第30.5話「幕間⑥」:A
「マルグリット・ヒュルケンベルクの反応がロストしました。ほかのテュポーンズ構成員は目的を達成ののち、目標地点まで撤退を済ませています」
「もう少し暴れるものかと思ったが……エイグ化が起こりやすいのが難点か。こんなところだろう」
フェーデ・ルリジオンからの報告を受け、ファイドは無関心にコーヒーを啜る。
元より当て馬のようなものだ、直接的にPLACEの戦力を削げるとは思っていなかったが。
(戦闘技能はある程度学習させたはずだが、感情の暴走で発揮せずに終わったか)
それ以上に、叩き上げだったはずの相手が悪かったようにも思える。
まあ、『こうなる』ということを知らしめるデモンストレーションの目的が果たせればいい。
多少の戦力増強も、此方に比べれば微々たるものに過ぎず、依然として恐れるには足らない。
(シャウティアは搭乗者の不調、PLACEに渡ったルーフェンは不完全ながら稼働している……)
マルグリットとシオンから得たデータを元に考えを巡らせるが、動揺するには至らない。
障害の一つであるズィークも排除し、この期に及んで下手の打ちようもない。
気になるとすれば、イナやシャウティアを助けるような、あからさまな神風が吹いていないことくらいだ。
諦めたか、あるいは策が残っているのか。
漆黒のシャウティアがいるだけで、どうにかなるとも思えないが。
「エフゲニーは?」
「フランス支部に向かっています。じきに目標と接触するかと」
(……少し、様子を見てやろうか)
半端にコーヒーを残したカップを置き、ファイドは通信端末を手に取った。
「席を外します」
自分への忠誠心ゆえに、話の邪魔をすべきでないとフェーデは部屋を出ようとする。
「大した話ではないのだがな……ああ、そうだ」
「何か?」
指紋認証のパネルに触れ扉を開けたフェーデの背に声をかけ、振り向かせる。
「スレイド君の調子はどうかね」
昨日の天気予報でも尋ねるような調子で、ファイドは尋ねる。
「目的を果たせない苛立ちから精神の不安定さが目立っています。その一方で、蒼穹の性能は十二分に引き出されているようです」
「ならばそのままでいい。適当にケアしておく」
「かしこまりました」
孤独の中で憎悪を渦巻かせ、思い込みを凝り固めて放出させる。
マルグリットよりはましな傷を残してくれるだろう。
何か間違えたとしても、容易く処理できる。
フェーデの去った部屋で、何にというわけでもなく嘲るように鼻で小さく笑う。
「――私だ。進捗はどうかね、シアス」




