第11.5話「幕間②」:A2
《……以上が、作戦の結果となります》
薄暗い部屋に卓上ランプだけが明かりを放つ中、スーツ姿の中年――国連事務総長たるファイド・クラウドは、連合軍所属の男、フェーデ・ルリジオン中将の報告を通信で聞いていた。
フェーデがやや不満げな声音であったことから、ファイドの出した命令に少なからず疑問を抱いているのだろう。
「中将。意見があれば、かまわず言いたまえ」
《は、まことに恐縮であります……例のエイグ、コードネーム『紅蓮』による高速移動が再び確認されましたが、まだ不慣れな様子でありました。『ブリュード』であれば、あそこで破壊することも可能だったのではないかと》
「もっともな疑問だが、彼らはあくまで陽動だ。しかし先日大きな打撃を与えたにもかかわらず、奇襲も失敗してしまっている。それに、未知数の敵を相手にしてそれこそ彼らを失ってしまっては意味がない」
《しかしながら、あの現象を意図的に引き起こされたのでは、如何な戦力差のある我々でも、苦戦を強いられるのではないかと……》
軍を率いる者としてもっともな考えだ。
だがファイドはフェーデの知りえないことを知っており、それがあるからこそ『紅蓮』の破壊にこだわらなかったのだ。
「むろん、策はあるとも。だがかなり重要な事項だ、機が熟すまでは君にもその内容を伏せておく」
《……いえ、それだけ聞ければ十分であります。貴方様の言うことであれば、私はどこまでも信じられますので……》
ここまで心酔するような言葉はいっそ不快でもあるが、フェーデが嘘を言っている様子がまるでないのが滑稽だ。
だが、意のままに動く駒が手中にある利便さは確かだ。
これくらいは無視してこそだろう。
《ともあれ、私からは以上であります》
「うむ……ご苦労。しばらくは中国基地で待機だ」
は、と切れの良い返事を残したのを確認し、ファイドの方から通信を切る。
彼は別に望んでこの国連事務総長という立場にいるわけではなかったが、目的の為に歩む道の上に、このような課題が課されただけ、と考えている。
要するに、大したことではない。
(……しかし……)
そのため、すぐに思考は別の方向を向く。
先日突如出現が確認され、連合軍で保護したのち追放し、現在はPLACEで戦っているという、赤いエイグ『紅蓮』。そして、その搭乗者。
加えて、日本支部への奇襲で発覚した、未確認のヒュレプレイヤー。
いずれも、ファイドの好奇心を刺激するものだった。
(時間はまだあるようだ。もう少し、事態の行く先を見ても良いだろう)
それは、未知への興味に目を輝かせる子供のようでありながら。
人々の愚行を観察することを愉しむ、ある種の神のような眼差しでもあった。
――君も、その先にある結果が知りたいのだろう?
「イア」
ただの呟きとも取れるファイドの声は、どこにも届きはしなかった。




