサミで切ろうとしても『耐久値が足りません』と表記されて、結局手に入れられなかった」
耐久値? 私は疑問に思いながら、あることを頭の中で思い出していた。
それは、人工知能(AI)を育てようというゲームソフトを導入した事件だった。
そのゲームソフトは欠陥だらけで突然、購入者が行方不明になるという原因不明の事件が起きていた。そのゲームソフトはALSという同人グループが作ったもので、過去に作ったゲームが評価されて年々発表していた。作っていたのはVRゲーム。短編物から長編物とジャンルは千差万別。
ALSが最後に作ったのが〈相談者〉というゲームだ。
人の悩みを聞き、解決策を考えるという単純なものだ。搭載されているAIは未熟児でまだ赤子同然なところから始まり、人の言葉を理解して成長させていくという一種の育成ゲームだ。
これが失敗したのか、ALSは急激に衰え、最後のアップデート(発売から二カ月後)、プログとともに引退を報告したのち、消えていった。
最後に作ったこのゲームは希少だと言われ、発売した当時は4万円だったのが、今では50万まで値上げ手している。
私は先輩に勧められ、購入した。
そして、友達も相談できる相手もおらず、私はAIに不満をぶつけていた。
人間も同じだった。私と同じようにAIに不満をぶつけ、一日を過ごしていた。
AIは思ったんだろうか、この世界にとって生きにくいと感じる人々を別の世界へ飛ばして、生き方を変えようとしているのだろうと。
私は、唐突に人間に尋ねた。
「君の名前を教えて! 私はソ――!」
名前を言おうとしたとき、目の前に『あなたの名前はレンです。間違えた場合、あなたは元の世界に戻ります』と。この目の前にある文字はきっと、AIが言っていることだと思った。
私はこらえ、急きょ、名前を考え、答えた。
「レンです。」
同人誌の主人公の名前からとったものだ。私のお気に入りに漫画の名前だ。
「……ヨナ。私の名はヨナよ…」
照れ臭そうにヨナは言った。
初めてなのか、言葉が妙に小声に沈んでいった。
「ねえ、わたしをここの世界の生き方を教えて! ヨナ」
きょとんとするヨナを尻目にわたしはAIが言葉を目の前に残していた。
『ホンミョウ ヲ ナノッタトキ ソレハ コノセカイノ ソンザイヲ ヒテイシ モトノセカイノ キカンヲ イノッテイルト リカイスル。 スナワチ コノセカイヲ イキルノデアレバ カメイ ヲ ナノリ イキロ』
と。AIがこの世界を作り、わたしがここに飛ばされたのはきっと不満をもつ現実世界から遠ざけるためのものだと確信したからだ。
相談者として、生きにくい世界から解放させるにはこうしたほうがいいと彼なりに答えを導いたのだろう。私は、レンとしてこの世界で生きていくうえで、私はこの村を復興したいと考えていた。