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実は自分が大賢者流無敵剣術開祖だったらしい話


 冒険者ギルド、つまりは何でも屋に近い傭兵集団の集会所と聞くと野蛮なイメージがあるが、辿り着いたこの町のギルドはそういった雰囲気とは無縁のオーラが漂っていた。


 確かに周りには筋骨隆々の武装した男達がいるし、酒場も兼用している事から昼間から酒臭い感じもする。

しかし意外な事に内装の方はしっかりしており、木造の高級ホテルか何かなのかと疑いたくなるほどに小綺麗だ。


 ちょっとイメージと違う。


「ようこそゴドル王国ラグナ支部へ。本日はどういったご用件でしょうか?」

「俺とこの子の冒険者登録と、魔物素材の買い取りを頼みたいのですが」


 20代前半の美女が見事な営業スマイルで対応し、用件を確認する。

日本で言えば、まさに警備が厳重な高級ビルの1Fに居るやり手の受付嬢みたいな雰囲気だ。


 えっ、なにこれ。

室内の見た目もそうだけど、ここってそういう所なの?


 もしかして冒険者ってこの世界のエリート階級だったりするのか?

これは野良犬の素材なんて提供してる場合じゃないぞ。


 下手したら失笑モノだ。

もしかしたら素材なんて出さずに依頼で稼いだ方が良いのかもしれない。


 どうせ時間なら腐るほどあるし。


 それにレイシィからテストがあるとも聞いているし、もしかしたらペーパー試験とかあるのだろうか。

例えば魔法理論の難解な公式とか出されて、実力とか計られちゃったり?


 やばくない?

なんか場違い感半端じゃないんだけど。


「かしこまりました。では一先ず、こちらの用紙にご本人様の署名と使用可能な特殊技能をお願いします。その後は魔力波の検査となりますが、検査に銀貨1枚掛かりますので、手持ちに余裕がない場合は魔物素材の売却額で補填させていただきます。またそれでも必要額に満たない場合、差額を借金とさせていただきますが、滞納が続き借金の返済が不可能と判断された時は奴隷落ちとなりますので、ご注意下さい」

「あ、あい……」

「続いてギルド加入時に簡単なテストがあるのですが──」


 やばい、やっぱり魔犬出すしかないわ。

すぐに魔犬出さないと俺奴隷になっちゃうから出すしかないわ。


 というかまず銀貨ってなんだ、どれくらい価値があるんだ。


 魔犬で足りるのか?

足りなかったらどうする?


 逆立ちしながら土下座か?

うん、そうしよう。


 どうしよう冒険者ギルド舐めてた。

どうせ中世ファンタジーが運営している組織なんて、適当なルールで色々ガバガバなんじゃないのとか思ってたわ。


 いや、冷静に考えると色々と穴があるし、説明にも不足があるのは分かるのだが、想像以上に罰則が厳しくてちょっとビビってるだけだったりする。


 落ち着け俺。

なんであれ、ようするに滞納しなければいいだけだ。

大丈夫、いざとなったらギルドホールには資産も資源も腐るほどある。


 最後に勝つのはこの俺だ!!


「──を以ちまして、ギルド加入時の基本説明となります」

「あ、はい」


 なんか焦ってたら説明終わってた。

ま、いいか。


 ようするに金払ってテストして検査するだけだろ、なんだよ余裕じゃん。


 ……余裕か?


 すると横を見ると、話を聞きながらもサラサラと必要事項を書き終え、ついでに俺の分まで特殊技能を記載してくれたレイシィの姿があった。


 どうやら彼女が俺に気を利かせてくれたようで、あとは俺が自分の名前を著名すれば良いみたいな流れになってる。


 もちろん俺はその羊皮紙の内容に目を通────さずに、そのまま自分の名前を書き連ねる。


「はい、ではお預かりしますね……。何々、レイシィ様の特技は剣術と体術、加えて多少の気配察知ですか、優秀ですね。この歳の子だと誇張表現して邪王心眼流剣術開祖とか、絶対回避能力とか書き出すので大変なんですよ。見たところあなたのお弟子さんでしょうか? ここまで教育なされているなんて、とてもご立派でいらっしゃいます。さて、次はアース・ガルディア様ですが……」


 そうだろうそうだろう。

レイシィは優秀なのだよ、やっぱり分かっちゃう?


 この子は俺にはもったいないくらいの弟子なのだ。


 そして一旦レイシィの情報を確認し納得した受付嬢さんは俺の羊皮紙へと目を通そうとし、──固まった。


「だ、大賢者流無敵剣術開祖(勇者流でも可)、無尽蔵の魔力と最高のコントロール、圧倒的にして多彩、至高の魔法技術(間違いなく世界最強)、でもちょっぴり寂しがり屋……?」

「…………?」

「えへへっ」


 ……ん?


 ごめん、おじさんちょっと現実を受け止めきれないよ。

なんでレイシィちゃんは、やってやりましたよ師匠みたいな顔してるのだろうか。


「馬鹿ですか?」

「はい」


 受付嬢さん曰く、俺は馬鹿だったようだ。

どう考えても自慢の弟子であるレイシィが馬鹿な訳がないから、俺が馬鹿で間違いないだろう。


 そうか、なるほどね。

いや、1000年くらい孤独に生きてるとね、少しくらい頭も弱くなっちゃうよね。


「失敬な!! 師匠の凄さを分からないなんて、あなたどうかしていますよ? どこからどうみても真実ですよね。師匠の体から微塵も溢れる事の無い究極の魔力コントロールと、一切重心のブレる事のない隙が無い佇まい。これだけでも初見である程度の事は気づけるはずです。それでもあなたギルドの受付ですか? 馬鹿にしないでください!!」

「え、えっと……」


 受付嬢さんに色々と弁護してくれるが、もういいんだ。

俺が悪かったよレイシィ、ここは素直に謝ろうじゃないか。


 レイシィの愛情の深さはよく分かった。


「すみません、ちょっと新人だった頃を思い出して悪ふざけをしてみたくなったのですよ。弟子まで使って付き合わせてしまい、申し訳ない。基本は杖術と槍術がメインの前衛です、そう記録していただければ不都合はありませんよ」

「……そ、そうですよね! ふふふっ、冗談がお好きなのですね? そういう大人の魅力を持っている方って、ステキだよ思いますよ」


 俺の言葉に受付嬢さんは納得した様子で微笑み、全てを水に流してくれた。

ああ、なんて優秀な受付嬢さんなんだ、やはり冒険者とはエリートが集まる武装集団なのだろう。


 レイシィも「そんな……! 師匠がお力を隠されていたとは露知らず、出すぎた真似をしてしまいました……。しかしあの女も師匠の魅力に気づくとは、案外まともですね」って言ってくれてるし、何の事だかは分からないが丸く収まりそうだ。


 いやあ、焦ったよ。


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