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超理論による超展開により実は俺が神だった事にされていた話


 ──逃げる、逃げる、逃げる。

絶対に成功すると思っていた第一王子への襲撃に失敗し必殺の矢を外した私は、事前に用意していた隊商の馬をかっぱらい、雇い主である第二王子、レザード・ゴドルの下へとひた走る。


 しかし何故だ、何故失敗した。


 あの矢の軌道は、途中まで完璧に王子を捕らえていたはずだ。

そのはずなのに、途中で何かに撃ち抜かれたように根本から矢が折れたのだ。


 こんな事はありえない。

いったい何が起きたらあのような現象が起きるのか?


 まさか弓兵の俺が目視出来ない程の超高速で、飛んでいる矢を狙撃したとでもいうのだろうか。

いや、やはりそんな事は不可能だ。


 しかし仮にだ、仮にもしそれが出来たとして、……なぜあのタイミングで?

王国の王子、もとい王家は元来勇者の血筋として神の加護を受けていると聞くが、それでは今回の件もその加護が作用した結果だとでもいうのだろうか。


 神が王子の危機を察し、その神力を以って矢を撃ち落としたと?

そんな、ばかな……。


 分からない、分からない事だらけだ。

そしてそれが、どうしようもなく恐ろしい。


 俺はもしかしたら、人間が手をだしてはいけない存在に手をだしてしまったのではないか、そんな想像が頭から離れないのだ。


 しかして、その不安は的中した。


『あー、テステス。もしもしカメよ、カメさんよ。聞こえていますか? オーバー』

(────ッ!!?)

『あ、聞こえていますね。ならいいです、お騒がせしました。やっぱりフレンドリストって便利だね』


 な、なんだこの声は。

まるで緊張感がないようでいて、どこか思考や常識が通常の人間とは違う、そんな印象を持たせる声色に、俺の緊張感は最大にまで引きあがった。


 全身から噴き出る嫌な汗が止まらない。


 そもそも「てすてす」とは何だ、そしてなぜ急にカメの話が出て来る?

こいつは一体何を言っているのだ。


 ……いや、本当は分かっている。

このような超常現象を起こせる存在は一つしかいない。


 故に理解した。

私がこれから裁かれるだろう事も、語り掛けてきたこの存在が神であろう事もだ。


 だからもう、現実逃避はやめよう。


 小さい頃から貧しく、スラムで日々を食つなぐしかなかったゴミのような自分を拾って下さり、そればかりか目を掛けて下さったレザード様には申し訳が立たないが、それでも最後は潔く裁きを受けたい。


 私、……いや、俺だって最後くらいは一人の人間として、誇りある人間の魂を持つ者として、嘘偽りなく正々堂々としていていたいのだ。


 ああ、ようやく分かったよ。

世界の「ゴミ」だったあの時から俺はずっと、「人間」で居たかったのだ。


「人間」として認めてもらいたかったのだ。


(レザード様、御恩を返す事が出来ず申し訳ありません。そして神よ、最後の最後で私にチャンスを、──「人間」になれるチャンスを与えてくれた事、感謝致します)

『え? あ、はい』





 翌朝、【疾風の狼爪】が暴れた事で雇い主である隊商は大きく動揺していたが、さすがに旅慣れているのか、やるべきことはキッチリとやっていた。


 まず、王子もといレイトンさんに襲い掛かったメンバーは人数差で善戦したものの、しばらくして飛び起きて来たねこ勇者レイシィと盗賊少女リーズを相手に一網打尽にされ、その殆どが捕縛されたようだ。


 当然だが、もちろんレイシィに関しては剣を抜くまでもなく、鞘に納めた状態で峰打ちを繰り返している。


 そしてその後、事情聴取という形で拷問しているところを、それまでビビって隠れ潜んでいたと思われる俺がのこのこと現れ、なんとも微妙な空気の中、続きは王都でしようという事で決着。


 まあ、あの弓兵以外はそこら辺で雇った盗賊まがいのエセ冒険者らしいから、たいした情報は得られないと思うんだけどね。

フレンドリストで情報収集した俺にはそのことが分かる。


 ちなみに何食わぬ顔で登場した俺だが、実際にはフレンドリストの機能を利用して色々とやっていた事など俺以外に知る由もないので、微妙な空気もさもありなんと言った具合だ。


 レイシィとリーズは満足気な俺の表情を見て、何かあったのだろうなという予想を立てているようだけど、最近この子たちの勘の良さがちょっと怖いと感じる事があるな。


 また別件だが、今回の実験でフレンドリストには登録した人と個人チャットが可能となる、通称【念話】機能の存在もちゃんと確認された。


 使ってみて分かったが、文字通り登録した人と念話が可能だったのだ。


 しかし便利だとはいえ、念話機能も良し悪しだな。

強い感情を抱くと、相手が何を考えているのか丸わかりになるところがいただけない。


 よって、これは当分封印しておくことにする。


 なにせ俺が念話を掛けた相手である弓兵さんは、よほど感情が高ぶっていたのか常に思考がだだ洩れで、謎理論によりいつのまにか俺が神に昇華されるところまでの一部始終を覗いてしまう事になった。


 どんな拷問だよこれ。

まさかここまで順調にことを進めながら、最後の最後でこんな反撃を受けるとは思わなかった。


 とはいえ、思考が洩れていた事で情報収集の方は捗り、彼がいままでスラムで生きて、さらにそこから第二王子に拾われて今に至るという感動エピーソドと一緒にだいたいの事は分かったのだ。


 具体的に今回の騒動を引き起こした犯人は第二王子である、レザード・ゴドル。

そしてその傍に控えているのが恐らく魔人と呼ばれる人型モンスターだ。


 おそらくそのモンスターが王都を混乱させた事が原因で、第一王子であるレイトンさん(仮称)が旅立つ切っ掛けを作ってしまったのだろう。

王子を逃がすためか問題を解決させるためかは知らないが、傍迷惑な話である。


 余談だが、念話を通じた情報収集の限りではその魔人は魔王と呼ばれているらしいが、正直ところ俺は全く信用していない。

なにせ超理論の展開により、一瞬で俺が神として君臨してしまうような推理をする男の話だ、そんな魔王だなんだという眉唾ものの推測などあてにはならないだろう。


「いやぁ、しかしレイシィさんとリーズさんの力には驚かされたよ。二人共とんでもなく強いんだね」

「ははは、そうでしょうそうでしょう。自慢のパーティーメンバーですよ。大切にしています」


 実際に二人は家族も同然だしね。


「いえ、私など師匠に比べればヒヨッコも同然です」

「悔しいけどレイシィの言う通り。この紋章の力をもってしても、いまだアースにはかすり傷一つつけられない」


 二人が俺を持ち上げるが、俺が戦えると思っていない王子の方はそれが謙遜だと思ってしまっているようだ。


「……しかしレイシィさんの剣術といい、リーズさんのユニークスキルといい、とても常人のそれとは思えない。まさに英雄のそれだよ。……これは、思わぬところであの悪魔と弟への突破口が見えてきたかな。よかったらこの後、僕の話を聞いてもらえないだろうか?」


 そういう第一王子の顔は、どこかで希望に満ちていた。



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