猫耳少女を拾った話
当初様々な事に戸惑っていた俺だが、なにはともあれ異世界に来て5年が経った。
この世界に来て思った事が、悪魔にもらったこの力はやはり無双できるだけの力だったという事だ。
周辺の魔物は本気を出せば一撃で木っ端みじんできるくらいには。
ただこの世界の人間にはまだ接触したことがない、安心はできないだろう。
さらに100年後、なんかこの世界を喰らうとかいっている巨大な蛇に出会った。
言葉を理解する蛇がいるとは驚きで、少しは対話の余地があるかと思ったらそんなこともなく、意思疎通ができるようで食欲にしか目が無いただの魔物だったので秒殺。
個人的に接触した訳ではないが近隣の住民が迷惑していたようだし、俺としても問題のあるモンスターを退治する事はやぶさかでもない。
それにしてもこの頃、キャラクターのスキルである魔導以外にも体術や杖術、槍術が達者になって来た。
キャラクターの腕力を十全に活かせている感じがする。
そしてさらにさらに500年、人様に迷惑がかかりそうな魔物退治や、退治した魔物を素材にした武器防具なんかを生産していたら500年だ。
もうこの世界での無双はやりつくした感じがある。
そういえば500年も経っているのに人と接触した機会が全くないな。
そろそろ人肌が恋しくなってきたところだ。
とはいえ数百年もただ魔物退治ばかりしている生活をしてきた影響か、いまさら手ぶらで人里におりようとも思えなくなっている。
何か楽しいきっかけがあれば別なのだが、はて……。
まあ時間はいくらでもあるのだから、ゆっくりやって行こう。
そしてあの日悪魔の手によってこの異世界に飛ばされてから、1000年程が経った。
毎日特に代わり映えのしない日々を過ごし、気づけば1000年だ。
それも外界に殆ど触れる事なく、いずれ今後の方針が決まるだろうと適当に引き籠っていたら、こうなってた。
時には腕試しと称して、ギルドホール内で生産した武器やアイテムの性能を確かめるべく、魔物が蔓延る地域で無双を繰り返したりもしたが、その程度だ。
大した事はしていない。
本当に時が経つのは早いものである。
そんな自堕落な生活を繰り返していた俺だが、最近ちょっとした趣味に没頭している。
魔物が蔓延る人気のない深い森の中に木造の家を建てて、そこで自給自足の生活を送る事だ。
いや、暮らすだけなら確かにアース・ガルディアのホール内だけで全てが完結するのだけど、それでは何の刺激もなくてつまらないのだ。
これだけ長い間引き籠って過ごしていると、施設内で実装出来る生産系のスキルは全て極めてしまって、特にやる事が無くなってしまう。
故に俺は新たな刺激を求め、サバイバルを楽しむことにした。
なるべく森の中で生活を完結させ、釣りや狩りで食料を賄う。
もちろんそれに必要なアイテムや装備品を持参していくが、何もかもをギルドホールに頼り切った生活から脱しようという訳である。
そのために屋敷は建てたし、ある程度家具も揃えたのだ。
我ながら、1000年も生きてるとなんでも出来るようになるものだ。
まあ、こういった能力の高さもキャラクターのレベルや魔法の力故なのだが。
とはいえ、かれこれこの屋敷に移り住んで50年程が経つ。
サバイバル以外に特にやる事も無かったので、調子に乗って森のさらに奥に祠を作り、ギルドホールで作った高ランク武器を聖剣と称して飾ってみたり、それに合わせて聖なる祠っぽい感じに改造したりして遊んでいたのだが、そろそろこの遊びにも飽きてきた。
当たり前だが、祠に飾った聖剣を取りに来る人など居ない。
そもそも、そんな物がある事すら伝わってはいないだろうから。
しかし、せっかく魔物よけの結界やら、この世界の古代言語が刻まれたそれっぽい文字、幻想的な雰囲気の魔法陣やらで臨場感を出しているのに、取りに来る人がいないのは由々しき事態なのではないだろうか。
そうだ、そうに違いない。
という訳で、俺の次の行動方針が決まる。
それは自作の聖剣をチョイスしにくる選ばれし者──ねこふんじゃった認定──をおびき寄せ、希代の最強戦士を育て上げる事である。
「さて、やる事が決まったので、お次は人材探しだ」
俺は次元指輪でギルドホールに戻り、転移部屋で深い森の中を俯瞰した。
この森はかなり深いようで、滅多な事ではその入口付近にすら人が寄り付かないのだが、それでも少しは馬車や旅人などが通っていく事もある。
今回はそれを見極め、なんとなく良さそうな人材を選んで誘導するといった形だ。
するとしばらくして、魔物に追われ戦闘状態に陥っている馬車を発見する事ができた。
どうやら戦っている魔物はこの付近では最弱といっても良い魔物の一種、三つ首の犬だ。
地球の知識に当てはめるなら、ケルベロスといったところだろうか。
馬車からは屈強な旅人が飛び出して応戦しているが、どうも犬の方が数段強いらしく、もう既に人間側は壊滅状態だ。
うーん、ダメだなこれは。
この程度の犬に苦戦するような雑魚では、俺の聖剣を託すに相応しくない。
発見するのが遅かったのか、いまさら助けに入っても助かる者はいないだろう、ご愁傷様。
それからというもの、あっという間に旅人を倒し終えた犬っころは絶賛ご飯タイムに移行し、満腹になるとどこかへと去って行ってしまった。
犬の完全勝利である。
そしてその時だった、その馬車がガタガタと揺れ始めたのは。
「……ん? あの鉄格子の馬車の中、まだ誰か居るのか?」
どうやらあの中にまだ人がいるらしく、布の被せられた鉄格子の馬車が忙しなく揺れている。
ふむ、まだ旅人が隠れていたというのなら、助けてやらない事もない。
先ほどは見つけた時点で壊滅状態だったために無理だったが、あの鉄格子の中に居るという事は無事だったのだろう。
であるならば、今からでも間に合うはず。
もう馬は潰れてしまったようだが、この森を出るくらいなら俺が護衛すればどうという事もないし。
そう決めた俺はさっそく現場へと転移し、馬車の様子を確かめた。
すると中に居たのは──。
「もしもーし、大丈夫ですかー?」
「ぐ、ぐるるるぅううう!!!」
檻の中ではガリガリに痩せた銀髪の猫耳少女が、粗末な服を着て威嚇をしていたのだった。
「……おや?」
もしかしてこの馬車、とても違法な事をしているあくどい馬車だったのではないだろうか。
どうみても鉄格子の中の彼女はまともな扱いを受けているようには見えないし、この檻をよく見ると中から扉を開ける方法が無いようにも思える。
参ったな、そういう事かぁ。
この少女の歳は10歳くらいにしか見えないし、ここで親御さんはどこですかなんて聞いても、帰り道が分かるとも思えない。
こうなってしまっては仕方がないので、彼女の生活が落ち着くまでは俺が対応するしかないだろう。
これも、何かの縁だ。
こうして俺は、異世界にきて1000年目にしてようやく現地人との接触を果たしたのであった。