~思い出の在り処~
両親と別れ一人で学園に入学する事となったフラム。魔法使いを囲う檻の中での生活が今、始まる。
「フラムちゃん?学校に行く時間よ~?」
部屋の外から聞こえてきた寮母さんの声で目を覚ます。何とも目覚めの悪い朝なのだろうか。ふかふかのベッドで寝ているのに、子供部屋とは思えないほどの広さの部屋にいるのに、ちっとも嬉しくも楽しくもなかった。両親から引きはがされたあの日から私は一人。窓の外から見えるのは広大な敷地。果てしなく続く敷地に抜け出せる場所などなかった。個々の生徒は皆、来るときは不満そうにしているのにこの敷地をみればすぐに大はしゃぎして喜ぶ。私にはわかる、ここが私たち魔法使いを囲う“檻”なのだと。
ベッドから起き上がり、床に足をつく。床だけはひんやりとしていて私の心を落ち着かせてくれる。ゆっくりと立ち上がりクローゼットを開ける。中には上質な糸で織られた洋服がずらりと並んでいた。その中で2,3着、私の故郷の糸で織られた服がある。いきなり連れてこられた私のために国が用意してくれたものだ。この糸が、私と、両親をつないでくれている。この服は“チャコ”といってラージュ村の人が着る衣装なのだ。私はチャコをクローゼットから出し、少しの間抱きしめた。もう会うことのない両親のぬくもりが感じられた。
「フラムちゃーん?起きてる?」
「あ、はーい」
と返事だけして手にしていたチャコをクローゼットに戻し、制服を出す。袖に腕を通して、前のボタンを閉める。スカートをはいて膝くらいまでの紺のソックスを履く。ブレザーを着て、胸元に薔薇のクラスブローチをつける。鏡の前で回って服のしわを確認する。確認し終わり、カバンを持って部屋を出る。部屋の前には寮母さんのカミルさんがいた。そして私の手をとり、手のひらにクッキーの入った小さな袋を渡してくれた。
「どうせ寝坊してご飯食べていないでしょう?魔法を使うのだからご飯はきっちり食べなさい。今日はこれでも食べて頑張りなさい。貴方はやれば絶対に伸びる子よ。早く大きくなって両親の所に胸張りながら帰れるように頑張って」
と言って頭をワシャワシャと撫でてくれた。カミルさんも元この学園の生徒で、今は寮母をしているらしい。私はカミルさんに行ってきますと
言って寮をでた。学校までは約5分なので皆徒歩通学だ。両親と離れてから一週間が経った。入学手続きや、制服の発注、クラス分けなど、この一週間で色々なことをした。今まで学校には通ってなかったから学園の仕組みとか、授業の仕方などは分からず手探り状態。まず学園の校門というところから学校に入る。入って校内を少し見まわしているとふとあることに気付いた。クラスの名前は教えてもらったけど、場所を聞くのを忘れてしまった。とりあえず職員室?という所に行ってみた。だが職員室に来たのはいいがどうやって中に入ればいいのだろうか。ノックするのか、最敬礼をしてからドアを開けるのか。そんなことに悩みながらウロウロしていると職員室のドアが開き、一人の女の先生が出てきた。
「あ、ちょっと貴方!フラムちゃんであってる?」
その先生は私にそう問いかけてきたので素直に答える。
「あ、はい」
すると先生は“ちょっとそこでまってて”と言い残し再び職員室に戻っていった。待つこと三分、ようやく出てきた先生の手には教科書が山盛りのっていた。慌てて駆け寄り少しばかり教科書を持つ。
「ありがとうねフラム。私の名前はシルカ。これから貴方の先生になる人よ。私としたことが貴方に教室の位置を伝え忘れていて、困っているんじゃないかって思ったわ」
「あ、はい…少し困ってました」
素直にそう伝えると先生は
「やっぱりそうよね~、ごめんなさいね?あ、じゃあこれから教室行くところだから一緒に行きましょうか」
なんていい考えなのかしら、と言っているような顔で提案してくる。
「あ、はい!ありがとうございます」
と言って最敬礼しようとすると先生が慌てて私と止め
「あ、こらこら、その挨拶は王族や貴族の人とかにするものでしょう。私には立ったまま軽く頭を下げるとかでいいのよ。ここは学園なのだから」
私は素直にうなずき立ち上がる。
「じゃあもうすぐ学活が始まるから、教室に行きましょう」
そう言ってクラスのある方へ歩き出す。私がこれから学校生活をしていくクラスは“特別学級”、略して特級とも呼ばれている。そうこう考えているうちにクラスにつき、先生が微笑みながらクラスのドアを開ける
「ようこそ、特級へ。君は今日からこのクラスの一員だよ」