異世界に飛ばされていた話
謁見の間に飛ばされた俺は、辺りを見渡す。
部屋に備え付けられた調度品や敷かれた絨毯はどれも高級そうで、白を基調とした空間が広がっている。
これほどの設備を整えるのに、一体どれくらいのお金が掛かったのだろうか。
ちょっと想像できないレベルの豪華さだ。
だけどなんとなく、どこかで見た事があるような気がしなくもない。
「うーん、どこだったっけなぁ……」
するとふと、謁見の間に立てかけられた旗が目に留まる。
あの紋章は確か──
「ギルド、アース・ガルディアの旗じゃないか……? そういえば、この謁見の間も俺が立ち上げたギルドの部屋にそっくりだ」
ギルド、アース・ガルディア。
略してガルディア。
俺がやっていたオンラインゲームにはギルドホールと呼ばれる拠点があり、その拠点を活かしてプレイヤーが鍛冶や裁縫などの生産活動をしたり、または拠点に備え付けられた設備である訓練場などで技を磨き、冒険に出るといったシステムで運営されていた。
この謁見の間は、そんな俺が遊んでいたオンラインゲームの拠点、しかも課金に課金を重ねて巨大化させた、ガルディアの部屋にそっくりだったのだ。
まさか、あの悪魔が叶えてくれた不自由なく暮らせる財産とは、この事だったのだろうか。
「しかも、この格好……」
そして極めつけは、俺の服装。
何の素材で作られているのか分からない、黒の生地と金の刺繍が施されたロングコートに、同じような配色のズボンにシャツ。
そして手に持っている杖槍。
これらは全て、ギルド【アース・ガルディア】のギルドマスターであり俺のプレイキャラクター、不老の最高位魔導士【ねこふんじゃった】の装備品たちである。
余談だが、ねこふんじゃったのプレイヤーレベルは実装されている中でも最高の105。
装備品もそれに違わぬ貴重な素材から作られている。
まさか、こういう形で財産を提供してくるとは思わなかった。
確かに財産としては申し分ないし、このギルドホールに立てこもっているだけで何不自由ない暮らしが出来るだろう。
この拠点には、自給自足するだけのあらゆる設備が備えられているから。
ちなみに、アース・ガルディアは地中に備え付けられた超巨大な施設という設定であり、出口がない。
外へ出るには転移部屋と呼ばれる部屋で転移先を設定するか、ギルドマスター専用のアイテムである次元指輪と呼ばれる指輪で、行った事のある場所を想像して発動させなければならないのだ。
転移部屋には世界を俯瞰して確認する映像装置が備え付けられており、その映像を基に転移先を確定する事になる。
まあそういう設定というだけで、実際にはマウスで行先をクリックすれば、勝手に移動する訳だが。
「とはいえ、とりあえず現状の確認が最優先だな。まさか転移部屋まで実装されているという訳でもあるまいし、出口はどこかにあるはずだ。というか、出口がないと詰む」
そうして少しワクワクしながら城内を探索する事にした。
◇
ワクワクドキドキの探索から3日ほどが経った。
だからまず、結論から言おう。
このギルドホール、出口ないわ。
そして、ここは地球ですらないわ。
というのも、探索の結果として魔法でも使われていなければ稼働するはずがないと思われる、ありとあらゆる設備の稼働を確認できたし、転移部屋に赴いた事で外の様子も確認できたからだ。
まず疑心暗鬼ながらも転移部屋を稼働させて、転移する場所を指定するために、色々な街を映像で調べてみたのだが、どれも地球にあったような街ではなかった。
ある街には見た事もないような生物、おそらくは魔物が支配するような都市があったり、またある街には中世時代としか思えないような文明度の都市が広がっていたりした。
街の人々の髪の毛も青色や緑色など、地球に居た頃ではありえないような発色をしていたし、それが自然に見えた。
とても染めたとは思えない、そんな色だった。
しかも、中には猫耳や犬耳の生えた人間も居たし、森の中には耳の長い種族達が集まって暮らす集落などもあったのだ。
そして最後に、自分の姿。
拠点に備え付けられた鏡で確認したところ、俺の姿はゲームでプレイしていたキャラクター、中肉中背のイケメン青年、不老の最高位魔導士【ねこふんじゃった】そのものとなっていた。
ここまでくればもう、認めるしかないだろう。
そう、俺はおそらく、あの悪魔の手によって異世界に飛ばされてしまったのだ。
「だ、ま、さ、れ、たぁ~~~~~!!!!」
完璧に騙された。
なんだあの悪魔、願いを叶えるってこういう事か!
確かに、若い肉体を維持したまま老いる事のない体になったし、不自由ない暮らしができる財産も手に入れた、その上本当に俺の肉体がねこふんじゃったの力を持つ存在なら、無双できるであろう力はあるかもしれない。
いやむしろ、ねこふんじゃったの戦闘能力を考えたら、現代日本では活かし切る事は出来ないだろう。
だが、それでも!
異世界に飛ばされるなんて話は聞いていなかったのだ!
これはもう、してやられたとしか言いようがない。
幸いな事に生きていく分には本当に不自由がないので、今後の方針を考えつつもしばらく引き籠っている事にしよう。
はぁ、これからどうしよう。