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謎の青年がなかなか自己紹介しない話


 盗賊少女リーズが怪しい人影を見たという話を聞いたその日の夜。

俺は挙動不審に陥ったレイナールさんを監視しつつも、時折宿の近くをうろつく人影に注意を払っていた。


 何故だかは分からないが、宿の近くをちょろちょろと動き回っている人物はこちらに接触してくることなく、つかず離れずずっと一定の距離で様子を窺っている。


 ……いや、これはもしかするとこちらに正体が悟られている事を知っていて、その上で誘っているのだろうか?

その可能性が高いな。


「レイナールさん、起きてますか?」

「ん。あ、あぁ……。どうもリーズ嬢の話を聞いてから落ち着かなくてね。すまない、起こしてしまっただろうか」

「いえ、その点はお気になさらず」


 どうやらレイナールさんも寝付けなかったようだ。

外にいる謎の人物に勘付いた訳ではないだろうけどね。


 正体はおそらく今日の話に出て来たレイナールさんの協力者、黒髪の青年その人の可能性は高いが、さてどう説明したものか。

まあ、面倒なので素直に話してしまおう。


 いずれにせよ敵だったら敵だってで戦って倒せばいいだけだ。

細かいことはいいんだよ、ぶっちゃけ。


「レイナールさん、宿の外にこちらと接触したがってる人影が確認できるんですけど、どうします?」

「なにっ! それは本当かいアース殿!」


 本当かと聞かれると、怪しいところはある。


「まあ、仮に敵だったら倒せばいいだけです」

「そ、それもそうか……。うむ、確かに。しかし接触したがっているということは、やはり彼が……」


 なにやら考え込んでしまったようだが、どちらにせよ俺が個人で接触するかレイナールさんを連れて接触するかの選択肢しかないので、相手が誰なのかを考える必要はない。


 見て確認すれば良いのだ。

こうやって行動に移せず奥手になっているところを見ると、やはり今日の襲撃の数は相当に堪えたようだな。


 まああの数は尋常ではなかったから、分からなくもない。


「いまからその外にいる人物に接触しますが、レイナールさんも来ますか?」

「そうだな、是非同行させてもらおう。もしもの時は護衛を頼むよ」

「あー、そちらの方は任せて下さい。むしろ気をつけなければいけないのは敵ではなく、こちらが手加減できるかどうかなので」


 ちなみに目標となる人物はこの宿からは死角となる場所で待機しているようだが、クールタイムの少ない初級魔導であるエネミーサーチを常時発動していれば、敵意ではないにしろ意識がこちらに向いている事は丸わかりである。


 完全に隠密職を馬鹿にしたようなぶっ壊れスキルだが、これでもまだ初級魔導なのだ。

上級魔導になるとクールタイムも長くなるが、似たような性能で敵影を感知した瞬間に対象を爆砕するスキルとかもあるからな……。


 もちろんそんな物騒なスキルを使うつもりはないが、この【ねこふんじゃった】とかいうゲームキャラクターがどれだけ異常な力を持っているのか分かる一例だ。

ゲーム時代では便利に使っていたスキルも現実世界だと考え物だな。


 うっかりフレンドリーファイアで都市ごと消し飛ばそうものなら目も当てられない。


 話は逸れたが、ようするに相手の視線はバレバレだし敵対したところで何の障害にもならないという事だ。


 そうこうしながら宿の窓から外へ飛び出ると、意識をチラチラとこちらに向けていた人物が姿を現した。


 黒髪に黒目、今は懐かしき日本人顔を思わせる風貌の青年だ。

雰囲気から察して高校生くらいの年齢だろうか。


 まさかこの異世界に日本人が居るという事はないだろうが、かくいう俺もこちらに来てから1000年。

故郷から離れて久しいのであまり勘はアテにならない。


「お、おおっ! 君は! やはり生きて……!」

「やっと出て来てくれたましたか。あまり待たせないでくださいよレイナールさん。あの悪魔の影でコソコソやるのも命懸けなんですから」


 そう挨拶を交わすレイナールさんと青年。

どうやら話にあった第一王子の協力者で間違いないようだ。


 さて、それではさっそくこちらも挨拶といこうか。

こういうのは雰囲気が大事。


「すまない、こちらも王都について早々暗殺者達に襲われ続けて警戒していた。私の名はアース・ガルディアと言う。今は成り行きで彼の護衛をしている最中だね。昼間は私の弟子達が世話になった」

「あなたは……。そうか、あなたがあの尋常ならざる気配を持つ少女達の師匠ですか。どうりであの悪魔が最近ビクビクしている訳だ。……想像以上にヤバいですね、あなた。いや、アースさん」


 そう言って青年は冷や汗を流し、緊張からか肩を震わせる。

はて、このヤバいとはなんの事だろうか。


 自分で言うのもアレだが、俺にはこの世界における魔力というエネルギーが無い。

故に魔法も使えないし身体強化もできない。

よって内在する力を推し量れるような情報はないはずなのだが……。


「君から見てもそれほどか、アース殿は……」

「ええ。初見ではただの無能者と勘違いしやすいですが、王都での活躍を考えればハッキリと分かります。彼の周囲には一切の魔力も、そして気配も感じられない。それはつまり、始まりの基礎にして終わりなき奥儀とも言える魔力操作を完全に修めたということです。こんな化け物みたいな人は異世界からやってきたと言われるご先祖様の伝説以外に、初めて目にしました。本当に実在したんですね」


 なにやら思いっきり勘違いしておられるご様子。

なんだその、始まりの基礎にして終わりなき奥儀っていうのは。


 想像の斜め上を行く返答でこちらもビックリだ……。

まさか猫勇者レイシィ以外にも同じような思考回路の持ち主がいたとは思わなかった。


「なにはともあれ、この王都の危機、いや大陸の危機にこれほど心強い助っ人はいません。事情は既にお察しでしょうが、是非あなたとあなたのお弟子さんの力を貸してもらえないでしょうか」


 そういって彼はぺこりと腰を折った。


 いや、その前にこの青年はどこの誰なんだろうか。

既にレイナールさんと青年だけの空間が出来つつある。


 イベントを起こすにもまずは自己紹介からが基本だよ君、一緒にこれから魔王イベントを盛り上げる仲間なんだからさ。



その場で自己紹介しろっていわれると、実は難しいんだ……( ˘・ω・˘ )

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