Prologue5「テュポーンズ」:A
諸君、改めて名乗らせていただこう。
私の名前は、ファイド・クラウド。
長く国連事務総長を務めていた。
ドロップ・スターズ内から発見された『エイグ』を奪い、テロ活動をしていた反連合組織PLACEの妨害を受けながら、復興活動と並行してこの対処にも当たっていた。
しかし先日、PLACEの侵攻作戦によって軍の中枢を破壊され、私も逃亡に失敗した。
残った戦力がいかほどであれ、連合軍がPLACEに勝てる算段はない。
断じよう、連合軍は敗北したのだ。
しかし、戦いはまだ終わっていない。否、再び始まると言うべきだろう。
――『テュポーンズ』。
私はかの名のもとに再び立ち上がり、仇なすものをすべて撃ち滅ぼしてみせよう。
■ ■
「……確かに、これは厄介だな」
異常な挙動を見せていた敵エイグとその武装を沈黙させて、黒いエイグの男は呟いた。
通常のエイグでも対処が不可能なわけではなく、完全に絶望するにはまだ早い。
それでも初めて目の当たりにした際の衝撃は凄まじく、その一瞬さえあれば容易く討たれてしまう。
経験のある彼ならばともかく、これまで大した戦闘のなかったこの時代では、いたずらに命を散らすばかりだ。
対抗手段は限られている。しかも、それに長く依存することはできない。
それ自体はとっくに気付いているだろうが――どう動くかは、彼ら次第になる。
(俺を介入させている以上は、保証されていると思いたいが……)
生憎と、返答はない。
西暦2032年11月。
逃亡後に行方不明となっていたファイド・クラウドによる声明が全世界に発出されて、一週間。
最初はその意味を理解できなかった者も多い中、実際の襲撃を受けて徐々に至っていく。
PLACEのみならず連合軍基地もその被害を受け、民衆は混乱を極めるばかりであり、戦いに身を置く者たちもどこへ向かうべきかを見失いつつあった。
その間も『テュポーンズ』は、高慢で緩慢な侵略を続けている。
いつでも世界を焼く用意があるが故の余裕か、別の目的があるが故の待機か。
いずれにしても、世界は唐突に終焉を迎えようとしていた。
裁きを下す神など、現れるはずもなく。
それでも人々は、この状況を打破する救世主を求めていた。
(――叫べ、イナ)
男は次の目標へ向かって飛翔しながら、どこかにいるはずの少年を想う。
(セカイは、お前を待っている)




