表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ついでの召喚物  作者: 湊 恵
第一章 魔法と精霊
1/26

序幕

 空には二つの月があった。


 足の甲を覆う程の丈を持つまだ若い草が、いびつな轍を残すかのように道の脇と中央に茂っている。夜露を乗せ始めた草々を散らし、その道を必死に走る少女の頭上で、輝く白と、光を放つ黒くまるいものが後を追う。


 途端、少女は横っ飛びに跳躍した。その高さは優に大人ひとり分。そして少女の足が地から離れた一瞬あと、空中に回避していた少女の胃の腑に響くほどの衝撃を与える音が響く。


 少女は弧を描きながら広々とした畑の中に勢いはそのまま、ごろごろと転がっていく。が、すぐに起き上がると先程までとは方向を変え、強く地を踏んで駆け出していった。

 少女が踏んだ後の畑には、踏んだ際に出来たのだろう土が押しのけられた跡には、人が丸まって入り込めてしまうほどの穴が、数メートル置きに出来ている。


――そして、少女が先ほど飛びのいた場所に、こちらは大人五人が車座で座れる程の穴があいており、道を完全に潰していた。その穴から、黒く大きな岩と見紛うものが這い出てくる。


 二つの月光に照らされたその姿は、少女の世界で言えばひぐまと呼ばれる生き物に酷似してはいたが、その身のあちこちに光を反射する鉱物らしきものを付着させている。

 それは、巨体で穴を崩しながらも身を出し終えると、少女が走り去った方向に顔を向けひくりと鼻を動かし、土を大きくえぐりながら、先の少女と同じ方向へ動き出した。




(ちくしょうちくちょうちくしょう……!!)


 少女は思考する。立て続けに我が身に起こる不条理の原因を。

 少女は苦悩する。このありえない、唐突にやってきた暴威に。

 少女は足掻く。こんなところで終わるなんて自分で自分が許せないから。

 少女は憤る。何故自分がおかしな不幸に合わねばならないのだと。

 少女は決意していた。――私は、絶対に帰るのだから、と。




「こんなとこで、人生終わってたまるかぁぁぁぁぁ――!!」




 後方から迫ってくる黒い殺意の塊を感じながら、キョウは吠えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ