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猫勇者爆誕の日が近い話


 俺が教会を巻き込む事に決めたその日の昼、王都ヨンドルに位置する大教会の話をレイナールさんとした。

俺としてはすぐにでも教会を魔王イベントに巻き込みたかったのだが、レイナールさんを襲う謎の暗殺者達からの襲撃を一蹴し続けて居たら日が暮れ、夕方になってしまった。


 この短期間で数十回の襲撃を受けるとは、第一王子ともなると権力争いなんて日常茶飯事だという事だろうか。

ちなみに10回以上は面倒くさくて数えていない。 やっぱり立場がある人は違うね、さすがの俺もここまでだとは思わなかったよ。


 この襲撃などの関係で冒険者に扮したレイナールさんも同じ宿に泊まる事になったが、さすがに可愛い弟子であるレイシィ達と一緒の部屋は主に俺に抵抗があるため、レイシィとリーズ、俺とレイナールさんの二部屋を借りることになっている。


 元は王子であるレイナールさんが俺と同じ安宿を使うのは抵抗があるかもしれないが、我慢してもらうことにする。

王子、生きたければ耐えろ。


 まあ彼に何かあれば王子という立場を利用した教会への太いパイプも無くなってしまうし、一度護衛を引き受けた以上はちゃんと護るつもりだ。 幸い相手は大したことのない人数だったので苦労はしなかった。


 そしてレイシィ達と合流するため、今後の打ち合わせのために一度宿に集合した。


「お師匠様!」

「ただいまレイシィ、リーズ」


 宿に戻るとレイシィとリーズは既に戻っていたらしい。 余程昼からの王都観光が楽しかったのか、レイシィなんかはお上りさん丸出しで今日の出来事を語り出している。


「王都って凄いんですね! 私はこんな人が大勢いるところなんて初めてで……」

「うん」

「でもでも! こういう景色もこれからお師匠様が楽しめると思っ……」

「うんうん」

「それからそれから……!」

「うんうんうん」


 レイシィのマシンガントークが始まった。 森に引き籠っていた頃にも何回かあったが、こうなったレイシィを止める術はない。


 いまも尻尾をブンブン振りながら話し続けている。

口と同じくらいの速度で動くその尻尾に気を取られ、返事はしているが正直話の内容は聞いていない。

かわいい。


 そんな事を続けていると、ふとレイナールさんと黙って聞き専に回っていたリーズが呟いた。

どんな事にも積極的な猫勇者レイシィとは違い、リーズは基本的に寡黙で話の途中で口を挟む事は少ないのだが、それが当てはまらないといという事はよほど重要な案件だという事である。


「どうでもいいけど、さっき怪しい人を見たわ」

「えっ」

「な、なにっ!?」

「え~、リーズちゃんまたその話ですか~? きっと見間違いですよ。それと、どうでもいいって何ですか! 聞き捨てなりませんね……」


 それぞれに三者三様の反応をするが、レイナールさんの反応はとても尋常のものではなかった。

まさかこのタイミングでそのアドリブが出せるとは、さすが魔王イベントに自分から割り込んでくる王子だ。


 完璧である。


 おそらくその怪しい人っていうのは王子が雇った魔王イベントの配役の誰かなんだろうけど、それを一切感じさせない見事な驚き方だ。


 しかしレイシィが気づかずリーズが気にかけているところを見るに、配属された役者はかなりの凄腕らしい。

元盗賊少女であるリーズ程ではないが、猫勇者である彼女も五感の方は普通の人間よりもかなり優れているのだ。


 そんな彼女に気配を悟らせずに、気のせいで留まらせるだけでも凄い。

プロだな。


「どうでも良くはない。あんたは浮かれてて気づかなかったけど、あれは私達を確実に尾行していた。とても偶然とは思えない」

「え~」


 二人の言い争いは続くが、これはリーズに分があるだろう。

まだ俺に対して心を開いてはいないとはいえ、彼女は命を預ける仲間に対して嘘をつくような人間ではないことくらいは知っている。

伊達に彼女を仲間に引き入れる前からリサーチしていない。


 となると、この後の展開はこの役者を用意したレイナールさん側が進行してくれるのだろう。

俺達に内緒でこんなイベントを用意しているとは、中々に侮れない王子だ。


「怪しい人間とは一体どんな奴だった!? 頼む、どんな事でもいい! 教えてくれ!」


 凄い剣幕で王子が詰め寄る。

こらこら、必要な事とはいえお触りは厳禁だぞ。


「む。……ちょっと近い」

「あ、す、すまない」


 案の定リーズちゃんに嫌がられたらしく、詰め寄った分だけ身を引かれている。

仕方ない、少し助け船を出してやるか。


「で、どんな人だったのかな?」

「んー……。遠くで身を隠していたから正確に目視できたわけじゃないけど、黒髪の青年? ……だった気がするわ」

「……っ!!」


 黒髪の青年と伝えられたレイナールさんの目が見開く。


 おや?

黒髪の青年っていうと教会を巻き込む話をするときにチラリと彼が話していた、王城から逃げ出す時にレイナールさんを助けてくれた(という設定の)一人じゃないか。


 こう何度も意味深なキャラクターを使いまわしてくる所を見るに、レイナールさんにとって信のおける重要な役割を持つ人間らしい。


 これは深夜にでも二人でイベントの内容を煮詰める必要があるようだ。

もし有能そうな人間なら、ぜひとも猫勇者爆誕のために力を貸してもらいたい。


 そう、俺が鍛えに鍛えたレイシィが世間に注目され始めるのは、もうすぐなのだから。




時代が、動きだす……ッ。

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