Prologue3「来訪者」:A
少女は、見知らぬ場所にいた。
周囲には所狭しと高層ビルが立ち並んでいるが、異様なまでに人はまばらで、荒廃している印象があった。
おそらくは都会なのだろうが、空が曇っていることも相まってその皮を被っただけの空間に思えて仕方がない。
しかし、出来のいいVR映像と言うには現実感がありすぎた。
であれば、今見ているのは現実であるはずなのだが――少女は、ふと違和感の正体をひとつ突き止める。
看板や、ビルに設置された巨大なモニターに映し出されているもの、そのすべてに英語が用いられていたのだ。
どこを見ても、かな字の一つも見当たらない。
どうやら彼女の住む国とは、言語圏が違うようだった。
それが分かったところで、彼女はまだ幼いながらに現状の問題を把握する。
言語の壁が邪魔をして、助けを求めることも簡単ではない。
加えてこの寂れた雰囲気は、ただ事ではない。大きな災害の後か、それに相当する大きな事件があったに違いないだろう。
幸い、通行人がほとんどマスクをしていないことを考えると、ウイルス騒ぎではなさそうだ。
もう一つ幸いなのは、最低限生き延びられる能力は自身に備わっている事。
突然知らない場所に移動していて困惑してはいるが、動かないままでは色々と不都合が生まれやすい。
少女は茶色の長髪を風になびかせながら、異世界で最初の一歩を踏み出した。
心の中で、何度も彼に呼びかけながら。




