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絶響機動シャウティア-Over the Universe- 【A】  作者: 七々八夕
V《差し伸べられた》その手
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第28話「交わる蒼紅」:A4

 携帯PCのディスプレイだけが光を放つ、空き部屋の隅。

 煩わしいからとカーテンも閉めたままで、ミュウは作業に打ち込んでいた。

 データの解析、情報の整理、装備の設計。

 子供にできることなどたかが知れているだろうが、それでも手を付けずにはいられない。


(世界各地で噂されてる黒いシャウティアは実在してる。目的はわからないけど、こっちの邪魔ではなさそう)


 目の当たりにしたのは一瞬だが、性能はシャウティアと同等のものと考える。

 連合軍――ファイドがその出自に関わっていないのなら、別の陣営がいるのは間違いない。

 シャウティアに『予備』。今後の作戦を考える上では願ってもない助力だ。

 問題は指揮下になく、それとして確かに数えることができないこと。

 それは、もう一つのことにも言える。


(あの推進器を活用できたらいいんだけど)


 あまり余裕がなく、これまで触れる機会に乏しかったが。

 連合軍の秘密兵器と言えるであろう蒼い推進器を、前作戦の後に装備していたエイグごと回収できている。

 問題は罠の可能性があり、下手に弄れないところにある。

 そうやすやすとこれほどの兵器を流していいものか? 誰でもノーだとわかる問いだ。


 しかし現在に至るまで、あのエイグ含めて異常を起こしていない。

 そもそもエイグに異常があれば、あの搭乗者――チカも何らかの変化があってもおかしくはない。

 付き合いが短いため何とも言えないが、イナが何も言わないのならあれで正常なのだろう。


(……解析の強硬もイイ、か)


 自棄になっているような自覚はあった。

 搭乗者との関係がどこまであるか定かでない行為は、本来すべきでない。

 それが切り札――イナの活動に関わることであるのだから、余計に。


(だからって黙ってても光明は見えない)


 敵の方をにらんだまま、あるかわからない好機を待ってどうなるというのか。

 ファイドの気まぐれですべて焼かれたらどうなる?

 イナにそれを言えば、不安が煽られてすぐにでも飛び出してしまいそうだが。

 それでモノにできる好機を潰してしまってはしょうがない。


 ――罪なら自分が背負えばいい。


 どうせ、独りなのだ。

 身近にいた肉親は、アーキスタすらも行方をくらませた。

 すべてが終わっても帰る場所がない。


(解析に失敗して最悪あの子が死んでも、イナが暴走して全部終わらせてくれるかも。成功すれば……正攻法でやれるようになれば御の字か)


 いろんなことに目をつむれば、これが正解な気がしてくる。

 責任を自分という子供一人に背負わせるだけで済むなら、それでも――そう思ったところで、違和に気付く。


(それで通るなら、イナを使い潰すのも正しくなるじゃない)


 もはや正論を言えばいいという世界でないのはわかっている。

 自分で矛盾していることにも、気づいている。


 失敗したときに諦めるのは、自棄になっている自分。

 成功してイナを楽にさせたいと考えているのは、辛うじて残る理性の自分。

 どちらも、自分だという認識がある。


(……でも、そこ以外に突破口はない)


 止まっていた手を動かし、ほぼ出来上がっている2つの設計図データにふたたび目を通す。

 片方はエイグのカスタマイズ案として既存の発想を大きく超えている。

 だとしても、それは対抗策にはならない。

 ディータは何を考えてこんな提案をしたのか。

 今更彼女が敵だとかを疑おうとは思わない。ただ、意図が分からない部分が増えてきた。

 せめて丁寧に説明してくれれば、と思わずにはいられないが――そうできない理由があるのだろう。


 どちらにせよ、戦闘員でもない自分にできることはこれくらいだ。

 居場所を失いたくないのなら、価値を示し続けるほかはない。


(もうみんな、手を汚してるんだから)


 そこに協力している自分も既にそうなのだろうが。

 構うことはない。行くなら地の底まで行ってしまえばいい。

 滅びかけている世界で子供一人の犠牲など、取るに足らないものなのだから。


 ――ああ、また矛盾してる。


 イナやシエラ、アヴィナのことを粗末に扱いたいわけではないのに。

 皆が危機に立ち向かう中で、自分を大事にしていたくないだけなのに。


(……髪)


 ふと、抜け毛が視界に入る。

 途中までは染めていた桃色だったのが、手入れを怠っていたことで地毛の黒髪が根本に混ざっている。

 この髪色も自分が自分を定義するためと言い訳していたが、嘘をつき続けなければすぐに本性が顔を出す。


 生まれつき目の色が普通でない者たちとはわけが違う。

 自分は普通なのだ。

 端末の扱いや諸々の知識も、時間が余っていたからほぼすべてをそこにつぎ込んだだけのこと。

 エイグがいればそう難しいことはしていない。


 そんな自分が提供できる価値は、それでも信頼を得ている技術を従順に用いること。

 あるいはそれが分水嶺なのだろう。

 何にしても、時間は無限ではない。


(……あの子がいないとこんなにも寂しいのね)


 アヴィナはアヴィナで状況が変わり、遊んでばかりもいられなくなっているらしい。

 いつもは自分も鬱陶しそうにしているものの、邪魔になりそうな時には彼女は賢くそれを察して身を引くことのできる人間だった。


(他人が変わったことを嘆くのは、変われない自分への八つ当たりかしら)


 小さく自嘲の溜息を吐いて、ミュウは作業を再開する。

 キーボードを叩く音だけが聞こえる間は、不安や時間を忘れられる気がしていた。


 しかしそこに沈もうとしていたのを、不意のメッセージ通信が邪魔をする。

 今更自分に何か送ってくるとすれば、ディータか、心配性のイナかと思っていたが。


(……『ルーフェン』……)


 確か、それは例のエイグの名前だと記憶している。

 そしてその搭乗者は、この場にいるはずもないチカ。

 まさか何かしらの手段で感づかれたのかと背筋に悪寒が走る。

 そんなものは思い込みだと言い聞かせて内容を見て、残念ながら根拠がなくとも怯えたくなってしまった。


『私のエイグを、調べてくれませんか』


 思考していただけのはずのことに、肯定的な答えが返ってきてしまったのだから。




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