Epilogue3「ジルトリアス」:A
「ほう、そうか」
『ブリュード』が強引に脱走したことで、地上から風が吹き込む地下基地の格納庫。
エイグ達も出撃し閑静となったその一角で、ファイド・クラウドが満足げに頷いた。
珍しく、という自覚はあった。
いつものように貼り付けたようなものではなく、純粋な歓喜を表情に滲ませている。
「偶発的と言えど解脱をしてみせたか。彼の特異性を差し引いても、人類を過小評価していたのかもしれん」
周囲に人影はなく、それはただの独り言。
仮に誰かに聞かせたとして、到底理解できる内容ではないだろう。
それゆえに、彼は遠慮なく口に出している。
否、高揚していたせいでもある。
よもや見られると思っていなかったものを、間接的とはいえ目の当たりにしたのだから。
「彼女の力であれば、絶響と共倒れしてくれるものと思っていたが……まあいい、少し寄り道をしてもいいだろう」
口角を上げ、ファイドは傍で眠る少年――シオンに目を向ける。そしてポケットから携帯端末を取り出し、何処かへと繋いだ。
「ああ、私だ。修繕が終わり次第、壱式の用意をしてくれ。加えて計画を少し変更する。『テュポーン』の調整も進めておいてくれ」
ファイドの言葉に対し、端末の向こうから驚いたような声が届く。
「多少予定が狂ったところで、構うことはない。賽の目はまだ出てはおらんよ」
それだけ言い残し、ファイドは通信を切る。端末を再びポケットに入れ、彼は基地に開いた大穴から地上の空を見上げた。
曇天なのは相変わらずだが、彼は陽の差す晴れよりこの天候を好んでいた。
理由としたものは大したものではなく、陽が目に入って痛むのが苦手なのだ。
「では行こうか、スレイド君。間もなく世界の行く末を決める戦いが始まる」
ファイドが言葉を送った先には、放心しくずおれた少年が一人。
少年は、何も応えはしなかった。
ただ状況に流されることを、諦めて受け入れてしまっていたから。




