第12話「すれちがう、決意」:A5
「な……」
むろん、その映像はデルム・ツィーゲルも食堂で視聴していた。
そしてシエラと同様に、大きな衝撃を受けてしばしの間呆然としていた。
――PLACE日本支部で整備員を務める前は、デルムもエイグに搭乗して戦っていた。
もっとも、出撃回数は一度のみ。
日本支部を設立する前に、日本へと向かったPLACEの隊員を護衛すべく出撃した際の戦闘を最後に、彼は戦えなくなった。
デルムは、戦意こそあれど覚悟が決まってはいなかった。
ゆえに、恐れてしまったのだ。
時に腕を斬り落とし、足を貫かれ、胸を刺され――敵味方問わず、悲鳴の止まない戦場を。
以後、試験運用の為にエイグに搭乗することさえもままならなかった。
次にあの悲鳴を上げさせるのは自分なのか。あるいは。自分が上げるのか。
そのいずれもの恐怖を抱えることができず、彼は戦意を失ってしまった。
結果として彼が選んだのは、エイグの搭乗者として登録された恩恵。AGアーマーを用いた整備作業の手伝いである。
力があるのにもかかわらず、誰かに自分の恐怖を押し付ける罪悪感を誤魔化しながら、日々を過ごしていたある日。
彼、イナ・ミヅキは現れた。自分たちとは比べ物にならない大きな力を振るいながら。
彼は仲間の危機を察知したように出撃し、敵を殲滅し、味方の犠牲をゼロに抑えた。
それ自体は、喜ばしいことの筈なのだが……彼は怒っていた。
イナのような子供が、自分では乗り越えられなかった恐怖を乗り越えていたから。
それだけではない。彼は狙いすましたかのように、危機に際して出撃した。
あの時は、それが許せなかった、という想いを正当化したように見せかけて、彼は自身に怒っていた。
自分にも力はあったのに、適切に振るうことができなかった自分に。
同時に、彼には多少の悪意があった。
あの時デルムは、イナに戦うことの恐怖を教えようとしていた。
自分と同じ恐怖を抱かせて、戦えなくしようとしていた。自分が恐怖で逃げたことを、正当化するために。
それが間違いだとは、どこかで分かっていた。
子供が戦うだとかそういったことよりも、自分で必死になって決めた道を他人が邪魔をするのは、違う。
ゆえにあれ以降、イナに不必要に突っかかることはしなかった。
それからまた、不意の罪悪感に苛まれる日々に戻って間もなく。
戦わざるを得ない状況に、彼は陥った。
誰も戦えず、戦えるはずのない者まで出撃している中で、それ以上痛みを強いて出撃させるわけにはいかなかった。
ゆえに、恐怖を絶叫で掻き消して、引き金を引いた。
仲間を守るために、自爆を図ったエイグを投げ飛ばした。
それを切っ掛けに、再びエイグに乗る道を選ぼうと思えた。
戦えない者の為に戦う力がある者の責任を、改めて感じたのだ。
しかし間もなくして、イナはズィーク・ヴィクトワールに対して予想外のことを口走った。
日本支部の戦力増強。
おそらくそれは確実で、送られてくるのは自分よりもはるかに腕の立つ者だろう。
ならばもう、いまさら頑張らなくてもいいのではないか。
そんな言葉が自分の中で生まれ、新たな苦しみのきっかけを作ってしまったなど、イナは知る由もないだろう。
むろん、自分の問題である以上、イナに不満をぶつけるのは間違いだ。
それはあくまで、デルム自身が解決しなくてはならない。
(俺は……どうすればいい……どうすればよかったんだ……)
それでも――デルムの中では、処理しがたい感情が、燻っていた。




