熱き魂の解放をした話
謎の魔王戦によって情報を手に入れたという体で、俺は新たな仲間となるリーズちゃんの事を説明がてら冒険者ギルドに向かっていた。
だが、なぜか説明をしたあとのレイシィの機嫌が著しく悪くなり、表情が固まったままピクリとも動かない。
いったいどうしたというのだろうか。
しかしそれを追及しようにも、今のレイシィからは「私、怒っています。話しかけないでください」オーラがビンビンと伝わってくるし、聞こうにも聞けない感じだ。
まいったなぁ。
仕方がないのでそのまま無言で冒険者ギルドを訪れると、ギルドの門の前に10歳くらいと思われる小さな女の子が突っ立っていた。
やはり来たかリーズちゃん、期待通りの行動だ。
すると向こうも俺達が近づいているのが分かったのか、徐々に俯いていた顔を上げると、同じくらいの年齢であるレイシィの姿を見て目を見開いた。
おそらく背丈に見合わない幅広な神王の剣を見て冒険者だと気づき、勇者の子孫である事を察したのだろう。
感動の仲間イベントの始まりである。
「おい、オマエ」
「ん? 何かな?」
「ちがう、おっさんじゃない。そこのチビっこいのだ……」
おいまて、おっさんは無いだろおっさんは、俺はまだ青年と言えるくらいの見た目のはずだぞ。
確かに1000年を超える年月を生きてきた俺だが、それでも外見は20歳かそれ以下だと思うんだよね。
そりゃあ10歳から見ればおっさんかもしれないけどさあ。
おじさんちょっとショックだよ。
ま、いいや。
とりあえずリーズちゃんはレイシィに用があるようなので、見守っておく事にする。
きっとお互いに勇者の子孫かどうかの確認をしたいのだろう。
「あ? なんですかアナタ? 今ちょっと機嫌悪いんで後にしてくれます? 私、師匠との時間を他人に潰されるのが死ぬほど嫌なんです」
「そうはいかない、私はお前に聞きたい事があってここで待ち伏せしていた。私の質問に答えろ」
「チッ」
おいおいおいおい、どうした二人共!?
なんでそんな険悪な雰囲気なんだ!?
片や前方コーナー、活発で健気な盗賊少女であるはずのリーズちゃんは目に光を宿しておらず、この世の絶望を一身に背負ったかのような雰囲気で俺達を睨みつけているし、片や後方コーナー、いつも天使のような笑顔で周囲を魅了するレイシィは舌打ちなんかしている。
どうしたんだこの二人共は、もしかして不良になってしまったのだろうか。
「単刀直入に言う、……お前が勇者の子孫か?」
「カァーッ、ペッ!! ……そうですよ、師匠と先代勇者さまから聖剣を託された勇者レイシィですよ。もう満足ですか? では、さようなら」
「まて!!」
「今度はなに」
あぁぁああああっ!!
何てことだああああ!!
完全に二人共不良になってしまったようだ、もはや手遅れといってもいい。
レイシィなんて舌打ちから進化して、ごく自然に痰を吐くまでになってしまった。
どこで教育方針を間違えたのだろうか?
もしかしてこの前森を通りかかったゴドル王国の馬車が教育に悪かったのか?
くそっ、覚えてろよあいつら、絶対許さねぇ!!
今度会ったら成敗してやる。
……しかし目下の問題は二人の不良化だ。
この問題をどうにかしない限りは、俺の心の平穏は戻ってこないと思った方が良いだろう。
ならば、やるしかない。
迸れ、俺の熱き魂よ!
師匠には、そして親にはやらければならない時があるのだ!
そう思いつつ、俺は二人の少女を抱きしめた。
「やめるんだ二人共!!」
「「…………ッ!!」」
まずは、愛の抱擁!
そしてこれが、愛の説得!!
「二人に何があったのかは敢えて聞かない。しかし、こんな会話を続けて何になる? まずレイシィ、お前はどんな時にも相手に敬意を払う優しい子だったはずだ。決して、相手に対して礼儀を忘れるような子じゃなかっただろう? いつものお前に戻ってくれ、俺が愛したいつものレイシィにっ」
「し、ししょっ! み、皆が見ています!」
「お前が俺の愛(の説得)を受け入れるまで、放さないぞっ!」
「ぁ、ぁぅ。……わ、わかりまひゅた」
よし、まずはレイシィを説得完了!!
やはり愛は偉大だ!!
それじゃ次!
「次はリーズ、君だ! リーズにも辛い過去があるのだろうが、そんな暗い顔をしても何も解決しない! もっと前を向け!」
「なんでおっさんが私の名前を……」
あ、確かに。
「き、君を狙った悪い奴を追い返した時に、話を聞いた!」
「おっさんが魔王を? 嘘をつくな……」
おっさんではない、ねこふんじゃった、もとい美青年アース・ガルディアさんだ。
そこら辺気を付けてほしい。
あと、魔王とは特に戦っていないから嘘で大正解なんだけど、そういう細かい事を気にしてはダメ。
と言う訳で、ここは無理やりゴリ押す事にする。
「嘘ではない。それに君は(魔王に呪われた事で寿命を)失ったと思っているかもしれないが、まだ本当に失ったと決まった訳じゃない。大丈夫だ、助かる目途はついている」
「…………じゃあ、みんな助かるっていうのかよ」
「ああ、本当だ。約束しよう」
目を逸らさず見つめ合い、真剣な表情でリーズちゃんに想いを伝える。
嘘はいっていないから、真実味があるはずだ。
「……分かった。信じる。でも、もしおっさんの言っている事が嘘だったら、その時は魔王を殺して、お前達も殺す」
怖っ!?
リーズちゃん怖っ!?
妙に言葉に説得力があるのがとても怖いのだけど。
なんか試されている気分になる。
「あ、ああ、それでいい」
「……」
「必ず、(リーズちゃんを呪いから)助けると約束しよう」
俺がリーズちゃんの恐怖の瞳に必死で耐えながら約束すると、徐々に彼女の瞳に光が宿っていき、しばらくすると自然な顔つきに戻っていく。
まだ完全とは言い難いが、先ほどよりかなり穏やかになっているだろう。
そして二人がいつもの様子に戻ったのを確認すると、俺は愛の抱擁を解除した。
ふう、なんとかなったようだ。
「これで、一件落着だな」
「はひ、さすがししょうでひゅ……」
「…………」
冒険者ギルドの前で熱き魂を解放してしまったためか、周りで見ていたギャラリーが盛大に沸いているようだが、まあこれもイベントの醍醐味だろう。
ははは、照れるぜ。
子供を大切にする大人として、当然の事をしたまでだよ諸君。