盗賊少女が復讐を誓う話
私の可愛がっている子分達が攫われた。
昨日の夜出会った理不尽な存在、魔王に攫われれしまったのだ。
絶対に守るって誓ったのに、守れなかった。
魔王が飛び去ってから、急いで子分達が隠れ家にしているボロ小屋に行ってみたけど、そこにはもう誰も居なかったの……。
分かってる。
きっともう、あの子達はこの世には居ないんだ。
許せない。
絶対に、許せない。
私は復讐を誓う。
あいつにつけられたこの呪いにかけて、この憎き紋章にかけて、魔王をこの手で絶対に葬ってやる。
だが、今の私では無理だ。
それは私に力が無いから。
そして、それを補う仲間も居ないから。
だから、これから私は一縷の望みをかけて仲間を探しに行く。
あいつは言っていた、私と同じ勇者の血を引く子供が冒険者になりに、この町に来ていると。
悔しいけど、今はあいつの言う事に賭けるしかない。
私だって魔王に出会っても生き残ったんだ。
きっと、もう一人の勇者の子孫も生き残ってくれているハズ。
そう自分に言い聞かせて、私は冒険者ギルドの門を叩いた。
◇
どうも、アース・ガルディアもとい、ねこふんじゃったです。
いやぁ昨日は疲れたね、久々に運動したって感じがしますよ、ええ。
一応あれからの一連の流れをまとめると、深夜に魔王の演技をしてからターゲットが大切にしている子供達の下へ赴き、仮面を外した上で謎の貴公子として孤児院にお邪魔した訳だ。
もちろん孤児院の人達は深夜に一体何事かと驚いていたけど、俺が懐から取り出した金塊を見ると目の色を変えて上客対応を取ってくれたので凄く楽だった。
やはり金の力は偉大である。
すごく機嫌よく総勢7人の子供達が無事孤児院に保護され、なんだか俺も充実感というものを味わえた訳だ。
まさにWIN-WINの関係と言える。
相手は金の力に目が眩んでいたのか、俺の正体不明さにも目を瞑り、きっとどこかの貴族か富豪が気まぐれに助けたとでも思っているのだろう。
気まぐれで助けたという意味ではその通りなので、あながち間違っていないところが凄い。
人の目というのも中々に侮れないな。
余談だが、その後はねこ勇者レイシィと盗賊少女リーズを自然な形で会わせるために、自らの肉体を魔導でボコボコにした上で宿に戻った。
主に運動したのはこの部分である。
確か魔王はねこ勇者レイシィを抹殺するつもりであの場から飛び立ったハズなので、聖剣を守護していた大賢者という、彼女を守れる程の強者が戦闘を行っていないというのは不自然だったからこうした。
筋書きでは魔王の出現を感知した俺が人知れず立ち向かい、ボロボロになりながらも目覚めたばかりで力が発揮できていない魔王を、ギリギリで抑え込んだという流れになっている。
このアザだらけの顔も、その戦闘で負った名誉ある負傷という訳だ。
「やあレイシィ、今帰ったよ」
「…………っ!!! し、師匠、その傷は一体……!」
「ああ、ちょっと強敵と戦闘になってね。気にしないでくれ」
朝、宿に戻るとレイシィは既に起床しており、全身フル装備で俺の帰りを待っていてくれたみたいだ。
なんとも師匠想いの良い弟子だ、おじさん感動した。
「そんな!? あ、ありえません! 師匠程の方を追い詰める事の出来る存在なんて、この世に居る訳が──」
「…………この世、か」
「ま、まさか……」
俺が微笑しながらレイシィの方を見つめていると、彼女はゴクリと唾をのみ込み、ある事を悟った顔をする。
なんだよレイシィもノリノリか!
そうだ、その通りだ!!
ついに新しい仲間イベントが始まりという訳なんだよ!
「……魔王。魔王が、復活したんですね?」
「やはり、隠しきれないか」
やはり彼女はこのイベントを深く理解していたらしい。
一発で俺が魔王と戦闘したという設定を受け入れ、イベントに沿った流れを作り上げてくれる。
うん、やっぱレイシィは最高の一番弟子だな。
彼女以上にノリが良くて演技が達者な女優はこの世界には居ないだろう。
少しだけ涙を見せるその配慮も、パーフェクトを通り越して、ミラクルである。
「う、うぅぅぅ……。私、私また、師匠のお役に立てませんでした。聖剣を持っているのに、何の役にも……」
「いや、それで良いんだ。今は勇者となったレイシィの存在をひたすらに隠し、成長して奴にトドメを刺せる段階まで鍛え上げる事が最優先事項。それに魔王の奴はまだ復活したばかりで本調子じゃなくてね、ギリギリ俺一人で抑えられるくらいの力しか持っていなかったんだよ。流れとしては完璧以上さ」
「師匠……」
「何より、お前が無事でよかった」
「──師匠っ」
俺がそう言うと、頬を赤らめたレイシィが突然抱き着いてきて、猫耳をピクピクさせながら頬ずりし始める。
ふむ、もしかしてこれはマーキングだろうか?
やっぱり朝帰りはマズかったかな。
獣人の習慣はしらないが、既に彼女の親とも言える俺がいかがわしい店に入り浸っていたら気分は良くないだろう。
だから不安に思ったレイシィはまず俺の臭いを嗅ぎ深夜の行動を確認し、その上で商売女への牽制としてマーキングしているのかもしれない。
そうかそうか、俺がいなくてそんなにホームシックだったかレイシィ、ごめんよう!
ほーら猫耳ナデナデナデナデナデ!
「そんなに焦らなくても大丈夫だよ。レイシィに寂しい思いはさせないさ」
「…………むぅ!」
「ふははは」
レイシィはその可愛らしい猫目をうるうるとさせ、頬を膨らませる。
おや、ちょっとナデナデをやりすぎたかな。
「師匠! いまはナデナデ禁止です!」
「う、うむ。そうだな。それと話を戻すが、どうやら魔王の奴は聖剣に認められたレイシィとは別に、かつての勇者の子孫を呪い殺すためにこの町に現れたようだ。あいつの口から出た情報なので確かな事は言えないが、おそらく間違いないだろう」
「か、かつての勇者の子孫……?」
うん、君の新しい仲間だよ。
「そうだ。現在その子は俺の救出が間に合わずに呪いを受けているようだし、どの程度の呪いなのかは皆目見当もつかない。とりあえずこちらで保護する形で動こうと思うのだけど、異論はないね?」
「はい、勿論です師匠! ネコフさまの聖剣に選ばれた者としても、放ってはいけません。ちなみに、どんな子なんですか?」
ああ、やっぱり気になるよねそこ。
だってこれから背中を預けていくことになるパーティーメンバーだもんね。
「ああ、レイシィと同じくらいの歳の、赤毛が可愛い人間の女の子だよ」
「…………」
そういった瞬間、レイシィの表情が凍り付いた。
レイシィが殺意の波動に目覚めました。