同じことを考えてるやつがいた話
「ついたか」
「わぁ~! 王都です! 王都ですよアースさま!」
「うっ。人が、いっぱい……。くっ、紋章が疼く」
ここまで来るのに襲撃その他諸々の自然発生イベントがあったようだが、どうにか今後のイベント予定を合わせつつも、無事に襲撃を乗り越え王都までやってくる事ができた。
そして自然発生型のイベントを乗り越えた二人は辿り着いた王都に感激し、それぞれ個性的な感情表現を繰り出す。
ねこ勇者レイシィはその天真爛漫さを生かした喜び方で、聖剣と一緒に俺を抱きしめる形で正ヒロインの存在感をアピール。
かと思いきや、魔王の呪いという不幸な事件があり、それ以来少し影の入った盗賊少女リーズちゃんは厨二病ポーズで紋章を手で押さえ、人の多さを理由に謎のダークヒロイン性を主張。
両者ともに甲乙つけがたい、とても気合の入ったロールプレイである。
これも二人が魔王イベントを順調に楽しんでいる証拠だろう。
これはあとでご褒美の飴ちゃんをあげなきゃね。
「ははは、アースさん達は面白いね。あれだけの事があったのに、もうすっかりいつも通りのように見える。こういう逞しいところ見ると、僕もあの話をして正解だったなって思うよ」
「それは光栄ですね」
あの話とはつまり、襲撃事件があったあと覚悟決めたレイトンさん(仮称)により語られた、王国社会の闇の事である。
そしてその内容はというと──。
◇
「では話をするけど、まず最初に言っておく事がある。アースさんも察していた通り僕は王族だ。それもゴドル王国第一王子、レイナール・ゴドル、次期王位継承者だ。君達を僕の問題に付き合わせてしまったことを心苦しく思う」
「いえいえ、旅は道連れ世は情けですよ。それに俺は見てただけですし」
なんちゃって。
だけど実は無双してました~ってね。
「そうですよ。どんな問題だろうとアースさまが居れば大丈夫です。この程度の襲撃あってないようなモノなんですから気になさらないでください」
そうだそうだ、もっと言ってやれレイシィ。
こんなレベルのイベントで俺たちが満足すると思うなよ。
「そう言ってくれると助かるよ」
「どうも。それで、話というのは?」
「ああ、それなんだが────」
そして彼は語った。
曰く、彼の弟である天才錬金術師にして第二王子、レザード・ゴドルが古代の悪魔を復活させようとしている事。
曰く、その悪魔はかつて魔王と呼ばれ、今はまだ完全に復活させた訳ではないが既に活動できる範囲にまでは実体を取り戻し、完全に復活するのも時間の問題だという事。
曰く、彼はそんな弟を止めようとしたところ第二王子とその派閥に目をつけられ、情けない話だが天才である弟の権謀術数には敵わず政治的に失墜した事。
以上の3点を挙げた。
「────という訳なんだ」
「ふむ」
なるほどね。
ほーんって感じだわ。
ま、第一王子お疲れって感じである。
しかしそれに比べて、第二王子のその着眼点はそれなり評価できるな。
ま、及第点をあげても良いかなといったところ。
まさかレイシィの修行時代に出会った王子が俺と同じ思考回路で、尚且つ違うアプローチを仕掛けてくる奴だったは驚きである。
それになんだよ魔王復活って、キャラ被ってるじゃん。
でもやっぱラスボスといったら魔王だよね。
うん、その気持ちは分かるよレザードくん。
「そんな、魔王の魔の手がもうそんな所まで……」
「くっ、魔王……! いつか絶対殺す、子分たちの恨みは忘れない」
「なに!? 君達はあの悪魔について何か知っているのかい!? 教えてくれ、どんな事でもいい!」
魔王という単語にそれぞれ反応した弟子たちに、驚きの声をあげてレイナールさんが掴みかかる。
おいおいちょっと困るよきみ、うちの可愛い弟子たちになにしてくれちゃってるの。
二人はまだ子供なんだぞ。
お触りは無しだから基本的に。
すかさず俺は間に割って入り、彼をけん制する。
「待った、それ以上は踏み込まないで頂きたい」
「…………っ! す、すまない。少し取り乱していたようだ。無遠慮に首を突っ込むなど、どうかしていた」
まあ、分かればいいよ。
でも気を付けてね、うちはそういうの厳しいから。
するとちょっと気まずい空気になったのを察してか、レイシィが話を切り出した。
「レイナールさん、大事な事を話してくれてありがとうございます。そして確かに私たちは魔王について知っていて、それぞれ特殊な事情がありその存在を追っています。でもすみません、今はまだその事情を話すことができないんです。私などお師匠様の考えには及びもつきませんが、それでもこれだけは言えます。私たちはあなた方の味方です。信じてください」
レイシィはそう言って場を収めた。
妥当な説得である。
「ああ、分かった。そちらも話せるだけの事を話してくれてありがとう、感謝するよ。権力を失い地位を失墜した僕に味方しても良い事なんてないのに、本当に君達は……。いや、これ以上はやめておこう。だがこちらもこれだけは言える。本当の英雄とは、君達のような者のことを言うのだろう」