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冒険者ギルドでは指紋認証が流行っているらしい話


 手にした槍に力が籠っていく門番さんだが、やはりピクニックなどという言い訳は通用しなかったみたいだ。


 まあ俺も少しふざけ過ぎていたと思う、怒っても仕方がないね。


 ただそれはそれとして、この人に対する上手い弁明というのも特に思い浮かばない。

なにせ死の大森林──初めて聞く名前だが、つまりは俺がサバイバルしていたエリアの事だろう──を抜けて来たのは事実だし、今までの旅人の傾向からしても森を抜けるのは相当に困難である事が伺える。


 俺からしてみれば森で最弱の魔物であるケルベロスも、だいたいの人にとっては相当に厄介な魔物だからだ。


 かといって、あの犬の素材のどこをどう使えば冒険者ギルドにとって利益になるのかは知らないけどね。


 それはさておき、つまり俺達の今の立場は彼の言う通り怪しい奴で間違いがないという事になる。


「う~ん、困ったなぁ」

「師匠、私は我慢なりません! 大賢者であるアースさまに対して、あまりにも無礼です!」

「まぁ落ち着いてレイシィ。大丈夫だから」


 確かに怪しまれた事で町には入れないし困ってはいるのだが、逆に言えばそれ以上は困っていない。


 この門番が本気で俺達を捕らえようとしたり、最悪犯罪者の疑いがあるとかいって切りかかって来たとしても、どうとでもなるのだ。


 俺はもちろんのこと、既にレベル21の身体能力を持つレイシィにも、彼程度では脅威にすらならないだろう。


 なにせ兵士の平均レベルは5がせいぜい、レイシィとは16も離れているのだ。


 このくらいレベルに差がつくと、なんらかの奇跡が起きて攻撃を受けたとしても傷すらつかない。

むしろこちらの防御力が高すぎて、彼の持つ槍が折れてしまわないか心配するべき所だろう。


 よって俺は、天才的なアイディアであるすっとぼけが通用しなかった時の次善の策として、町への不法侵入を決行する事を決意する。


 これからは文明人を目指す俺としてはなるべく法は守りたいところではあるが、無用な戦いを避けるためであるならば致し方あるまい。


 なにせ門番である彼には何の罪もないのだ。

身分も明らかじゃない不審者に、不審である理由込みで職質をしているだけである。


 これで暴力沙汰になろうものなら、俺は善良なる兵士を傷つける野蛮人と変わらなくなってしまうだろう。

文明人を目指す俺にとって、そして可愛い愛弟子にかっこいいところを見せるつもりである俺にとって、ここらへんは譲れないラインだ。


「無礼だと? 貴様、先ほどからなにを訳の分からぬ事を……」


 おっと、少し考え込み過ぎたみたいだ。

そろそろ門番さんが痺れをきらしそう。


「レイシィ、ちょっとごめんね」

「はい? どうしました、ししょ────きゃぁっ!!」


 俺は彼女を抱きかかえると、下級魔導と中級魔導を同時に唱える。

もちろんこの不法侵入の場で使う魔導といえば、【サイレント】、そして【インビジブル】だ。


 レイシィがびっくりして喚き散らしているのか、腕の中でモゾモゾと動いているのが分かる。

だが如何せん音も聞こえないし姿も見えないので、何を伝えたいのかは分からない。


 苦情はまた後で聞くことにしよう。


「なっ、馬鹿な!? き、消えただと!?」

「(すまないね門番さん、この詫びはいずれ)」


 そう言って俺は抱きかかえたレイシィごとその場を通り過ぎ、何事も無かったかのように町へと侵入を果たした。


 これは次に合う時までに何か身分証明を作っておかないといけないな、……確か冒険者ギルドではその役割をもつカードを発行しているとレイシィから聞いたが、本当だろうか?


 そう思いつつも、しばらくは姿を消したままの俺達は町を散策するのであった。





「師匠、酷いですよ! びっくりしました!」

「悪い悪い、ごめんってレイシィ。ほら、あの場ではああするしか方法が無かったんだ」

「……むぅぅ~。それでもひと声かけてほしかったです」

「それだと警戒されちゃうからなぁ」


 とはいえ、年頃の少女である彼女を無断で抱っこするというのは、確かにデリカシーに欠けた行動だった。

日本ならセクハラだと言われてもおかしくない愚行だ。


 今後は気をつけよう。


 ただレイシィも本気で怒っている訳ではないようで、それ以上の事は言ってこない。

顔がまだ真っ赤なのは気になるが、きっと許してくれるだろう。


「もういいです、許します。でも、こういう事していいのは私だけですからね? 他の女性にしちゃダメですよ」


 そこは当然だ、彼女は俺をなんだと思っているのだろうか。

いきなり顔もしらない女性を抱きかかえる変態だと思われているのだとしたら、少し悲しい。


 これは冤罪だ、濡れ衣である。


「大丈夫、誓って(痴漢行為は)しないよ」

「ふ、ふふふ……。ならいいのです」

「ふふふ……、そうか」


 俺の日頃の行いが良かったのか、あっさりと無罪判決が出た。

そしてどこか満足気な表情で頷いたのを確認し、次の目的地である冒険者ギルドを目指す。


 ちなみに、換金予定であるケルベロスは3ダースほど確保している。

あいつらこちらから出向かなくても次から次へと襲ってくるので、気づけば大量の死体が積みあがってしまったのだ。


 恐らくはした金にしかならないとは思うが、せいぜい俺の生活費になってもらう予定である。


 ちなみに本命は巨大蛇だ。


「あ、そうそう。師匠ならば問題はないかと思いますが、冒険者ギルドでは魔力波の検査があるので、いつものように魔力は抑えてくださいね? もしかしたらギルドの魔法具が師匠の魔力に耐え切れず、壊れてしまうかもしれないので。私が元居た村でも、冒険者のエルフさんなんかがよく壊していました」

「……ふむ?」


 なんだ、その魔力波の検査というのは。

あれか、指紋認証みたいなものだろうか?


 いやまて、俺はそもそも魔力なんていう不思議エネルギーを保有していないのだが、これいかに。


次回、冒険者ギルド回をお楽しみに(`・ω・´)

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