ユニーク武器が実は産廃だった話
この日のために用意した武器やアイテムと一緒に、祠までの地図を確認しながら深い森の中を迷いなく進んでいく。
俺の装備はゲーム時代から今日まで愛用していたメイン武器、龍神の杖槍。
レイシィは訓練用の木剣ではなく、一応戦うための武器となる量産品の鋼の剣だ。
準備万端といったところである。
まあ祠には魔物除けの結界が張られており、聖剣に近づけば近づくほど安全地帯となるのだが、それでもその道中には必ずといって良いほど魔物には遭遇する。
この装備は、そういった事態を考慮しての武装といっていいだろう。
もちろん俺からしてみれば、この森に住む程度の雑魚相手に装備なんて必要ないし、武器すら装備せずに素手で粉砕できるのだが、それだとちょっと格好がつかない。
どう恰好がつかないかというと、聖なる祠までピクニック気分で行くのは聖剣に箔がつかないという意味で、恰好がつかない。
よって俺の趣味で飾ってあるあの剣をカッコよく演出するためにも、完全武装が求められるのだ。
そして時折襲い掛かってくる雑魚を杖槍で仕留めながら、レイシィを庇いつつも祠へと辿り着いた。
「うし、着いたかな」
辿り着くと、そこには古代文字が彫られた石碑に、キラキラと光り宙を舞う謎の粒子、そしてこれでもかっていうくらい幻想的に彩られた古びた祠があった。
当然その中心には剣が一本刺さっており、少し古ぼけた感じにデザインした事により説得力が生まれ、臨場感や雰囲気も文句なしの伝説の聖剣が主として君臨している。
自分で飾った剣を改めて見たが、やはり納得のいく出来だ。
俺のメイン武器である龍神の杖槍とくらべても、性能はともかく見た目のそれらしさだけは数段上に見える。
これなら弟子であるレイシィも納得してくれるに違いない。
「はぁ、はぁ、はぁっ。こ、ここがそうなんですね……。凄い……、うぷっ」
「ん、どうした。体調が悪いなら少し休むか?」
「い、いえ、大丈夫です師匠。道中の魔物が予想以上に強かったりしましたが、この程度でへばっていられません。それよりも、試練を受けなくては……」
「そうか。ま、ほどほどにな」
どうやら、レイシィにはまだ森の魔物の相手はキツかったらしい。
俺としてもかなり庇いながら戦ってはいたのだが、経験を積ませるために手負いの雑魚を一匹か二匹適当にけしかけたのが良くなかったのだろうか。
こういうのは何事も経験なので、今回はギリギリ傷を負わずに勝てる相手を吟味していたが、調整をミスったかな。
彼女は少し頑張り屋さん過ぎる性格なので、戦闘中にも弱音を吐いたりしない事から調整が難しい。
今日はご褒美として武器を取りにきているのだし、もしついでで行っている修行がキツかったのならそう言ってくれないと困るというものだ。
とはいえ、そういった弟子の状態を見極めるのも師匠の務めなので、帰りは楽をさせてあげよう。
よく見ると足もカクカクと震え覚束ないようだし、帰りは抱っこしてあげてもいいかもしれない。
「さて、それでは聖剣を抜くとするか」
「はい、師匠ならきっと大丈夫です。絶対に抜けるって、私信じてますから……」
「ん?」
あれ?
俺が抜くの?
いやいや、気を使わなくて良いよレイシィちゃん。
自分が使う剣なんだから、こういうのは自分が最初に手に取りたいだろうに。
あ、でもそうか。
もしかしたら当初用意していた聖剣に弾かれてしまうイベントを気にして、俺に遠慮しているのかもしれない。
だからまずはそのイベントを確認してから抜こうとしてくれているのだろう。
まったく、師匠想いの良い子だ。
俺なんかにはもったいない弟子だよ。
「そっか、レイシィの気持ちは分かったよ。じゃあまずは俺からやらせてもらう」
「はいっ」
彼女は信じていますといった眼で、両手を胸のあたりでぎゅっと押さえながら祈るようにこちらを見つめる。
シチュエーションは完璧といったところだろう。
ちなみにあの聖剣だが、本来の名称は神王の剣と呼ばれる、戦士職専用となるゲーム時代のユニーク武器だったりする。
ユニーク武器というのは装備できる職業が固定されたその職業専用の武器であり、さらに一度装備すると他人へと譲渡できない制限がかかる、極めて特殊な装備の総称だ。
またその特徴として、通常とは違って装備者へ要求するレベル制限がない。
そのため初心者プレイヤーでも使える強力な武器という事で、一時期は注目を集めた物だ。
しかし一見すると良い事尽くしの装備に見えるこのユニーク装備だが、実はゲーム時代では完全に産廃となるゴミアイテムだった。
なにせ一度使うと制限がかかるため、より強い武器に乗り換えた時に店売りする事もできないし、メインキャラの御下がりとしてサブキャラへと譲渡する事もできないのだ。
しかも入手方法は割と敷居が高く、ゲームのメインシナリオを長らく進めると現れる、ユニーク化工房という施設で必要な素材と一緒に武器を製錬すれば完成する。
そう、長らくシナリオを進めるのだ。
もちろんその頃になればレベルも上がり、既にユニーク装備に頼らずともそれ相応以上の特殊な武器や、強力な武器を揃えることが出来る。
いまさら高価な素材を集めて鍛冶などの生産活動に手を出すまでもなく、敵モンスターからのドロップや、ボスモンスター討伐による報酬などで、強力な装備が整ってしまうのだ。
故にユニーク武器は産廃と言われ、【完全にネタ扱いの初心者救済用武器】という立ち位置になっていたという事になる。
だが、だからこそ聖剣イベントという、今回の状況には綺麗に適応する。
なにせ俺には装備できないし、一度装備したらレイシィ専用になるのだ。
まさに勇者専用の伝説武器といって差し支えないだろう。
「では、行くよ」
「……ゴクッ」
俺の出した臨場感により、同調したレイシィは背後で唾をのみ込む。
そして俺の手が神王の剣に触れた瞬間────
バチンッ!
「やはり駄目か」
「そ、そんな……」
装備意識を持った俺の手は見事に弾かれ、職業適性の問題でユニーク武器に拒否された。
 




