Epilogue1「セカイの彼方から」:A
「始まったか」
黒い靄とも炎ともいえる光が、赤い瞳のようなものを光らせながらつぶやいた。
すると、無数の機器に囲まれている白衣の女がそうね、と続けた。
「ある程度の予測は既に見えているけど、実際に通る道はあの子たち次第になるわ」
「……もはや、一刻の猶予もないだろう。次などないに等しい」
「それでも、今は見守ることしかできないわ」
不安げな黒い光に、女は諭すように言う。
「今は、会った時にブン殴られる覚悟だけしておけばいいんじゃないかしら。きっと痛いわよ」
そう言う女の口調は、どこか楽しげではある。
殴られることすら、というよりは、それくらいにしか楽しみを見いだせないかのようでもあった。
「……そうだな。きっと強く恨まれ、存在そのものを消されてしまってもおかしくはない」
「あの子にそれだけのことをしてしまうのは、やっぱりちょっと気が引けるわね」
けれど、と女は続ける。
「あの子たちでなければ、セカイを救えない――残酷な話よね」
「それでも、我々は止めなければならない」
黒い光は手のようなものを伸ばして虚空にかざし、何かを呼び出すかのような念を送る。
直後、周囲に景色が広がっていく。
無数の地球、時を刻むごとに無限に枝分かれし拡大を続ける世界。
彼女らがセカイと呼ぶ存在の全貌が、黒い光の前に映し出されていた。
「あの方を、止めなくては」
彼女の意志に、光は強く揺らめいた。




