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天才的な言い訳を思いついた話


 人里に降りると決意した翌日、さっそく屋敷から必要なだけの荷物を持って森を出た。


 荷物を持つと言っても、俺にはゲームキャラクターとしての機能である【インベトリ】があるため、実際にカバンに入っている物はそれ程多くはない。

せいぜい数日分の飲料や食料、多少の装備品くらいだ。


 インベトリも無限に物を入れて持ち運べる訳ではないのだが、その気になればギルドホールで必要な物を調達できる俺にとっては、この程度で十分という訳である。


 レイシィにインベトリの能力を見られた時にはどう説明するか迷ったのだが、彼女はこの世界に存在する魔法の一種、空間魔法の【アイテムボックス】と勘違いしたらしい。


 彼女は俺の事を、魔力コントロールが完璧で一切その膨大な魔力を漏らさない大賢者、もしくは大魔法使いだと思っている節があるので、そういう結論に至ったのだろう。


 俺としても異世界から転移してきた事を明かす気は一生ないので、その勘違いは有難い。

話に聞くアイテムボックスとやらがどんな魔法かは分からないが、まあなんか、そこ辺の魔法使いとかが皆で便利に使っている魔法なのだと思い、適当に返事をしておいた。


 その時のレイシィは少し苦笑いを浮かべ、「師匠にとっては最上級魔法も下級魔法も、大した違いは無いのですね」と言っていたが、どうしてそういう結論になったのかは謎だ。

最上級魔法の話なんてしていなかったはずだが、……はて?


 とにかくそういった経緯もありつつ、時折襲い掛かってくる森の雑魚魔物を倒しながら、人里で換金するために死体ごとまるまるインベトリに収納していった。


 ただ、森を下るとどんどん魔物が弱くなっていくため、人里につく頃までに集まった素材に大した物がないのが多少気になる。


 自分から襲撃してきてくれるのを利用して、三つ首の犬であるケルベロスを主体に回収していったが、こんな野良犬に本当に価値があるのだろうか。


 レイシィの話によると、冒険者ギルドという組織でたいていの魔物は買い取ってくれるという話だったが、かなり心配だ。


 なにせ彼女はまだ10歳である、とても社会への常識があるとは思えない。

俺にこの世界の常識があるとは言わないが、レイシィに任せっきりというのもなんだかなあ、といった感じだ。


 大人としての感性を持つ俺から言わせてもらえば、こんな野良犬の死体を手渡されたところで相手は困惑するだけだろう。


 もちろん俺ならギルドホールの施設を利用して、多少は有用な素材として使いまわせる。


 だが、今から相手にするのはこの世界の一般人だ。

その事を考慮に入れると、どうしてもこの犬に価値があるとは思えない。


 故に大人な俺はレイシィの言葉を鵜呑みにせず、森を出る前にとりあえずの準備として、数百年前に森で倒した魔物、当時この土地の主を語っていた巨大蛇の素材をインベントリに収納してきた。


 こいつも別段大した魔物ではないのだが、少なくとも野良犬の100倍くらいは強く、この世界の正騎士や旅人では討伐に少しだけ苦労するだろう。


 そしてそのくらい良い感じに苦労する魔物であれば、当然話に聞く冒険者ギルドで歓迎される可能性が高いという訳だ。


 完璧な推理である。

やはり大人の対応とはこうでなくてはいけない。


「師匠、町が見えてきましたよっ!」

「ん? どれどれ」


 ほうほう、随分と風情のある町だ。


 ギルドホールの転移部屋ポータルからは幾度となく覗いてきた人里ではあるが、モニター越しに俯瞰して見るのとは違い、正面から肉眼で捉えるとその大きさがよく分かる。


 塔のように高い石作りの城壁と、巨大な城門。

城壁だけとっても、あれだけの建造物を造るのに、一体どれだけの時間と労力が費やされたのだろうかと、そう思わずにはいられない。


 まさに中世の町に相応しい城壁をしていらっしゃる。


 そしてそんな感想を抱いて城門に近づいていくと、当然町の門番さんに引き留められた。


「そこの者、止まれ! こちらは城門の裏口だぞ!」

「ふむ?」


 随分立派な城門があったのでてっきり正門かと思っていたが、どうやら裏口だったらしい。

だとすると、正門はもっと大きいという事だろうか。


 すごいな異世界、半端じゃない。


 まあ裏口に来てしまったものはしょうがないので、素直に反対側に迂回する事にする。

社会のルールは守る、それが文明人だ。


「おい待て、そこの二人組」

「ん?」

「はい?」


 衛兵の言葉に、レイシィと俺は足を止める。

まさか今回だけはここを使っていいとか、そういう事かな?


 結構融通が利く門番さんだった。


「ん? ではない。なに素知らぬ顔して立ち去ろうとしているのだ。怪しい奴め」


 えっ。


「いや、怪しい者ではない。誤解だ」

「そうです、誤解です! それにあなた、師匠に対して無礼ではないですか!?」

「どう考えても怪しいだろ。なんでたいした荷物を持たない優男と少女が、この方角から何食わぬ顔でやって来るのだ。知っているとは思うが、向こう側は死の大森林が広がる魔境だぞ? お前ら、どこをどう通って裏口に来たんだ。目的を言え」

「な、なっ……! 無礼な!!」


 そうか、荷物を持っていないから疑われていたのか。

確かに魔法使いじゃないと不審に思うよね、とても旅をする格好には見えない。


 しかし旅じゃなければどうだろうか?

たとえばそう、散歩とか。


 なるほど、これは良いアイディアだな。


 天才的な言い訳を思いついた俺はキメ顔を作り、口角をあげてこう言った。


「……フッ。目的はピクニックですかね」

「何……?」


 その言葉に反応し、門番さんが持つ槍に力が籠った。


 あれ……?



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