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絶響機動シャウティア-Over the Universe- 【A】  作者: 七々八夕
V《差し伸べられた》その手
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第28話「交わる蒼紅」:A3

「さて、こんなところでいいかなあ」


 施設の構造を知らないなりに、雰囲気で人気のないところに目星をつけて立ち止まる。

 所作だけでわかるというものでもないが、こうして対峙すると、いままで命を狙い合っていた相手だとわかる。


「あらためまして、ボクはアヴィナ・ラフ。砲撃と狙撃での支援はおまかせあれで通っています」

「私はイアル・リバイツォ。砲戦仕様のエイグ『アンジュ』を操縦しています。階級は――もはや無用ですね」


 張った胸に手を当てて自己紹介するアヴィナに、イアルは丁寧に頭を下げて応える。

 もちろん、こんなことがしたくて二人になったのではなく。

 おそらくはイアルの方もその理由にはとっくに気づいていることだろう。


「さて、その『目』だけどさ」

「ええ、偶然で片付けることは難しいでしょう」


 妙に親しくできているのも、この親近感のせいか。

 アヴィナと同じく、イアルの双眸は紅色なのだ。

 アルビノであるディータのように、自然に発生するようなものではない。

 ので、とりあえずジャブをかける。


「『アルフレッド』っていう人に覚えは?」

「……ありません」


 嘘を言う理由はないだろうから、真か。


「恐縮ですが、ある時期を境に記憶がほぼないのです。知らないことの方が多いかと」

「その時期って大体どのくらいかわかる?」

「……3,4年ほど、でしょうか」


 ふむう、と大げさに声に出して首をかしげる。


「ちょっとボディチェックしてもいーい? ボクの知ってる人なら特徴があるみたいなんだけど」

「ええ……構いません」


 彼女の好意に甘え、姿勢を低くして協力を得ることはできたものの、アルフレッドの手帳に書いてあった特徴は特にみられていない。

 であれば、彼とは関係がないのだろうか。


「ヒュレプレイヤーだったりは……」

「しませんね」

「む~ん?」


 であれば、ひとまずイアルと自分はおそらくは仲間であるが、育った場所は別。

 せっかく似た境遇の人間と会えたと思ったのに、分からないことが増えただけだ。

 だが、想像だけならいくらでも膨らむ。


「例えば、だけどぉ」

「はい」

「ボクらはヒュレプレイヤーを作ろうとしてできた失敗作なのかも」

「……クローンのような?」

「ま、そこはわかんないけど。記憶がないにしたってこんな体格に差があるもんかねえ」


 アヴィナより先に生まれたとして、臨んだ形――プレイヤーでないからと『廃棄』を予定されていたとすると、それを独断で連れ出したアルフレッドの一団に含まれていないのは疑問が残る。

 単にアルフレッドが連れ出せ切れなかったのか。

 アヴィナより先かあるいは後に生まれ、成功の気配があったからしばらく置かれていたのか。

 そこは多分、さほど重要ではなさそうだ。


「ボクも記憶がなかったけど、研究者っぽい人に保護された後のことは少し思い出した。それ以前のことはわかんないから、作る作っただのは妄想だけど……ありそうじゃん?」

「……そうですね」


 目の当たりにしたことはないが、ヒト一人作るくらいの技術はあるだろう。

 普段の生活であまり痛感することはないが、この世界はそれなりに発展している。

 ドロップ・スターズのせいでそれどころではなくなっているだけで。


 それとは別に、さきほどから妙なものを感じている。

 イアルの反応はすでにその確信を得ているかのような歯切れの悪さがあるのだ。

 知っているというよりは、その話を伝え聞いたかのような。

 となれば――これはほぼ確実なものと考えても。いい、だろう。

 半ば最悪のパターンと想定していたのだが。


「どこまで行動を共にできるか分かりませんが、何かあれば共有を行いましょう」

「……ん~。できればみんなにはヒミツでもいい? あのおっちゃんには話してる?」

「いえ、記憶がないということのみです。特に支障もなかったので」

「んじゃ、なんかわかるまではボクらだけのヒミツってことでサ。乙女の秘密だし?」


 肩を抱いて体をくねらせるが、イアルは不思議そうに見つめるばかり。

 そもそもが会ったことのないタイプなのだろう。

 アヴィナとしては引かれないだけでとりあえずはやりやすい。


「あの少年には特に突飛な話だから、ですか?」

「……まあ、それもあるねえ」


 口をへの字に曲げて、天井の隅を見つめる。

 あれこれと思いつくものはあるが、突き詰めれば『イナに嫌われたくない』のだ。

 強すぎる不安がそうさせる。


「ありそうって言っても、わけわかんない話だしさ。ウチのメイドさんはたぶんうまいこと受け止めてくれるだろうけど、その時までは、ね」

「ええ、ひとまずはそれで。ただ、重要で共有が必要だと思った際には他の方にも伝えます」

「そだねえ」


 何かの渦中にいるとはいえ、その中心に何があるのかわからない。

 もしかすると何も起こることはないのかもしれない。

 願望を交えている自覚はある。


 それでも、未だにはっきりしない自分の正体が明かされるとき、正気でいられる自信はない。


「いやあ、仲間ができてよかったなあ。そっちはあんまりそういう気分じゃないかもだけど」

「いえ。あの人以外の交友関係というものがなかったので……ぎこちないかもしれませんが、こういうものかと感慨を覚えているところです」


 友人、というには少しいびつな気はする。

 秘密を共有している以上、密接な関係にならざるを得ない。

 そこには必ずしも、親しさは必要ないのだが……。


(どーせなら、仲良しさんのほうがいいもんねえ)


 そう自分に言い訳しつつも、ひとつ拠り所を得たことへの安心感はあった。

 空虚な自分が少しずつ満たされていく。

 それ自体は自分が求めていたことの筈なのに。


(……やっぱし怖いね)


 満たしていくものが自分の望むものであるとは限らない。

 わかっていても、勝手に自分は満たされていく。

 それがやがて形になった時――自分は自分なのだろうか?


(……まるでボクが『アリサ』になっていくみたいな)


 本来の自分に戻っている、とでも言うべきか。

 しかしそれを不安に思うということは、自分はそれを望んでいないのだろう。

 ならば、ここで止まるべきか?

 空虚な部分を残したまま。『アヴィナ・ラフ』のままでもいいのではないか?


(……子供が抱えるには、それって重すぎない?)


 自覚がある範囲で言えば、アヴィナは4歳そこらである。

 どこで知性を身につけたかは定かでないものの、精神は未発達でしかない。

 そんな少女に自身の証明をさせようなど――


(ディータもミュウも……いまは難しそうだし)


 いつの間にか、ガス抜きのできる相手が遠ざかってしまっている気がする。

 気付けば一人。

 以前までの自分なら、イアルにすり寄って代わりにしていたかもしれないが。

 今はどうにも、そういう気分にはなれなかった。


 その心中など測れるはずもない、イアルの視線も忘れて。


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