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絶響機動シャウティア-Over the Universe- 【A】  作者: 七々八夕
Ⅱ《与えられた》居場所
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第11話「いま叫ぶとき」:A4

「がはッ……!」


 腹部に拳を受け、吹き飛ばされたイナが苦悶の声を漏らす。

 すぐに立ち上がろうとして、要綱を防ぐようにして立つゼライドに恐怖する。

 勝てるわけがない。

 しかし、他の2機もそれぞれ膠着状態にあり、援護は望めない。

 これならば、いっそ申し出を受けていた方が良かったのではないかと思いかけて、すぐに振り払う。

 それだけは認めてはいけない。


(けど、どうする……ッ!!)


 このまま戦い続けたのでは、どうしたって勝てる見込みは薄い。

 もっと速く動かなくてはならない。ゼライドよりも速く、否、彼が反応できないほどに速く。

 絶響――ミュウが名付けた高速移動現象を引き起こせば、勝機はある。

 だが、どう使えばいいかなどイナにはわからないままだ。


《……イナ、考えないで》

(チ、カ……?)


 正確には彼女を模しただけのシャウティアのAIなのだが、イナは思わずその名を口にしてしまう。


《私は機械だから。イナはどう使うかを想えばいいだけ。イナはどうしたい? イナは私に、どうしてほしい?》

(俺は……)


 どうすればいいのか。その自問は思考の海に飛び込むも、一瞬でほどけて糸くずのようになり、答えが掴めない。

 否、むしろ、それでいいのだ。

 いま、シャウティアが考えなくていいと言ったばかりではないか。


 それに、不思議と――シエラや、ディータ……デルムの声が聞こえてくるような気がした。

 確信はないが、彼らも戦っているのだろう。

 その中で、どうして自分だけが諦めることができようか。


 イナは歯噛みし、バスタードを手放した。


   □              □


「どうした、ボウズ。寝てちゃ勝てねえぞ」


 ゼライドは複雑な気持ちを冷徹さで覆いつくしながら、イナを見下ろしていた。

 周囲では弾幕を弾幕で打ち消し合い、互いに距離を詰め合う別の戦いが繰り広げられていた。

 そうして余所見をする余裕があるほど、ゼライドはイナを圧倒していた。


 事前に聞いた話では、瞬間移動のような現象や、無敵のバリアを扱うなどという信じがたい噂を耳にしていたが、実際はそうではなかったらしい。

 おそらくはほかのエイグを上回るスピードをそう勘違いし、強固な装甲に弾かれたのをバリアだと勘違いしたのだろう。

 その実ゼライドもイナを追い出す際にその現象らしきものは体験していたが、同様に勘違いだと結論付けていた。


 それがいま、確かなものとして終わろうとしていた。


「俺は……まだ負けてねえ」


 しかしなおも、イナは立ち上がろうとする。

 かつては一応は世話をしていた相手を殴るのは気分が良いものではなかったが、それが与えられた指令ならばこなさなくてはならない。

 だが、これほど弱い敵にわざわざ自分が対処するべきことかは、疑問が残る。

 司令部も噂を半信半疑でいたのだろう。

 ともかく、ここで終わらせればいい。


「だが勝ってもいねえ。負けねえことと勝つことが同じなわけがねえだろッ!!」

「だから――勝つんだよ……!」


 イナは剣を手放し、地べたをはいつくばって立ち上がろうとする。

 そんな彼を、ゼライドは足蹴にしようとして――しかしその足は、空を切った。


「なッ」


 消えた。

 先ほどまでそこには何も存在しなかったかのように。

 イナなど居なかったように。

 突然の出来事に頭の回転がぴたりと止まってしまったゼライドを、再び気づかせたのは――




「――ァァァァァァァァゥトォォォォォオォォォォォォオオ――――ッッ!!!!」




 背後から響く、イナの絶叫だった。

 それに気づいても、対処が間に合わない。

 背中から打撃を食らったゼライドは、地面に叩きつけられるようにして倒れた。


「な、がっ、何が起きた!」


 すぐに立ち上がって、イナの方を見やる。

 薄緑色の炎を纏い、肩で息をする彼は、何も答える様子はない。


《計測、不能。不測の事態が発生しています。不測の事態が発生しています》


 AIにもあからさまなエラーが起こり、異常な現象が起きたのだとわかる。

 この瞬間、ようやくゼライドは理解し、直感的に納得した。

 噂は現実のものだったのだ、と。


 自身のエイグ、ヴェルデに映像記録を見せるように求めるも、やはり蹴りが当たる直前でイナは姿を消している。


(チッ……司令部! 例のエイグの噂は本当だ、対処しきれねえ!)

(……別動隊も作戦の失敗を確認した。これ以上の戦闘は不利だろう。各機撤退せよ)


 手早く通信を終えると、空中より輸送機が太いロープを垂らしながら迫ってくるのが見える。先ほどとは別の機体だ。

 イアルともう一機にも合図を送り、ゼライドは輸送機に吊られてその場を飛び去って行く。

 PLACEの砲撃手もこれを阻止しようとはせず、見逃してくれたようだ。


(ああは言ったが、ボウズももう限界だろうしな……)


 だが、それを越えて稼働してくる可能性は否定できない。

 安易な想定で臨んでいい相手ではないことは、今のでよく理解できた。


(……しかし、別動隊だァ? 聞いてねえぞ、そんな話は……)

(大尉)


 ロープを通じてコンテナの中へ戻ったゼライドは、僚機のアンジュに乗るイアルからの通信に応える。


(どうした)

(先日の件と言い、妙です。少しばかり注意した方がいいかも知れません)


 先日の件――とは、国連事務総長ファイド・クラウドより間接的に託された少年のことだ。

 出所不明の、ただの少年を預かれと言うのならまだわからないでもない。それも軍人の責務とは考えにくいが。

 だが上層部からの命令は、少年をエイグに乗せて戦闘に参加させろというものだった。

 今回は作戦の都合で参加させることはなかったものの、今後は参加せるつもりだというのだから、正気の沙汰ではない。


(しかし、噂が本当だったとはな)

(……にわかには信じがたいですが)


 意味不明なことをこうも連続して目の当たりにしては、何を信じればよいのかも分からなくなる。

 せめてこのイアルだけは信頼し続けたいと願いつつ、ゼライドは嘆息した。





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