Epilogue4「ここから先は」:A
「……粗方の話は聞いたわ」
基地内で情報が錯綜しておりアーキスタへの報告もままならない中、イナとアヴィナの二人はPLACE日本支部へ帰還して最初にミュウの研究室へと向かった。
彼女もざっと把握はしているようだが、やはり確かなことは分かっていないらしい。
「ひとまずアンタ、『帰ってきた』ってことね」
むろん彼女が指しているのは世界間の移動のことだろう。
イナも詳しくは知らないが、移動している間イナ自身がどうなっていたのかは定かではない。
少なくとも、時間が多少経過しているようなのだが。
ミュウはそんな彼に、何を言えばいいのかと頭を悩ませるようにため息を吐く。
少なくとも、歓迎している様子はなかった。
「もう、ここでの役目は終わったはずよ」
シャウティアという異次元の力を用いて、PLACEに協力し作戦を成功させる。
それだけならば、彼女の言う通りのはずだ。
だが、アヴィナから既に聞いてしまっている。
「また何か厄介なのが出てきたって。だったら」
あくまで戦う意欲を見せるイナに、ミュウも段々と苛立ちを隠せなくなっていく。
「今度は勝てないかもしれないのよ。私の推測が正しいのなら――アンタでも死ぬかもしれないのよ」
いつになく感情を露にする彼女に、イナもたじろぐ。
だが、それでも、と言わなければ。
言わなければ――帰ってきた意味がない。
「駄目よ」
ミュウはイナの言葉を遮る。
これから何を言うかなどお見通しであるように。
――まあ、顔を見ればすぐにわかることだが。
「アンタはもう、関わらない方がいい」
「……ここまで来て、無関係にはならないだろ」
「ええ、そうね。最後に決めるのはアンタだわ。意志が固いのなら、私の言うことなんか無視すればいい」
ひたすらに責めるような口調で、進退いずれを選んでもイナに悔いが残る。
だが彼女がそこまで考えているようには見えず、ひたすら年相応に喚いているように見える。
「……ねえ」
しばしの静寂、アヴィナすらも口を開けない空気を、それを作ったミュウ自身が消え入るような声でやぶった。
「どうしてこんな、ちっぽけなテロ組織なんかのためにそこまでしようと思うの? 変よ、ただの子供が。その子供に依存しなきゃ勝てないって何よ。そんなの、負けて当然なのよ」
《……イーくん、少し離れよう》
イナに対して話すというよりは溢れ出すものを止められなくなってしまったミュウを見かねてか、エイグの通信を介してアヴィナが提案する。
《ボクはミュウのそばにいるから、イーくんたちはあんまり人の目につかないように部屋に行って。今はあんまり出歩かない方がいいよ》
(……わかった)
ミュウでこうならば、他の隊員たちも平静を保てているとはかぎらない。
それぞれ目配せして動き出したところで、イナの背に俯くミュウの声がかけられた。
「イナ」
めずらしく名前で呼ばれ、思わず足を止めてしまう。
確実にポジティブな言葉をかけられるのではない。
むしろ心炉に重りを乗せて、足を引っ張るものになるだろう。
それでもイナは、耳を傾けてしまった。
友人を無視してはいけないという、愚直な優しさによって。
「――もう、私達の為に戦わないで」
それで、自分が傷つくと分かっていても。




