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絶響機動シャウティア-Over the Universe- 【A】  作者: 七々八夕
V《差し伸べられた》その手
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第32話「等しく散りうるのだから」:A4

 イナとシャウティアが、フランス支部から消えた。

 その意味はもはや言葉にせずとも、アヴィナには分かる。

 どこに行ったかまではわからないものの、誰かを助けに行ったのだ。

 イナは、優しいから。


 人を助けて、感謝されて、それでようやく自分を肯定できる。

 過程自体はまちがっていると思わない。

 問題はそれを焦りすぎるあまり、自分の危機をまったく顧みていないところにある。

 そして、救われる他人の心情も。


 救われた側は何も言いようがない。

 けれど、それが積み重なって、歪みを生んでいる。


(……みんな優しいだけのはずなのにね)


 自室として与えられた部屋のベッドに身を預け、アヴィナは天井を仰ぐ。


 無理をさせたくない。傷ついてほしくない。死んでほしくない。

 それがかえって、我先にと危険な場所に身を投じる理由を求めているように見える。

 ともすれば、イナが組織崩壊の一番の原因となる可能性がある。


 そんなことを考えている自分に嫌気もさすし、そう思いたくもなる状況が憎くもある。


(シアス)

《何かな》

(ボクは、合ってるのかな)


 何かを期待した問いではない。

 ただイナの邪魔になるまいと、自分のことは自分で済ませられるようにしてきたつもりだ。

 実際、大した禍根を生まずにこれまでやってこれていたと思う。

 ――まあ、さっき台無しにしたけど。


《極論、死ぬ前に結論を出すものだ》

(その結論、誰かの役に立つの?)

《立つ必要はないよ。すべてがどうでもよくなる時に、自分の行いが正しかったかどうか、そしてそれををどう受け止められるか。それがその人の得た結果だというだけ》


 やけに壮大な話になった気がして、アヴィナは眉根を寄せる。


(……いま、目の前のこと全部を決めつけなくていいってこと?)

《概ね、そういうこと。失敗が成功に繋がることもある》


 その逆も起こりえるということである。

 ならば――ああ、確かに、最終的な結論は後回しでいい気がする。


(じゃあ、ワガママを通してもいい?)

《君がよく考えたうえのことなら》


 そう言われると、躊躇いが生まれる。

 ハッキリ言ってそんなことをしている場合ではない。

 でも、どうせいてもいなくても同じなら。


(イーくんに甘えてもいいのかな)

《本音はそうしたいと思っていることは、伝えておいた方がいいか?》

(……ん-ん)


 誰に尋ねても同じように答えるだろう。

 問題はどう理屈をこねるかだ。司令のアレットがもはや何をしても無駄だと思うならまだいいが、まだ戦略を立てて対抗しようとするならばそれ用の策を考えねばならない。


(脱走、アリ?)

《不可能とは言わないけど、僕は重い。輸送機を奪えたとしても撃墜されるのが関の山かな》

(……話して聞き入れてくれたらいいんだけどねえ)


 自分が取り戻した記憶。

 テュポーンズと関連があると言えば、調査の価値は幾ばくか生まれるだろうが。

 そこで得られそうな情報が、テュポーンズへの勝利の希望になりうるとは思えない。

 どこまでいっても、自分の回顧の旅にしかならないからだ。


《彼が誘いに応じなかった場合も考えた方がいいんじゃないか?》

(……そーだね。一人でできることなんて大してないだろうし。イーくんがついてきてもやっぱ無理かなあ)


 一人で囮を買って出たディータの安否も分からない。

 アレットらを言いくるめたとして、有意義な調査にできるかどうかは人選が関わってくる。

『ブリュード』ならどうだろうかと思うが、あちらもイギリス支部の調査で派遣中だ。


 あとは――これ以上は候補が挙げられそうにない。

 思っている以上に今自分の置かれている状況が孤独で、悲しくなってくる。

 ミュウも何かの研究に没頭して閉じこもっている。

 チカはイナとセットのようなものだ、一人だけ抜き出すことは不可能だろう。

 そう思えば余計に、自分がワガママを言う迷惑な子供だと自覚させられる。


 だから、戦闘部隊なのに、先ほど出撃した輸送機の行き先も知らせてもらえないのか。

 誰に尋ねようにも、邪魔になる気がして何もできない。

 頼られたときにしか動くべきではないのだ。

 そういう役なのだから。


(……やっぱ、イーくんを責めらんないな)


 待機を命じられて、それで大事なものを失ったら。

 そう思ってしまう時点で、自分は責任や義務といったものには向いていない。

 そんな折だった。


《――アレット司令からの連絡だ》

(なんて?)

《こっちからテュポーンズに仕掛けるらしい。調査を兼ねた攻撃作戦として韓国支部に向かうとのことだ。ひとまず手隙の君に連絡ってことらしい》


 はからずとも願ったとおりの展開に、何か作為的なものを感じる。

 シアスが勝手にアヴィナの思考を漏らしたのでないとすれば。


(……ちょいまち? 韓国支部がマズいってどこ情報?)


 音信不通の状況となっているものの、直接的にそうだといえるような事はしていないはずだ。

 何もしていないことを根拠とするのは、やや弱い。怪しむ理由は十分ではあるが。


《少なくとも、こっちが得られる範囲にそういうのはない。何か掴んだか、あるいは》

(……急に行きたくなくなってきたなあ)


 何かの策謀があるとするなら、説明もないままそれに巻き込まれるのは気分が良くない。

 むろん、断ることもできるだろう。けれども、みすみすチャンスを逃すのも――後々悔いを覚えそうである。


(……そこで死ぬなら、それまでのことか)


 シアスは言葉をかけてこない。

 そこに妙な人間臭さを感じてしまう。


(できるなら、日本支部の人をメンバーに加えるようにおねがいして)

《巻き込む形になるけど?》

(……そーだね)


 けれども、それなら見知った人が傍にいる方がいい。

 誰も知らない人の傍で死ぬよりは、そう、叶うならば一緒に。

 一人は嫌だ。キミもそうでしょ?


 押し付けるように同情を誘う文句を浮かべながら、アヴィナは嘆息した。




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