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第3話「理由」:A3

「ッ!?」


 不意に、イナの体の中で爆発が起こったかのように、脈が大きく跳ねた。

 同時に、脳裏に見慣れた少女、チカの顔が映る。


 ――な、なんだ……ッ!?


 そのままでいれば動悸を起こしていたかもしれないが、はっとなった時にはすでに、イナの心臓は何事もなかったかのように脈動を繰り返していた、


「……お姉ちゃん」


 悪事のばれた子供のような声音と態度で、シエラは言う。


 姉。

 確かに、色的な特徴はシエラに似ている気はする。

 ただ、無意識に向いてしまった胸への視線で、圧倒的な違いが明確になってしまう。

 何のとまでは言うまでもないだろう。


「あの、私」

「……余計なことを喋っていないのなら、謝ることはない」


 何かを言いかけたシエラはしかし、姉に制止される。

 一見、どこからどう見たところで冷徹を体現するような人間に見えるが、それだけではないようだ。

 と言うよりかは、警戒しているが為の調子なのだろう。

 そしてその対象は、無論イナだ。

 シエラの姉の鋭い目線が、肯定を表すようにイナを捉える。


「私はレイア・リーゲンスだ」

「……俺は、瑞月伊奈(イナ)です」


 無言で返答を求められていることに気づき、慌てて答える。


「私はお前に手荒な真似をする気はない。お前が私達にするとも思っていない。思いたくもない。だが、私達はまだお前を信じられていない。わかるな?」

「……なんとなくは」


 イナは膝を掴むようにして手を固定し、何もする気はないと態度で訴える。

 ここに至るまでの過程は不明だが、それも彼女が語ってくれるのだろう。

 ならば無駄に暴れる理由はない。


 ――だが、もしものことはある。


 連合軍でのことが脳裏に過る。

 それを思えば、レイアの言葉は、イナの思いと同じであることが分かる。


「シエラ、お前は後ろからついてこい。使い方は教えているはずだ」

「……うん」


 カチャ、とシエラの腰辺りで小さく音が鳴る。

 銃か、ナイフかは定かではないが、ともかく有事の際にはイナを後ろから攻撃できる用意があるということだろう。

 改めてここは武装組織なのだということを認識させられる。

 ただ、イナの偏見とは大きく異なっていたが。


 無理やりに、という印象がないのだ。

 自分での意志で、恐怖しながらも戦っているように見える。

 シエラを見ていると、特にそう思う。


「では、ついてきてくれ。日本支部の司令に会う」


 そう言って、レイアは無防備にも背を向け、出入口の方へと向かう。

 もしもイナに悪意と用意があればここでやってしまえるのではないかと思いきや、彼女の手は何かを力なく握るような形をとっている。

 まるで、力を込めればそこに銃が現れるかのような。


「ごめんね、イナくん」

「……いや。当然の扱いだと思う」


 シエラに促され、イナは席を立ってレイアの後を追う。

 その後ろからさらに、緊張気味な足音がついてくる。

 既に部屋を出ていたレイアはイナ達の為に扉を手で抑え、イナはバトンを受け取るように交代し、シエラを外へと導く。


「オートロックだ、そのまま閉めればいい」


 イナは控えめに頷き、そのまま手放して自然に閉じさせた。


「では、行こう」


 歩き始めるレイアに合わせ、イナとシエラも続く。

 当たり前だが、無言だ。何かを言えば撃たれてしまうかのような緊張感が三人の間に流れている。

 だが、それでじっとできるほどイナは落ち着きのある人間ではない。

 警戒というよりは興味の眼差しで、移動中ずっと辺りを観察していた。


 それによるとどうやら、廊下もそのままホテルを流用しているようだった。

 占領したのか、わざわざ建てたのかは定かではないが――これだけでは、とても武装組織の基地とは思えない。

 赤茶色のカーペットの柔らかい踏み心地。

 意味があるのか分からない幾何学的な模様の壁紙。

 これだけでも非日常は演出されているが、どうやら花瓶や絵画といったものは飾られていないらしい。


 そのあたりのこだわりはわからないものの、兵士の待遇は悪くないらしい。

 もしかするとまだ一部しか見えていないだけで、地下では奴隷が過酷な労働を強いられているのかもしれない。

 もっとも、現状この二人がそんな行為の片棒を担ぐような人間には、イナには見えていないのだが。


 この後もしばらく似たような光景が続いたが、連絡通路らしき場所からは雰囲気ががらりと変わった。

 西洋風と大まかな言葉で表せるのは確かだが、こちらは客人をもてなすというよりは、唯人々が過ごすだけといった趣だ。

 イナの貧相な経験を基に例えるのであれば、美術館が近い。

 と言っても内装は様々だが、窓が備えられており、雰囲気を損なわずに外の光を取り込んでいることは確かだ。

 あるいは学校と例えた方がいいかもしれないが、イナの中にある学校と言えば、ほどほどの歴史はある、小汚い公立学校のイメージが強い。


「ここまでがPLACE隊員の宿舎だ」


 おおむね予想通りであったため、イナは返事もしなかった。

 それよりも、それを明かし、そこに置いていたということはつまり――と勘繰ってしまう。

 おそらくそれは間違いではないだろう。

 しかし彼は今、彼女らが望むような答えや意思を持ち合わせてはいない。

 そう思うと、彼はわずかにむなしく、申し訳ない気持ちになった。


「――ここだ」


 そんな時、不意にレイアの声がかかった。

 ぼうっとしていた自分の脳を叩き起こし、イナはレイアにぶつかる前に足を止めた。


 そこにあったのは、一見すればただのドアだ。

 特別な何かと言っても、「LEADER’S ROOM」と書かれたプレートがあるくらいだ。

 もはや凝っているのかどうかも怪しい。

 もしくは非現実的なものに対して、些か夢を見すぎているのか。

 尽きない謎を抱えていると、レイアが扉をノックした。


「ラル、私だ。例の少年を連れてきた」


 ラルと聞いて反射的に、イナの脳裏には立派な髭を蓄えた中年の男が思い浮かぶ。

 武装組織の中でも、それなりの地位に立っていると思しき人物だ。

 それくらい露骨に貫禄のある容姿でも何ら不思議ではない。

 レイアの口調が、友人に向けたようなそれなのが気になるが。


「あぁ――入ってくれ」


 雑巾を無理やり絞ったような、疲れの色がよく見える声が部屋の中から届く。

 寝起きなのか、ともかく大きく伸びをしている様子が容易に想像できる。


 許可を得たレイアはドアノブを回し、イナ達の方を見て頷いてから部屋に入る。

 続けて入れという解釈で間違いないだろう。

 またしてもレイアからドアを抑える役割を引き継ぎ、シエラも部屋に入れて扉を閉めた。

 そして部屋の中へ視線を向ける。

 てっきり六畳くらいの部屋かと思っていたイナは、その予想を超える広さに呆気にとられた。


 部屋の奥には本の詰まった木製の棚、その前にはラルと呼ばれた者と思しき青年の座る立派な椅子と、机にはPCのような機器や書類が無造作に置かれている。

 見れば、オフィスにあるような机とは形状が違うことが分かる。

執務机という奴だろうか。

 床にはこれまで通路に敷かれていたものと同じ赤茶色のカーペットがあり、部屋の隅には観葉植物の植えられた鉢が置かれている。

 一言で表すなら、執務室。

 ここが自分の知っている日本と同じであるなどとは、イナには到底思えなかった。


「ようこそ、PLACE日本支部へ。俺はここを任されてる、アーキスタ・ライルフィードだ」


 眼鏡をかけ直しながら席を立った青年、アーキスタは、身にまとうワイシャツを着直しながらイナの前に立つ。

 若い。

 それが、イナが最初に抱いた印象だった。

 年齢は20代後半、いや半ばくらいか。

 立派な髭を蓄えた中年の男などとは、程遠い。


「あ、えっと、俺は……瑞月伊奈(イナ)です」

「イナ、だな。俺のことは好きに呼んでくれ」

「はあ」


 ――いきなり呼び捨てか。


 見たところ髪は茶色だが虹彩は青く、人工のもので覆っている様子はない。

 名前からしても日本人ではないだろう。

 であれば、人との付き合い方にも違いがあると考えるべきか。

 何よりこんなことで一々目くじらを立てている余裕は、今のイナにはない。


「おそらく今聞いておきたいのは、ここに至るまでの過程だと思うが、どうだ?」

「まあ、知りたいです」


 むしろほかに優先して聞くべきものが何なのか、イナにはよくわかっていない。

 そのためひとまずは伝えられることを素直に受け止めようと、聞く体勢になったところで。


「と、その前に。まずはエイグに乗ってから、覚えている限りのことを教えてくれまいか」


 まず飛んできたのは質問だった。

 一応は覚えているものの、連合軍にいたなどと言えばどうなるかわかったものではない。

 だが、イナは上手に嘘の言える人間でもない。

 ゆえに半ば自棄になりつつ、正直にこれまでのことをかいつまんで話した。




 ゼライドの名を出したり、復興部隊でのことを話しているときは、皆何やら動揺している様子だった。

 だが最後の追放の件の時には、何か合点がいったような反応を見せていた。

 とりあえずは、いきなり銃を向けられることはないようだった。


「……なるほど信じがたい点はあるが、おおよそは理解した」


 じっくりと情報を吟味するように床を見つめていたアーキスタは、ひとまずの区切りをつけたらしく、こほんと咳払いをする。


「では、今度は君が意識を失っていた間の話をしよう」


 いよいよだ。

 イナは姿勢はそのままに、無意識に心の中で身構える。


「2日前だ。ドイツでの戦闘の後、戦場に取り残された一機のエイグをそこのレイアが回収した」


 イナは隣に立つレイアの方を見る。

 ということは、彼女もエイグに乗っているということか。

 否、この風体で戦っていないという方が不自然だろう。


「連合軍で話を聞いたなら、エイグやエイグに乗る者の危険性は知っているだろう。ゆえにイギリスでの仲間は警戒しながら投降を呼びかけたが、君からの返事はなかった」


 その時にはもう意識を失っていたのだろう。


「だが、代わりにコアへ続くハッチが開放された。エイグは搭乗者を危険にさらすようなことをしないと考えられていたため警戒を強めたが、中で発見されたのは意識を失った君だった」

「………」


 イナの眉根が寄る。

 それはつまり、シャウティアが守るべき対象たる搭乗者、イナを裏切ったということだろうか?

 答えを得る手段もなく、アーキスタの話は続く。


「連合軍からの工作員といった可能性も考えられたが、俺たちの実質的な指導者――イギリス支部の司令官であるズィーク・ヴィクトワールの命によって、保護という措置を取られることになった」

「……随分と不用心な気がしますけど」


 失礼だろうと思ったのは、発言してしまったあとだ。

 しかしアーキスタも、レイアもそう思っているかのような複雑な表情を見せる。

 イナとて、そのまま拷問を受けたりしたいわけではない。

 だがズィークという人物の判断に、些かの疑問が残るのも確かだ。


「むろん、あの人もただの思い付きでそう命じたわけじゃないらしい。一応は納得できる理由がある」


 どこか呆れたように言って、アーキスタは机に置いてある機器を操作する。

 するとそこから、宙に向けて平面を映し出した。

 ディスプレイに代わる、立体映像による画面――イナの見慣れた仮想画面(ディスプレス)と同じだった。

 どうやら世界は違っても、技術の行き着く先に関しては似通うものがあるらしい。


 そこには、エイグのシルエットと思しき画像が二つ並んでいた。

 片方にはこれといった特徴は見られないが、もう片方には見覚えがある気がした。


「右側が、ドロップ・スターズ――と、知ってるよな?」


 首肯する。


「そこから取り出した、いわゆるデフォルトのエイグのデータだ。そしてもう片方は、君が起きるまでに採った、あの赤いエイグのデータだ」


 やはり、シャウティアのようだ。

 しかし並べられただけでは、形状以外に大きな差は見られない。

 いや、もしかするとそれは十分な差なのだろうか。


「俺達は戦闘経験を多く積んでいる奴のエイグを、カスタマイズするようにしている。たぶん、それは連合軍も同じだ」

「でも、俺は野良エイグで」

「そうだろうな。だが、それでもおかしなところがあった」


 アーキスタが手元でキーボードを操作すると、二つのエイグの画像が拡大される。


「装甲、およびフレームの材質がそもそも違った。もとよりエイグの装甲は未知の素材が使われているが、君の乗っていたエイグはソレとも異なる、また別の未知だったんだ」

「つまり、連合軍でカスタマイズされたわけではない……と?」


 そのあたりは、イナにもよくわかっていない。

 急に現れたとはいえ、それが連合軍のものでない確証はなかったからだ。

 だが、それが正しいのなら。


「おそらくそうだ。そして理由はそれだけではない」


 彼はまた操作し、何かを表す数値を二機の画像の上に表示させた。

 デフォルト・エイグの方はAve.94.1%とある一方、シャウティアの方は100%と表示されている。

 そして画面上部に書かれているのは――「Exclusion Rate」。

 何かの除去率ということか。


「ドロップ・スターズから取り出したエイグには、どうしても除去できない隕石の欠片が各所に付着したまま残る。どれだけ入念にやったとしてもだ」

「じゃあ、これがその除去の度合いを示したものなら、シャウティアが100%なのはおかしい……?」


 アーキスタが頷く。

 隣のレイアも同様で、シエラは納得したようにほうと唸っていた。


「連合軍のエイグを鹵獲したこともあるが、やはり似たような数値に落ち着いている。完全に除去することが困難であるにもかかわらず、君の機体からは隕石の欠片が発見されなかった」

「つまり……?」


 言っている意味は理解できる。

しかしイナはそれがどういう結論を導くかは分からずにいた。


「ドロップ・スターズ以外の手段で地球にもたらされたとしか言えない。今のところは」

「――いや、ちょっと待ってください」


 と、イナはふと雷に打たれたように気づくことがあり、ここまでの流れを叩き斬る。


「もしかして、俺が別の世界から来たなんて思っていたりするんですか?」


 イナの素直な疑問にアーキスタは、ばつが悪そうに頭を掻いた。


「まあ、そこが最後の理由だ。俺も随分突飛だとは思っているが……薬を投与された痕跡もなく、記憶に異常があるようでもない。何より、ソレが無視しきれない証拠になってしまっている」

「?」


 言っている彼自身、半信半疑のような口調とともに指先を向けたのは――イナ。

 否、どうやら違うようだ。


「君の服だ」

「……???」


 眉間にしわが寄り、首も傾く。

 服が何の証拠だというのだろうか。


「服のメーカーだよ、イナくん」

「メ、メーカー?」


 シエラからフォローを入れられても、イナはまだ答えにたどり着かない。


「その服は、ユナイテッドクロースというメーカーが作ったらしい」

「は、はあ」


 レイアもヒントじみた口調で言うが、イナは自分の着ている服のメーカーなど気にしたことはない。


「……ん?」


 しかしそこでようやく、イナは違和を覚えた。

 ユナイテッドクロースについてさほど詳しいわけではないものの、世界的に有名な衣服メーカーであることくらいはなんとなく知っている。

 なのに、らしい、とはどういうことか。

 ほとんど答えに予想はついていたが、イナは自分以外の次の言葉が待ち遠しく感じられた。


「気づいたか。そんな名前のメーカーは、この世界に存在しない。おそらく大衆向けの量産品だろうが、それを主としている企業の名前がいくら調べても出てこないのはおかしい」


 レイアの言葉が、勢いよく振り下ろされたハンマーのような衝撃をイナに与える。

 灯台下暗しとはこのことか。

 彼は最初から、異世界の人間である証拠を身にまとっていたのである。


「これらの理由を並べられると、真っ向からそれでは納得できないとは言い難い。だが、疑念がすべて晴れるほどの強さはない――わかるか?」


 アーキスタからの問いに、イナは頷く。


「……たぶん、今の間ははっきりした答えは出せないんだと思います」

「焦ることはない。君が困らない限りは」


 困っていないと言えば嘘になる。

 できることなら、イナは今すぐにでも帰ってチカに会いたい。

 だが、そのための手がかりは何もつかめていない。

 現時点において、元の世界に帰れる可能性はゼロだ。

 仮にどこかに手がかりがあったとして、それを見つけるまでにどれだけかかるかはわからない。

 それまで自分の身を預けてもいいのだろうか?

 そんな余裕もないくせに、イナは迷っていた。


「先ほども言ったが、PLACEは君を保護する。これは変わらない。君が連合軍に寝返ったりしない限りは、ここが君の居場所だ」

「……いいんですか?」

「さすがに、身寄りのない人間を見捨てるほど鬼じゃない。それに、連合軍から追い払われたんなら、寝返る所なんかないだろう?」


 当然のように述べられたアーキスタの言葉は、どこまでも優しく感じられた。

 いっそ騙されていてもいいと思えるほどに。

 それほどまでに、イナの心には余裕がなかったというのに。

 自分というものはやはり、認識に限界があるらしい。


「正確な語源は不明だが、俺はPLACEという組織名をそのように解釈している。身寄り無き者のための居場所――現に、避難民の受け入れも積極的に行っている」


 今更一人増えたところで大したことはない、ということか。


「俺が、エイグを持っていることについては?」

「戦力差は決して小さくないから、戦ってほしいのが正直なところだが。見るからに戦いたくなさそうな奴を出してもしようがないことくらいは分かる」

「……いいんですか、ほんとうに?」

「君が嫌だと言っても部屋に押し込むつもりだ」


 むろん、イナにそんなことを言うつもりなどない。

 ただ自分にとって都合がよすぎて、理解が追い付かず、疑ってしまっていたのだ。


「まあ、じっくり考えたいならそれでもいい。――そうだ。シエラがよければ、相談相手になってみてはどうだ?」

「私が、ですかっ?」


 急に振られて驚いたのか、シエラの声は上ずっていた。


「そうだ。見たところ歳も近そうだし、その方が話しやすいだろう」

「わ、私でよければ。いつでもいいよ、イナくん」

「……ん、ありがとう」


 優しく微笑みかけるシエラに、イナも今できる限りで精一杯の笑顔で応える。

 アーキスタが言ったように、落ち着いて整理する必要があるのだろう。

 他人がどうこうではなく、自分がどうするべきなのかを確認するために。


「では、この話は以上としよう。何かあれば、シエラにでもいいから言ってくれ」

「わかりました、ありがとうございます」


 心からの感謝を込めて、イナはアーキスタに頭を下げる。


「なに、自分のするべきことをしただけだ」

「くさいぞ、ラル」

「……あのな」


 レイアからの鋭いツッコミに、アーキスタは首をすくめる。

 愛称を用いているという点からして、二人は良い仲なのだろう。


 もっと殺伐とした雰囲気を想像していたイナにとっては拍子抜けの現実であったが、それも、今後を考えるうえでの余裕を与えられたと思うべきだろう。


「では、シエラ。ミヅキを部屋まで送ってやれ。私は格納庫に向かう」

「うん。じゃあ行こっか、イナくん」

「あ、ああ」


 不意にシエラから手を引かれ、イナは振り払う気にもなれないまま部屋を出た。

 彼女が特別そうなのか、それとも彼女の過ごしてきた環境が原因なのかは定かではないが、思春期の少年には些か刺激が強い。


 ――いや、俺にはチカが……!


 付き合っているわけでもないのに、イナは想い人の顔を思い起こしては首をぶんぶんと振る。


「?」


 一方でそんな奇行を目にしたシエラは、不思議そうに見ていたのだが。


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