護衛依頼を受けた話
「それでは、Fランクパーティー【ブレイブハーツ】の皆様、今日から宜しくお願い致します」
「こちらこそ。まだなりたての駆け出しですが、皆さまの足を引っ張らないよう努めさせていただきます」
王都ヨンドルへの出発を決めた翌日、俺達三人のパーティー名を【ブレイブハーツ】とし、このラグナの町から王都までの道のりを旅する商隊の護衛として、他の複数の冒険者パーティーと共に依頼を受けていた。
既に商隊はこの町の有力パーティーであるC級冒険者達を護衛に雇っていたのだが、それでも馬車の数に比べて護衛の数が少ない事から、追加の依頼が回ってきたのだ。
「ケッ。なにが足を引っ張らないようにだ。そう思うならそのガキ二人をママの所に返してから抜かすんだな」
「まぁまぁ、そう言わずに」
しかし普通ならいくら人数不足とはいえ、F級の俺達が護衛依頼に雇われる事はないのだが、商人の方は俺達の素性をある程度認識していたらしく、実力試験で【鉄壁の盾】のリーダーである青年を圧倒していた経緯から、その腕を見込まれたという形で受注する事が可能となった。
なんとも幸運な話である。
ただいくら依頼主がこちらの腕を見込んでいるとはいえ、俺達は傍から見れば少女二人というお荷物を抱えた存在に見えるであろう。
今回もその事が切っ掛けで、同行する事になったC級パーティーの一部はあからさまに不機嫌になり、ときおりこちらを挑発するような態度を取ってくる事もあるようだ。
まあいくら実力が飛びぬけているとはいっても、見た目もランクもこれでは嘗められるのも致し方ないとは思う。
相手は事情を知らないのだし、多少の失礼は許してやろうではないか。
「おや、依頼主である私が見込んだパーティーに何かご不満でも? そうおっしゃるのであれば別の方を探しますので、どうぞ【疾風の狼爪】の皆様はお引き取り下さい。なに、冒険者ギルドには依頼失敗という形で報告させていただきますよ」
「ま、待ってくれ! 何もそうは言ってねぇ。まあなんだ、こういうのは冒険者なりの挨拶ってやつですよ、おやっさん」
「そうですか、では何も問題はないと言うことですね。それは良かった」
だが、俺が失礼を許したとしてもその雇い主が許すとは限らない。
なにせ商人の方は自分の身を守るためにランクを無視してまで俺達を選んだのだし、そうまでしたからには己のメンツというものが掛かっている。
その依頼主のメンツを自ら潰そうとする部下がいれば、当然こういう嫌味の一つや二つ出るというものだろう。
それに道中仲間割れをされてしまっては安全な旅にも支障がでるしね。
そこらへんが分からない辺り、この冒険者の器もたかが知れている。
「さて、それでは【ブレイブハーツ】の皆様と【疾風の狼爪】の皆様も揃いましたので、そろそろ出発させていただきます。護衛の役割分担などはプロである冒険者様方に任せますので、移動前に決めておいてください」
そう言うと冒険者達は多少の会議をした後にそれぞれの馬車へと移動し、三つの馬車からなる商隊はラグナの町を出ていくことになった。
とりあえず前方の馬車は【疾風の狼爪】が、真ん中の馬車は別のC級パーティー、最後尾の馬車は【ブレイブハーツ】とソロ活動のC級冒険者という形で収まっている。
疾風さん達はどうやらこの商隊に活躍を認めてもらい恩を売りたいらしく、より敵を発見しやすく先制攻撃がかけやすい前方を選んだみたいだ。
まあその分責任も重大というか、魔物や盗賊の発見が遅れたら信用に著しく影響するような位置取りでもあるんだけどね。
彼らがそうならないように祈るばかりである。
ちなみに、俺は万が一の時に備えて常に下級魔導【エネミーサーチ】を展開しており、敵性反応のある個体を何キロかに渡って感知できるようにしているので、不意打ちの心配は皆無だ。
後方から近付いてくる魔物は、俺の指が尋常ではない速度で弾く石礫で牽制しているので、近づくことはないしね。
仮にもし、前方の彼らが最後まで気づかなければ、俺が声をかけてあげればいいだろう。
とはいえ、そんな態度を出せば彼らのプライドを傷つける事になってしまうので、俺は全く警戒をしていないフリをしてポンコツを演じている訳ではあるが。
とにかくそんな事情もあり、俺は安心して馬車の旅を楽しみながら、配置で一緒になったC級ソロの冒険者とのコミュニケーションを図ろうとしているのであった。
一応【ブレイブハーツ】のリーダーは俺という事になっているので、冒険者同士の顔つなぎという意味でも、二人の少女の保護者という意味でも前に出るべきであろう。
「ん~、馬車に乗った経験はあまりないのですが、こういう旅も悪くないですねぇ。これほど旅が快適なのであれば、早めにランクを上げて優先的に護衛依頼を受けたいものですよ。実入りも良いですし」
「おや、お前もそう思うか? ははは、気が合うなぁ。俺もこのランクになってようやくこの依頼を受けられるようになったが、その気持ちはよく分かるぜ。まだギルドに登録したばかりで護衛依頼を受けられたあんたらは運が良いぞ」
俺のぼやきに答えるのは黒鉄の鎧に身を包んだ20歳くらいの戦士さんだ。
かなり気の良い人みたいで良かった。
実力の程は戦っているところを見ていないのでなんとも言えないが、直感では兵士よりは強く感じるので、おそらくレベル10前後の正騎士クラスの実力と見て相違ないだろう。
なにせパーティー単位ではなく、己の身体と剣一本でCランクまで駆け上がってきた人だ、そのくらい強くても不思議じゃない。
レイシィには遠く及ばないだろうけど、正面から戦うのがあまり得意でない盗賊職であるリーズちゃん相手なら、カースⅡのスキル込みで互角といったところかな?
まあ、そのくらいの強さだろう。
「そうですね。この幸運に感謝して、今後の経験にさせてもらいますよ」
「ああ、それが良い。それにしてもそっちの嬢ちゃん達、かなりの腕前だな? あんたには悪いが、この中で俺と互角に戦えるのはそこの猫獣人の嬢ちゃんか、紋章の嬢ちゃんくらいじゃないか? 正直、個人としての戦力なら【疾風の狼爪】なんかじゃ相手にならんだろう」
「そう見えますか? ……ふふふ、見る目がありますね」
おや、そこまで見抜けるとはやるなこの人。
しかし実際その通りである。
俺の偽装ポンコツぶりに気付けないのは仕方のない事だけど、それでも二人の実力を正確に把握できるというのは、それだけで実力者の証だ。
「ああ、このランクまでソロで戦ってきた俺が言うのだから間違いない。一見あんたが保護者であるようにも見えるが、あくまであんたは彼女らが他の冒険者から嘗められないようにするための体裁、防波堤みたいなものなんだろう?」
「まあ、そんなところですね。いくら強いといっても彼女達は幼いですから、力で解決できない事への対処法として一緒にパーティーを組んでいるのですよ」
「はははは! そうだと思ったぜ。しかしそれが何より大切な事は俺もよく知ってるからな、ある意味一番大事なポジションにいるって訳だ」
そう言いつつ笑う黒鉄の戦士さんだが、彼はまだ気づいていない。
俺達の会話を聞いている後ろの少女二人が、呆れた目で戦士さんを見ているという事に。