第一章 醜女は願う
ある村に、誰からも愛されない村娘がいた。村娘はいつもみすぼらしい服を着て、おまけに顔は誰よりも醜かった。村人たちはそんな村娘を蔑み、実の両親でさえも彼女を疎んだ。
「誰でもいいから私を見て、愛してほしい。」
それが村娘の切なる願いだった。温かい食事が食べたい、立派な家に住みたいという贅沢なことは言わない。だからどうか、私を愛してくれる人が見つかりますように、と村娘は毎日祈り続けた。
村娘の願いを聞き入れたのは、神ではなく悪魔であった。ある日、村娘のもとに美しい少女と少女に付き従う男が現れた。美しい少女は、村一番の資産家の男の娘であった。
少女、いや令嬢は村娘にこう言った。
「私たちの顔を交換しましょう」
戸惑う村娘に令嬢は語った。
彼女は親に決められた男と結婚したのだが、この夫が非常に嫉妬深いこと。令嬢が少しでも他の男と話すと夫は激怒し、令嬢を激しく責め立て部屋から出さないほどだという。
令嬢は夫の異常な執着心に怯え、自由のない生活に疲れきっていた。
「私の身代わりになってほしいの。もう、あの人と一緒になんて暮らしていけない」
話を聞いていた村娘は、そこまで激しく愛される令嬢に羨望を抱いていたのでこの頼みを聞き受けた。
するとそれまで令嬢のそばで控えていた男が、自分を悪魔だと名乗り、不思議な術で二人の顔を交換したのだ。
令嬢の美しい顔を得た村娘は飛び上がるほど歓喜した。醜い顔を捨てられたからではない。たとえ歪んだ愛情でも、それを享受できるのは自分なのだ。心から欲していたものを手にいれることができたのだから。
令嬢は安堵した。貧しい生活を送ることになっても、醜い顔を蔑まれても、夫に怯えることなく暮らしていけるのだったら何てことはない。これからは、息をつめて暮らすことはないのだ。
互いに満足した二人は、それぞれのいるべき場所へと向かった。
村娘は令嬢の住んでいた豪華な屋敷へ、令嬢は村娘の住んでいた貧相な小屋へ。
二人の顔を取り換えた悪魔は男の姿はすでに消えていた。