第18話「堕ちゆく誓い」:A3
「んじゃ、返しに行こ~」
返却用のカウンターに全員の食器を重ねて置き、3人でその場を離れ歩き出す。
地形を把握していないイナはどこへ向かっているのか分からず、2人の後をついていくことしかできない。
「隊長さん、この後はどーするの?」
「……そうだな。そろそろ偵察から連絡が来るはずだが」
アヴィナの問いに応えながら、レイアはポケットからPLACEフォンを取り出して操作する。
そこへ、レイアの行動を見計らったように彼女の端末が振動した。
レイアは立ち止まり、送られてきたデータに目を通していく。
「エイグ経由でAGアーマーじゃダメなのか、あれ」
イナはアヴィナの耳元に顔を寄せ、疑問を口にする。
彼の言う通りにすれば、確かにもっと効率的ではある。
「あれも結構疲れるんでしょ、気持ち的にもさ。あんまし言うことじゃないよ」
「……ま、そうか」
「おいイナ。……どうした、内緒話か? 本人を目の前に陰口とはいい度胸だ」
「ち、違いますよ!」
「冗談だ。それより、お前に見てもらいたいものがある」
相変わらず調子の狂う話し方に腰を折られっぱなしだが、なんとか立て直し、差し出されたレイアの端末を覗き込む。
どうやら偵察隊の撮影したデータが表示されているようだが、あえてイナに見せる必要があるとは――と、思ったその矢先。
見覚えのある赤い影が、急に画面上に現れた。
「……!!」
「画像は荒いが……お前の見た赤いエイグ、これで間違いはないか」
イナが目を見開き、言葉を失っていたのが全てだ。
間近で撮影されたものでない為、細部まではっきりとしていたわけではないが――特徴も一致し、抱いた印象もあの時と同じだった。
そして、同時に。
『 見 ツ ケ タ 』
「ぐ、がぁッ!!?」
無警戒で触れたドアノブから静電気が走ってきたような、不意を打つ鋭く強い刺激。
まるで脳を細い針で貫かれたような感覚にイナは仰け反り、力なくその場に膝をついた。
「どうした、イナ!」
「……見つかった……ッ!!?」
「なんだと!?」
レイアの驚愕も、何メートルも離れているかのように聞こえた。
苦悶の中で、確かに感じたことそのまま口にしたイナ。しかしあの時と同じく彼自身の理解は深くはなく、困惑の海に呑まれてしまっていた。
「なぜ、それが分かる!」
「分からない……! けど……チカが……俺を見た……ッ!!」
「チカ……それが、イーくんの知り合いの名前なんだね?」
二人が困惑する中で、アヴィナは冷静に問いかける。
イナは息を乱しながら首肯する。
「イーくんの言うテレパシーで、チカさんとイーくんが繋がった。……ううん、一方的に繋がれたのかな? それで、イーくんの居場所がばれた。それが『見つかった』だね?」
おおむねその通りだが、妙に沈着なアヴィナにレイアは更に困惑しているようだった。
「隊長さん、とにかく緊急事態だよ。イーくんの言ってることが本当なら、ここが危ない」
「だが、どうすれば」
「それは……」
急な事態、それも曖昧が過ぎる以上、すぐさま判断を下せる方がどうかしている。
ゆえに最初に提案したのは、確かな対処法を持つイナだった。
「……俺が今すぐに様子を見てくる。ここに来ないならそれでいい!」
「待って、イーくん! 格納庫はそっちじゃ……!」
制止するアヴィナを振り切り、イナは森林の方へと駆けだす。
ほどなくして、彼の後を追うように薄緑色の閃光が飛び出していった。
その場に取り残されてしまったレイアは、苦い顔をして考えを巡らせているようだ。
間もなく端末を操作し、気持ちを切り替えるように小さく溜息を吐いた。
「……止める術はない。どうせすぐに連絡が来るだろう。アヴィナ、いつでも出られるようにするぞ」
「……イーくん」
イナの消えた方角に心配げな視線を向け、アヴィナはしばし動きを止める。
レイアは重ねて声をかけることはせず、先んじて駆けだした。




