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弟子の教育に悪い場面に遭遇した話


「グルァアアア!!」

「ふっ!」


 突然飛び出してきた三つ首の犬の攻撃にカウンターを合わせ、その身体を真っ二つにするレイシィ。

さすがにこの程度の魔物単体では、歯牙にもかけないようだ。


 まあ、単体であるならだが。


 そう思いつつレイシィの死角に隠れ、背後から不意打ちを狙っている犬に対し石を投擲し、その頭を吹き飛ばす。


 時々いるんだよね、こういうズル賢いやつ。


「……?」

「(おっと危ない、インビジブルインビジブルっと)」


 俺の支援を受けつつも、危なげなく森の魔物を相手取るレイシィを眺めながら、時折様子を見て魔導を掛けなおす。

まだこの修行を始めて一週間だが、やはり武器の性能もあってか、近接戦闘そのものはかなり安定しているようだ。


 ほとんどの魔物が剣の切れ味の前に防御ごと切り飛ばされていくので、先制さえ取れれば一撃で決まっていく事が多い。


 ただまだ経験が足りないせいか、能力的には安定していても魔物に不意打ちをされかけたり、危険な攻撃をもらいかけたりする事がしばしばある。


 そう、今のように。


 まあそういう時は俺がこっそり小石を指で弾き、隠れている魔物に牽制し戦いの盤面をコントロールしていたりするので、大事には至っていない。

少々世話が焼けるが、これも師匠の務めだろう。


 人によっては過保護だと言うかもしれないが、彼女の年齢を考えれば良く戦えている方だと思う。


 そんな感じでドキドキハラハラしつつも弟子の成長を見守っていると、彼女はだんだんと森を下っていく。


 なるほど、今日はこのコースで修行をする気か。


 余談だが、この広大で深い森には様々な種族の魔物がひしめき合い、縄張りを張っている。

そのため屋敷からどういった経路を通っていくかで、出現する魔物のパターンもまるっきり変わってくるのだ。


 そして今回レイシィが選んだのは、数あるコースの中でも比較的弱い部類の魔物が出現する縄張りエリア。

言ってしまえば、ケルベロスの生息地だ。


 位置的にはちょうど、以前彼女が囚われていた馬車のすぐ近くと言った所だろう。

この辺まで森が浅いとたまに旅人が通ったりもする程である。


 確かに今のレイシィなら安全マージンを取った上で訓練できる、良い選択だと思う。

ただちょっと、迷いなく森を下っているのが気になるところだが。


 他にも目的があるのだろうか?


「……やっぱり、臭う」

「(ファッ!?)」

「とても濃い、血の臭いですね。……助けなきゃ」


 突然何かに確信を持った彼女は、一転して矢のようなスピードで駆け出す。


 というか、いまめちゃくちゃビックリした。

心臓止まるかと思ったよ。


 もしかして臭いで俺の存在がバレたんじゃないかとか、そういうイメージが頭をよぎったが、どうもそういう事ではないようで安心した。


 ま、まあ俺だってそこまで臭くないはずだし、大丈夫だよね。

毎日水浴びはしてるんだ、きっと大丈夫。


 ただ、それとは別に血の臭いというのが本当ならば、きっとそこでは旅人が魔物に襲われているのだろう。

この森の魔物はかなり好戦的で、人を見かけると見境なく襲い掛かってくる事が多い。


 特に知能が低く弱い魔物だと、それが顕著だ。


 屋敷の辺りでは俺という実力者が長年縄張りにしているだけあって、そうそう襲われる事は無いが、この極端に浅い場所では違う。

知能が低く、さらに自分達のエサになる人間が極まれに通るという事もあってか、俺ですら襲われる事があるくらいだ。


 魔物も群れで襲ったらだいたい人間に勝てるので、下手に警戒が無い分厄介だ。

この辺の旅人にとってはかなり嫌な相手と言えるだろう。


 まあ神王の剣オーデンを装備したレイシィくらいになると、修行の相手くらいの認識でしかないんだけどね。


 そして疾走するレイシィの後を考え事をしながら追い続けると、そこには予想通り魔犬に襲われている馬車と、旅人というには装備が整った金属鎧の戦士たちが戦っていた。


 金属鎧の戦士たちは揃いもそろって同じ格好で、俺がよく転移部屋ポータルで森を俯瞰し見かけるような、旅人然とした雰囲気ではない。


 彼らが守っている馬車にも豪奢な紋章が掲げられているので、恐らくそれなりの立場の人間が偶然通りかかっていたのだろう。


 ちなみに戦況は犬っころが若干有利で、一対一ならば余裕をもって勝てる戦士ではあるようだが、人間側の2倍くらいの数で押し寄せるケルベロスに対処しきれていないようだ。


 遠目から見てもこのままでは、じり貧だろう事がハッキリと分かる。


 すると痺れを切らしたのか、戦士の一人が大声を上げて我武者羅に魔犬へ突っ込んでいった。


「くっ! 死の大森林の魔物とは、これ程までに強靭なのかッ! ────ならば、ぉおおおお!!」

「おい、焦るな!!」

「どうせこのままではじり貧だ、俺が捨て石になっている間に逃げろ!! ……殿下を頼んだぞ」

「おい!!!」


 どうやら表情を見るに、戦士の一人が囮になって仲間を逃がす作戦のようだ。

まあ、合理的といえば合理的だな。


 全滅するよりマシだと判断したのだろう。


 突撃していった彼も納得した感じだし、仲間の方も致し方なしといった諦めの表情が伺える。

確かにもし俺が同じ状況なら、あの戦士と同じような選択を取ったかもしれない。


 もし、同じ状況なら、だけどね。


「(……はぁ。弟子の前で、そういう教育に悪い場面見せないでくれよ)」


 そう思ったのも束の間、戦士のピンチを悟ったレイシィが疾走から全力疾走に切り替え、ゾッとするような冷たい声でこう言った。


 ──ただ一言、「ふざけないで下さい」と。



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