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きな臭い話


「いやぁ、しかしここまで何事もなくこれるとは、アースも運が良いな? 普通なら盗賊とまではいかないが、魔物の一匹や二匹は必ず遭遇するっていうのによ」

「ははは、本当にその通りですよレイトンさん。私は腕っぷしには自信がないので、まさに僥倖でしたね」


 王都へ向けて出発してから三日ほどが経ち、そろそろ馬車の旅も折り返し地点に到達しようとしている訳だが、今日も今日とて馬車の最後尾を任されているソロC級の黒鉄戦士さんとは仲良く過ごせている。


 ちなみにレイトンさんというのは黒鉄の戦士さんの名前で、とある事情から俺は偽名だと想定しているが、だからといって特に不都合はないのでスルーした。


 ただ彼の言う「ここまで何事もなくこれるとは」という言葉には少し語弊があり、実際には不自然なほど装備が整った盗賊や、何がおきたらこれだけ集まるのかという魔物の集団と何度も交戦している。


 ただしその全てが俺の指が弾いた石礫により殲滅されている事から、護衛の者達に感知される範囲外で息絶えてしまうので、まるで何事もなかったかのような平和が訪れているだけなのだ。


 あのレベルの襲撃を受けたらレイシィはともかく、戦闘力特化ではないリーズにはちょっと荷が重いと感じて世話を焼いているのだが、なにかきな臭い。


 そのきな臭い理由として、俺が殲滅した盗賊や魔物が現れないと前方の馬車に居る【疾風の狼爪】の皆さんが慌て始めるという事が一つ。


 また、言葉遣いはぞんざいだが、何かと食事や動きの細かい仕草が優雅に見える黒鉄の戦士さんが怪しいのが二つ。


 そしてその黒鉄の戦士さんは食事の時でさえ鎧を脱がず、素顔を晒さないというのが三つだ。


 これだけ怪しい条件が揃えば、もしや何かあるのではと考えるのが普通だろう。


 レイシィやリーズもその辺は既に気づいているようで、時折俺の方を見て状況を確認しようとしてくる。


 ただ教えるときな臭い何かに勘付かれてしまうかもしれないので、アイコンタクトで何も言わせないように封殺しているが、そろそろそれも限界だろう。


 なにせ最近のレイシィは俺の指が飛ばす石礫をギリギリ認識できているようで、石を飛ばすたびに目で追っているのが分かるし、リーズの方はその洞察力を以って黒鉄の戦士の挙動や、【疾風の狼爪】の慌てぶりから何かを察しているようにも思えるからだ。


 うーん、どうしたものか。

とりあえずもう折り返し地点だし、何だか疾風さんも気が気じゃない感じで俺達に構っている余裕が無いようなので、野営ついでに推測だけでも伝えておくか。


 俺のパーティーに限ってそんな事はないと信じたいが、とっさのアクシデントの時に動きが鈍っても困るしね。


 ついでにこの推測が的中しているとすれば、黒鉄の戦士さんも巻き添えをくらう可能性が高いので、彼も交えて俺の話を聞いてもらおう。


「ちょっといいか、レイシィ、リーズ。それとレイトンさんも」

「はい師匠」

「……何?」

「ん? なんだアース、ついに魔物でも現れたか?」


 いや、魔物はこの三日間、常に出現してたけどね。

まあいい。


「驚かないで聞いてください。これはあくまでも俺の憶測なのですが、おそらく今夜かその次の野営地で、最後尾のメンバーを襲撃する者達が現れる。俺はそう予測しています」

「……何だと? それは本当かアース。確かにそう思い当たる節があるならば報告する事は護衛の義務だが、なぜそれをこのメンバーだけの範囲に留める。他の者に伝えない理由は何だ?」


 俺の言葉に弟子二人は納得顔の様子だったけど、今回の敵からメインターゲットにされているであろうレイトンさんだけは疑問を示した。


 まあ、何も分かっていない状態であれば、そういう感想が出るのは当たり前だろう。

俺が彼の立場なら同じ事を思うかもしれない。


「その前に、この際さきに確認しておきますがレイトンさん、おそらくあなたはただのソロ冒険者ではありませんよね? 恐らくどこかの国の貴族か、またはもっと上に位置する高貴なる者の血筋でしょう。それについてとやかく言う気はありませんが、俺が襲撃を予測した理由の一つは、あなたのその立場が原因だと考えています。……これだけ言えば、察しがつくと思いますが、どうでしょう」


 話はまず、ここからだ。

すると小声でまくしたてた俺に対し、レイトンさんは困ったように唸る。


「…………、うむ、参ったな。これはアース、……いや、アース殿を舐め過ぎていたのかもしれませんね。これでも腹芸は得意なつもりだったのですが、やはり冒険者の世界には少々特殊な者達が多いようだ。アース殿の洞察力といい、それを今の今まで隠し通す演技力といい、正直舌を巻く思いです」


 やはり正解だったらしい。

おそらくこの黒鉄の戦士レイトンさんは貴族か王族。


 ……いや、頑なに兜をとらないところを見ると顔を隠すというより、髪の毛の色や目の色を悟られないようにしているのだろう。

となれば、王族である可能性が高い。


 顔だけならフードかマスクで誤魔化せるし、以前遭遇したゴドル王国の王族以外に金髪碧眼に遭遇していない以上、その色は王家の証として捉えられているだろうからだ。


 まとめると、彼はこのゴドル王国の王族、年齢からみて第一王子という事になる。


「ふんす! 当然です、師匠ですから」

「……確かにレイトンはアースを舐めすぎだった。私に気付けるようなお前の演技が、アースに気付けない訳がない」

「ははは、これは手厳しい。だけどそれを理解して襲撃を予測したという事は、敵は他国か、もしくは自国の貴族の差し金と考えた方が良さそうだね」


 その通りである。


 なにせ俺が道中で殲滅してきた盗賊には、汚してはいるがやけに統一された金属鎧や、盗賊が持つとは思えないしっかりとした剣が取り揃えられていたのだから。


 そして慌てている【疾風の狼爪】。

これだけの条件が揃えば、あとはもう、お察しだろう。


 ただ気になるのが、この第一王子がなぜ冒険者に紛れて行動していたのかという点と、権力争いにしても仲間の護衛もつけずに旅を続けている理由、そして最後に、魔物までもが俺達を狙った理由だ。


 なにか訳ありなようだが、なんであれ襲撃される以上は俺達も抵抗せざるを得ないので、できればその理由も含めて彼には今後の対応に協力してもらいたいところである。


 もちろん武力的には俺がいるから何も問題はないが、相手が貴族の可能性も示唆されている以上、俺が全員倒してすべての謎が解ける訳じゃない。


 なにより、最後の疑問である魔物が纏まって俺達を狙う理由という点に関しては、俺も興味がある。


 大昔に戦った事のある人間型の魔物の中には、そういった下位の魔物を統率するような存在も居たが、それと王族貴族が繋がっているとは考えにくいしね。


 だが、もしこれから俺が考えたイベントの邪魔になるようであれば、その人間型の魔物も含めて掃除しておかなきゃいけないな。


 俺の暇つぶし、もといねこ勇者レイシィの伝説を邪魔される訳にはいかないのだ。

ま、要するにそういうことである。


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