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イベントを開始するにはまだ時期尚早だった話



 無事に羊皮紙への記入を終えた俺は、次いで魔力波の検査を行う事になった。

主にこの検査は個人の魔力をギルドカードに登録し、その波のパターンによって偽造防止をするための検査なのだそうだ。


 ちなみに魔力波の検査と共に属性検査を行うのだが、こちらはだいぶアバウトなもので、突然魔力の質が変わったりする種族や年齢でも変わる事から、参考程度までにと捉えられている。


 それに全ての属性が判別できる訳でもなく、あくまでも得意としている属性が前にでる傾向が強いらしい。


 しかしこのセキュリティ、やはり指紋認証と見て間違いないだろう。

異世界特有の技術とはいえ中々にハイテクである。


 やり方は単純で、カウンターの上に置いてある水晶に手を置き、魔力を流すだけ。

流すと言っても自らコントロールする訳ではなく、水晶が不思議エネルギーを自動で吸い取ってくれるという優れものらしい。


 ただしあまりに魔力が高い人は自分でコントロールしないと壊れてしまうので、その辺は要注意だ。


 なので普通は金さえあれば冒険者ギルドに誰でも登録できるのだが、悲しい事に俺の場合は違う。

なにせ魔力そのものが無いのだ、どう頑張っても登録など無理である。


 だが、解決案が無い訳でもない。


 俺はそっとインベトリから取り出した巨大蛇の一部、その中でも小型の鱗を手のひらに握ると、インビジブルで鱗を隠蔽する。


 これで準備は完了だ。


「まずは俺からやりますね」


 俺は手に隠し持った巨大蛇の鱗ごと水晶に触れる。


 ──すると、


「おおーっ」

「どうやらガルディアさんは闇属性に強い傾向があるみたいですね。人間よりも魔物に多い属性なのであまり好まれていませんが、強力な属性ですよ。実力主義である冒険者には大変歓迎されています」


 予想通り見事に水晶は反応し、漆黒の雲のような不定形の物が中で渦巻いていた。

これ、なんかドライアイスの煙が黒くなったみたいだ。


 そして受付嬢さんの言う強力な属性というのは本当だったようで、俺の検査を盗み見ていた一部の冒険者達の視線が変わった。

どうやら勧誘モードにシフトしたようである。


「では、次は私の番ですね……」


 次いでレイシィが手を触れると、今度は虹色に水晶が輝き始めた。

あれ、この光って神王の剣オーデンの輝きと一緒だね?


 もしかしてレイシィの魔力にユニーク武器のエフェクトが融合しちゃったとか?


 まっさか~。


 ただ、俺達のことをチラチラと観察していた冒険者達の中にも、立ち上がり驚いている人が居るのが気になる。


 そしてその中の一人が呆然と何かを呟いた。


「全属性適性!?」


 ん?

今なんて?


 すると今度は受付嬢さんが慌て始める。


「こ、この虹色の魔力はまさか、ゆ、勇者の輝き!?」

「へ?」


 勇者の輝き?

いやいや、そんな馬鹿な。


 これただの武器エフェクトですよ。

あ、でも武器エフェクトで魔力検査通るなら、俺もそうしておけば良かった。


 まあ結果通過できたのだから問題ないけどね。


 だが、こういう形でのイベントは期待していなかった。

俺の予定ではもっとこう、大々的にねこ勇者レイシィを発表するつもりだったんだけどな。


 ただ問題なのは、レイシィが「当然です。私は先代勇者ネコフさまが携えた伝説の聖剣、オーデンに認められた所有者なのですから」とか言っている事だが、まさか彼女は武器エフェクトが魔力に影響を与えると知っていたのだろうか。


 馬鹿な、ありえない。

いやだが、もしそうだとするならば、過去に俺以外のイレギュラーが存在し、使っていたユニーク武器を他者に委ねた事がある可能性も捨てきれないだろう。


 そしてその強大なユニーク武器の力がある者の手に渡り、それを所持した旅人が勇者と称えられた過去があるならばどうだろうか。


 この何でもありのファンタジ―世界だ、あり得ない事でもないだろう。


 俺も数百年前の無双時代、生産スキルのレベル上げの為に数多くのユニーク武器を量産し、失敗作を魔物が蔓延る地帯に破棄したことも一度や二度じゃないが、さすがに俺と同じ思考で勇者誕生イベントに興味を持つ人間がいるとは思わなかった。


 まさかこのイベントに先駆者が居たなんて、脱帽という他ない。

やっぱりみんな考える事は同じって事なんだね、納得したよ。


 しかしこうなると、俺が用意しようと思っている仲間との出会いイベントなどに影響を及ぼしそうなので、一旦阻止する事にする。


 レイシィが大々的に勇者になるのは、もうちょっと後からなのだ。


「最高位魔導【テクスチャー】」


 俺が魔導を発動させると、虹色に輝いていた水晶は徐々にその色を失い、最後には無色透明な白い輝きを放ち始めた。


 もちろんこの色は俺が魔導により演出した光であり、本来の水晶は今もなお虹色に輝いている。


「皆さん焦り過ぎですよ。見てください、水晶は虹色に輝いてはいません」

「あ、あれっ? 本当ですね。……ふう、焦りました。どうやら光の錯覚だったのかもしれません。無色透明は無属性の魔力なので、そう記録しておきますね」


 受付嬢さんは羊皮紙に新たな情報を書き込み、納得した様子を見せる。

うんうん、見間違いなら仕方ないね。


 レイシィは驚いた顔をしていたけど、俺が大賢者の魔法で何かしたとすぐに気づいてそれ以上は何も言わなかった。

俺が大賢者だった説、便利過ぎである。


「(なるほど、まだ未熟な私は勇者の力を使いこなせていないという事なのですね、ネコフさま……。ですが必ず貴女に追いついてみせます。そしていつか認めてください。そうしたら私はアースさまに……)」


黒幕は


「生産スキルのレベル上げの為に数多くのユニーク武器を量産し、失敗作を魔物が蔓延る地帯に破棄したことも一度や二度じゃないが」


 などと供述しており、発見された装備は現在……(おっと誰か来たようだ)

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