表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/35

魔王に呪われた少女の話


 日が落ち、深い夜となったラグナの町を疾走する。

魔導を駆使して戦う後衛職とはいえ、プレイヤーレベル105である俺の足はいとも簡単に屋根と屋根の間を飛び移り、建物の高低差をものともせずに駆けていく。


 そしてしばらく走り続け、平民の中でも上流階級が住む区域から中流へ、下流へ、そしてスラムへと辿り着いた。


 到着したスラムの一角には今にも崩れ落ちそうなボロボロの小屋があり、そこに幼い子供の気配があった。


 さてさて、ターゲットはどこかなっと。


 俺はワザと姿を晒すように、足音を立てながら堂々とその小屋に近づいていく。


「シッ!!」

「おっと」


 小屋の影でより一層暗くなっている死角から、突然粗末なナイフのようなものが投擲される。


 ふむ、悪くない命中精度だ。

この軌道は俺の右目狙いか、確かに目には仮面の隙間があるし、普通の人間なら一撃で死に至るだろう。


 それに見るからに怪しい不審人物に対して、躊躇いなく急所を狙い必殺の攻撃を繰り出すとは、中々に見どころがある。

どんな手を使ってでも生き残ろうとしている証拠だ。


「だが、甘いな。私にはこんなものは通用せん」

「な、ナイフを指で……ッ!?」

「クククッ、喧嘩は相手を見て売れよ? さもなければその寿命をさらに縮める事になるぞ」


 俺は投擲してきたナイフを二本の指でつまみ、適当なことをのたまう。

ここらへんは突然現れた謎の実力者としての演技がモノを言うところなので、もし台詞を忘れた時のためにカンペを用意してきたのだが、まさかターゲットにここまでの行動力があるとは思わず、思い付きで喋ってしまった。


 しかしまだ許容の範囲内だし、アドリブとしてみるなら中々の名演技だったのではなかろうか。


 すると彼女は俺に投擲は通用しないと思ったのか、今度は時間稼ぎのための質問攻めを始めた。

相手が絶対的な優位に立ち、油断しているところを狙う良い手だ。


 だがこれこそが俺の狙い、「魔王に呪われた少女の章」の第一幕となる。


「な、何者なんだオマエ。オマエみたいな奴がこんなスラムに来て、一体何がしたいんだ。人攫いか?」

「ふむ」


 そう語り掛けてくる間にも彼女はこちらの隙を窺い、なんとか状況を好転させようとしている。

こんな子供が大人に向かって虚勢を張っているなんて、とても健気だ。


 まるで弱い者いじめをしているような気分になってしまう。


 だが俺はそんな思いを振り切り、インベントリから課金アイテムを取り出す。


 アイテムの名前は【スキル習得の巻物:カースⅡ】。

ゲームでは盗賊系の職業を持つプレイヤーに愛用されていた、カウンター型の課金スキルだ。


 このスキルは一日に二回だけ発動が可能で、発動すると相手を呪いの力で拘束、または能力低下状態にするという優れたスキルなのである。


 しかし便利な反面制約もあり、一度課金スキルを習得すると他の課金スキルが習得できなくなる他、相手を状態異常にするためにはDEX(器用さ)の数値が高くなくてはならず、さらに失敗するとペナルティーとして相手に状態異常無効のバフが30秒間付与されてしまう。


 そういった使いどころを選ぶスキルがこのカースⅡであり、器用さの高い盗賊職でなければまともに機能しないスキルなのだ。


「な、なんだよその巻物は……。どこから取り出した! まさか、ど、奴隷契約書じゃないだろうな!? やめろ! くるな!」

「奴隷が怖いか? しかし残念だったな、私は魔王、世界の支配者だ。故に人類など私から見れば等しく奴隷であり、そんな下らない契約書など無くとも、貴様を意のままに操る事など造作もないのだよ」


 そう言いつつ、最上位魔導のテクスチャーを背後に展開させ、魔王に呪われた怨霊のような幻影を作りだす。

雰囲気作りはバッチリだ。


「ひっ!! ま、ままま、魔王っ!!? ……来るな、くるなぁ!!」

「そう怖がる事はない。私は貴様を祝福しにきたのだよ。魔王の呪いという、祝福をね」


 そう言い放った俺は【スキル習得の巻物:カースⅡ】をターゲットの盗賊少女、リーズちゃんに向けて発動する。


 発動した巻物のエフェクトはリーズに絡みつき、その身体に沁み込むようにして消えていくと、彼女の手の甲に紋章が刻まれた。


 互いに絡みつく二匹の蛇のような紋章、それこそがカースⅡの紋章だ。

ちなみに慣れれば紋章は任意で不可視にできる、まあ教えないけど。


「な、なにを……」

「たった今、貴様に魔王の呪いを与えた。その力を放っておけば貴様の寿命を著しく奪い、何もしなければあと10年で死に至るだろう。なに、案ずる事は無い。呪いの侵食によって殺されれば私の一部となれるのだ、光栄に思うと良い」


 ちなみにカースⅡに限らず、課金スキルは使えば使うほど紋章が変化し、豪華になっていく。

そのスキルの熟練度が一目で分かるようになっているのだ。


「なっ!? ふ、ふざけるな! どうして────」

「どうして貴様を選んだか、かな? 簡単な事だ。貴様はかつて私を倒し封印した忌々しい人間、勇者の血を引く者だからだ。ああ、考えるだけで私の血が騒ぐ。勇者の子孫である貴様をいたぶり、呪い殺し我が血肉とする事が、奴への真の復讐となるだろう。そして貴様がその呪いを抱えている限り、放っておけば徐々に親しい者から順に、呪い殺されていく事になるだろう」


 その台詞を聞いたリーズちゃんは唖然とし、涙をポロポロと流し始めてしまう。

おっと、やり過ぎたかな。


 じゃあ次は、魔王が油断した事によりぽろっと話してしまう、呪い解決策のシーンだ。


「そんな、そんなっ! うっ、うぅううう……」

「くくくっ、そうか、悔しいか? だが安心しろ。その呪いは別の勇者の力を持つ者を傍に置く事で、呪いの進行を抑えることが出来る。確かこの町にはもう一人冒険者となった子孫が居たはずだが、……まあいい、そちらは今日のうちにでも殺しておくとしよう。フハハハハハッ!!」

「……っ!!」


 リーズちゃんはそのセリフを聞いて再び希望を宿し、顔を上げる。

そうだ、がんばれリーズちゃん!


 ねこ勇者レイシィは冒険者ギルドに行けば会えるぞ!!


「そうだ、貴様をいたぶるだけでは面白くない。より強い絶望が見れるように、貴様が大事にしている子供らは私が責任を持って面倒を見よう。では、さらばだ」


 それだけ言い残すと、俺はその場を飛び立ち闇に消えていった。


 よし、このあとはリーズちゃんが大事にしている子供達を、ギルドホールから取り出した金塊と一緒に孤児院へ預けるだけだ。


 ふぅ、緊張した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ