Prologue2「黎明の少女」:A
一人で使うには少しばかり広い、薄暗い部屋。
整理を怠ってモノが散乱している所を見るに、これくらいの広さが丁度いいようだ。
照明も天井に備えられていたが、今ここにおいての唯一の明かりは、立体映像による仮想の画面が放つ淡い光だった。
その光をもろに浴びる少女は、ずり落ちていた眼鏡をかけ直して画面に目を凝らす。
画面に映っていたのは、シエラの意識がもうろうとする中、彼女のエイグが記録していた視覚映像だ。
彼女の希望で彼女自身の音声は除かれているが、それでも映像自体には強く興味を引くものがあった。
特にシエラが倒れて以降――見慣れない光とともに現れた赤白のエイグの戦う姿には。
『シャウティング・バスタードッ!!!』
その絶叫と共に、赤白のエイグの手元に光が収束し、PLACE隊員たちが苦戦していたという敵エイグを蹂躙していく。
この場に現れた時もそうだったが、赤白のエイグはどう見ても、瞬間移動というほかない現象を引き起こしていた。
纏っている光は見るからに怪しく、それが引き起こしているのではないかと思うものの、彼女の中にある知識だけでは解明のしようもない。
こうして昨晩から何度も何度も見返しては何かを見逃していないかと注視していたものの、結局分かったことはと言えば、瞬間移動はシエラの意識がもうろうとしていたことによる映像の途切れによる見間違いではないこと。
そして、彼が「ヒュレプレイヤー」と呼ばれる存在であるということ。
敵エイグが見慣れない武器を携行していたことも気になってはいたが、それは他人に任せていた。
「あら」
ふと、整理のセの字もなさそうなほど、資料やゴミで散らかった机の上に置いているデジタル時計を見て、少女は呟いた。
自身で思っていた以上に時間が経過し、既に夜明けを目前に控えている時刻であった。
「……本人からデータをもらうのが一番か」
入浴を怠りやたらと痒みを感じる頭を乱暴に掻きながら、桃色の髪の毛を櫛に見立てた手で適当に整える。
「シャット」
機械に対して雑な命令を投げかけると、この部屋の光源であった立体映像の画面が消え、そのプロジェクターからも光が消えた。
真っ暗になった部屋の中で、しかし少女の足取りは簡易ベッドに向かって迷いはなかった。
異様に身体が興奮状態にありすぐに眠れるとは思っていなかったものの、目を開いても閉じてもさして見えるものが変わるわけではない。
物音一つ聞こえない静寂の中、彼女はすっと眠りの海に沈んだ。




