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絶響機動シャウティア-Over the Universe- 【A】  作者: 七々八夕
Ⅲ《変えられた》未来
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第17話「それぞれの始動」:A5

「ご苦労だった、シオン君」


 連合軍・アメリカ基地の地下格納庫。

 拍手とともに出迎えてくれたのは、国連事務総長たるファイド・クラウド。

 本来個人的な面会ができるような相手ではないのだが、少年――シオン・スレイドは称賛された喜びで、そこまで頭は回っていなかった。


「い、いえ。このエイグ――ルーフェンに助けられてばかりで」


 照れ隠しに謙遜をしながら、逸らした視線をエイグに向ける。

 赤いボディと相反するような青さの推進器『蒼穹』が特徴的だが、今ではこのアンバランスさも頼もしく見える。

 ルーフェン。かの『紅蓮』のカウンターとしてカスタマイズされた、シオンのエイグだ。

『紅蓮』を意識したとあって所々似通っている印象を受ける。


「いや、君に任せて正解だった。まだ慣れないところはあるだろうが、それを補って余りある力を持っている。この調子で以後も頼む」

「は……はいッ!」


 そう、ルーフェンは未知とされた超高速移動も可能にしている。

 この力で先ほど、PLACEの偵察部隊を撃退してきたのだ。


「ああ、それに……私のワガママに付き合わせてすまない」

「い、いえ! 敵であれど人命を重視するという考えは、素晴らしいと思います!」


 本来なら、戦いの最中にそんなことを考える暇はない。

 しかし、ルーフェンならばそれができる。

 敵の戦意だけを奪い、徐々に組織の力を奪っていく。

 そこに殺害は必要なくなるのだ。

 一見すれば理想でしかないことを、ルーフェンは現実にできる。


「不束者ではありますが、これからも精一杯頑張らせていただきます!」

「うむ、頼もしい限りだ。カルナ大佐も鼻が高かろう」


 父・カルナも現在はファイドの護衛のためこの基地にいるのだという。

 互いに会う余裕はないが、きっと父にもシオンの活躍の報せが届いているだろう。


 何も取り柄のなかったシオンにとって、父の存在は自慢でありながらコンプレックスであった。

 そんな父に近づけたことは、彼のモチベーションを強くさせる切っ掛けの一つとなっていた。


 いま、シオンはとても満ち足りていた。

 此処こそが自分の居場所なのだと、心の底から思っていた。

 救世主――という言葉に未だ実感はないが、そう呼ばれる立場がとても心地よい。

 もはやルーフェンの前に敵はいない。自分の善性が正しいと証明できる。

 戦争が悪いことなのだと、誰にでも伝えられる。


 自分は選ばれた人間なのだ。

 しかしそのことに奢ってはいけない。

 シャウティアを倒すまでは。

 ファイドの理想を果たすまでは。


「――クラウド様、例の少女ですが」


 シオンが浸っていると、ファイドの許にSP然とした黒服の男が駆け寄る。

 何か小声で話しているようだ。

 重役の話だ、聞かない方が良いだろうと距離を取ろうとしたが。


「ああシオン君、きみにも関係のある話だ。こちらへ」

「は、はあ……」


 何の話かはわからないが、とりあえずシオンも近寄る。

 するとファイドは懐から板状の端末を取り出して、ある画像を表示した。

 ベッドに横たわる、茶色の長髪が似合う少女。


 見たところ普通の――いや。

 不思議とシオンは、その少女に目を奪われていた。


「今は疲れで休んでいるが、いずれ彼女がルーフェンに乗る」

「? それは、どういう……」


 一瞬、さっそくお役御免かと思い、思考が硬直する。


「失礼、言葉が足りなかったな。あの推進器にこの少女が搭乗することでルーフェンは真価を発揮するのだ」

「な、なるほど」


 見とれていたことを誤魔化すように返事をする。

 現状の力だけでも十分だとは思うが、彼女が加わることにデメリットはない。

 むしろ同年代の少女が近くにいるのなら、新たなモチベーションになるかもしれない。


(……いかんいかん、気が散ってる)


 しかしやる気が出るのは確かだ。

 今まで女性と言えば、口数の少ない『ブリュード』のイアル・リバイツォくらいのものだった。

 彼女がもしも自分に合う異性だったなら――などと、理性に反してそんな妄想を繰り広げてしまう。


「次の出撃あたりから彼女も参加する予定だ。安心したまえ、ルーフェンが負けることはない」

「はいッ、必ずやお役に立ちます!」


 妹のリアや、母が安心して暮らせるように。

 疲弊した世界を、これ以上汚さないように。

 ついでに叶うならば、この少女に心を寄せてもらえるように。


 淡い恋心を萌芽させながら、シオンはいずれ来る『紅蓮』を待ち構えていた。








 □                       □








 ああ、間もなくだ。

 ようやく始まる。始まるぞ。


 レリィ。

 エルミラ。

 アリウス……。


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