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とある国の王子が話を聞かない人間だった話


 馬車から偉そうなおじさんが出てくると、周りの騎士達は一斉に膝をつき頭を垂れた。

おそらく、あの人が騎士が守っていたやんごとなき立場の人に違いない。


「申し上げます公爵閣下、この方は窮地に陥っていた我々を──」

「報告はよい、私は全てを見ていたのだからな。それよりも騎士隊長含め、他の者達も全員良くやってくれた。おかげで私も殿下も、こうして傷一つなく無事だ。お前達のような素晴らしき忠臣を持つ事を誇りに思うぞ」

「うっ、閣下……」


 レイシィにビンタされた騎士さんの報告を遮り、閣下と呼ばれたおじさんが部下達を労う。


 そうか、あのビンタさん騎士隊長だったのか。

全員がほとんど同じ格好だから気づかなかったよ。

だけどよく見るとビンタさんだけ少し鎧の装飾が違うので、あれが隊長格のサインなのだろう。


「さて、自己紹介が遅れて申し訳ない。私はゴドル王国公爵、クレイムント・ヴァレスだ。なに、立場上公爵などとは呼ばれているが、フットワークの軽い旅好きおじさんと思ってくれればいいだろう。まずは殿下と部下達を救ってくれた事に礼を言わせてもらう」


 いや、フットワークの軽い旅好きおじさんって柄じゃないだろどう見ても。

見た目は30代前半に見える彼の姿に隙は無く、毎日泥沼の権力闘争に明け暮れているのがよく分かる、思慮深くも鋭い眼光がレイシィに突き刺さっているしね。


 彼女がどういった人物なのかというのを注意深く観察し、自分達を助けた動機などを含め、その背景を探ろうとしているのだろう。


 中々に侮れない人間だ。


「はじめまして。僕はゴドル王国第二王子、レザード・ゴドルと申します。この度は私共の窮地を救って頂き感謝の念が堪えません。お嬢さんの名前はなんと言うのですか?」


 クレイムント公爵の挨拶が終わると、今度はすかさずレザード少年が挨拶を行う。

最初はこの二人が親子かと思ってたのだけど、違ったか。


 もしかしたらあの鮮やかな金髪と碧眼っていうのは、ゴドル王国における王族としての象徴なのかもしれない。


 それに少年の方はまだ熱に浮かされたように上機嫌だが、さすがに王族というだけあって教養があるようだ。

というかニコニコと笑うその視線の端から、舐めるようにレイシィを観察している。


 こちらはこちらで要注意人物と言える性格をしていそうだ。


 見た感じ思春期がはじまる頃合いなのだろうけど、その視線はヤバイってレザード少年。

あんまり欲望丸出しだとレイシィに嫌われちゃうぞ。


「私はレイシィです。師匠と一緒にこの地に眠る聖──」

「レイシィさんと言うのですね! ふふっ、美しい名前だなあ。そうだ、を助けてくれたお礼もまだでしたね。もしよければ、一緒に王宮へ同行願えないでしょうか。お礼はそこで」

「…………」


 そう言ってゴドル王国第二王子は自分の手を差し出す。

まるで拒否されるなどとは微塵も思っていない、清々しい程のイケメンスマイルだ。


 いやレザード少年、会話成立しなさすぎだろ。

教養があるとか思っていた俺が間違ってたわ。


 たぶんこの子、自分の興味があるものを目の前にすると、周りが見えなくなるタイプの人間なんじゃなかろうか。

クレイムント公爵の顔も、ちょっと、いやかなり引き攣ってるぞ。


 レイシィなんか、生気の抜けたような辛辣な顔でレザード少年を見つめている。

これは完全に拒絶されたな。


「お待ちください殿下、まだ彼女の話が終わっていません。お喜びになる気持ちも分かりますが、あまり性急になられないようお気を付けください」

「……ん? ああそうか、だから戸惑っていたんだね」


 騎士隊長がやんわりとたしなめるが、レザード少年はどこ吹く風といった様子で差し出した手を取り下げる。

すごい神経の太さだ、心臓に毛が生えているのではなかろうか。


 しかしこの状況、レイシィには少し荷が重いな。

この濃いメンツ全員を彼女一人に任せるのは、少し酷というものだ。


 今だって王子を見る目が完全に死んでるしね。


 という訳で、ここは俺が何食わぬ顔で出ていき場を収めるべきだろう。

俺とてこの世界の権力者に対応する経験なんて無い訳だが、それでも大人としてやれる事くらいはある。


 なのでさりげなく、本当にさりげなく出現して彼女の保護者を主張しよう。


 だがそう決意した時、突然レイシィは手に持っていた聖剣を鞘に納め、馬車に背を向いて歩き出してしまった。


 やる事はもう終わったので、帰る気満々といった感じだ。


 おそらく、これ以上は付き合ってられないと愛想をつかしてしまったのだろう。

王子がもうちょっとましな対応をしていたら話は違ったのだろうけど、正直これはしょうがない。


 するとその行動にクレイムント公爵が慌て、レイシィを引き留めた。


 まあ、そりゃ突然帰られたら慌てるよね。

公爵の方は意外とまともそうな人間なので、少しくらいは話を聞いてあげても良かったんだけど、あの王子とセットじゃ無理だろうな。


「ま、待ってくれ!」

「待たない」

「それでもだ! 殿下の件は謝る、確かにこちらも礼を失していたようだ。だがなぜ、貴女のような実力者が死の大森林に居るのか、そしてあの光り輝く宝剣はなんなのか、そして我々を助けた目的。これだけは答えてもらえないだろうか!? 私も貴族として民を抱える身だ、もしもの時に知らなかったでは済まないのだよ」


 公爵は巡らしていたであろう様々な策略をそっちのけにして大声で叫ぶが、彼女の足は止まらない。

だが、民を想うといったその言葉にだけは何か感じるところがあったのか、その猫耳をピクリと震わせ返事を返した。


「私はただ、人助けをしただけ。この聖剣を託してくれた先代の勇者ネコフさまと、私を救ってくれた大賢者アースさまに顔向けできるよう、私が思う正しい行いをしただけにすぎません。それ以上でも、それ以下でもないです」

「な、なんだと……。勇者、そして聖剣……。まさか……」


 そう言うだけ言うと、レイシィは駆け出し屋敷へと帰っていった。


 というか、えっ、そこで勇者イベントの設定出しちゃうの?

どうやら俺が思っていたよりも相当に頭に来ていたらしい。


 まさか一国の重鎮相手に適当な事を言って煙に巻くとは思わなったよ。

ある意味向こう側の自業自得とはいえ、レイシィってけっこう好き嫌いハッキリしてるよね。


 ま、いいけど。


 それじゃ俺も帰るとしますかね。

弟子よりも先に帰っておかないと色々不審がられるだろうし、少しだけ急ごうかな。


 ではさらばだ、どこに位置するかも分からないゴドル王国の人間達よ。

もう会う事もないだろう。


 ──しかし俺は気づいていなかった。

 ──今回語られたイベントの設定が原因で、また彼らと接点を持つようになろうとは。


「ふふふっ。良い、良いよあの子。とっても良い。……どうしても欲しくなったよ、レイシィちゃん」



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