ココと悪魔
ココが血を流す
空が橙色だ
砥ぎ忘れたナイフが地べたに並べられた
打ちつけた手首が血で滲んでいる
六羽のカラスが飛んだ
草が風になびいて
男の寝息
ココの食事が日に日に不味くなる
ココが両手をついて皿を舐めた
麻袋の感触もほこりの床と同じだ
窓の外の風景にココが関心を失った
「やぁ、こんにちは」悪魔タタンが言った
ココの目も黄色だったのが水辺に群がる蝿に服従されている
ギャング達の性交を照らし出すのが夕日だ
夜は母のぬる口紅の臭いがした
皮を剥がれたニワトリが店先からしまわれていく
カエルがバイクの前に跳び出した
横倒しの廃バイクがカエルの寝床だったのだ
「あなたはなぜここに来たの?」ココが言った
「ぼくはいつだってここにいたさ。昨日だって、これからだって」悪魔タタンが言った
「こんにちは、ココ」悪魔レキュスタが言った
「ココ! よろしくな!」悪魔ギャニットが言った
「モグモグ、よろしく、モグ……」悪魔エドウィンが言った
「Zzz、よろしく、Zzz……」悪魔ズィーグァンが言った
「ねぇ、ココ、何して遊ぼうか!」悪魔タタンが言った
日は落ちていた
憎しみは皮脂と共に落ちる
ココが震える腹を抱えて腑抜けた
町を感慨深く眺めるのが鳥だ
悪魔達が月光しか照らさぬ部屋で遊んでいる
星がココを救い出すことはない
ガソリンの使い途をがわからないギャングが万物を凶器へと変えるのは歴史の摂理である
ネズミの母が子供達に夜食を作った
羽のつややかなカラス達が愛し合っている
車のアイドリングの音がどこからも聞こえない
静かな夜だった
月夜が時を止めたことをココが知ったのはずいぶん経ってからだった
○○○○という名の人が死んだ
悪魔達を見ながらココが穏やかな眠りについた
ボンネットの裏が落書きだらけだ
その夜ココが夢を見た
ココが右目と右手と頭の左半分と遭遇した
葉巻きが三百九十七本ふやけて使い物にならなくなった
ビーフジャーキーをクジラが食べていた
水たまりに映ったココの顔が折れ曲がった
「おい、一等上級なキャンディーをおくれ」オウムが言った
羽虫が中絶の臭いを辿る
看板が染み付いた麻薬を臭わす
炎天下の浮浪者が死んだ
「今日は何して遊ぼうか!」悪魔タタンが言った
寝ていたココが木のおもちゃで遊ぶ悪魔タタンを見る
カタツムリが白骨ウサギを喰う
封書箱に制裁で切られた指
パイナップルのプランテーションはたくさん実っている
ココが空の食器を悪魔タタンに投げつけた
「ワハハハ! びっくりした!」悪魔タタンが言った
抗争のための準備にギャングが出払った
悪魔タタン以外の悪魔がいないと
昼食頃に車の排ガスが匂ってくる
銃の臭いよりも不潔な臭いなのがココだ
おもちゃの銃で遊んでいた弟の思いがわからなかった
旅行者にかつあげをするリトルギャングが誤って殺す
歯がリトルギャングのせいで赤かった
何の変哲もない部屋がココの苦痛だったのだ
「一緒に遊ぼうよ」悪魔タタンが言った
「私は遊ばない。そんな気分じゃない」ココが言った
「遊べばなくなっちゃうよ」悪魔タタンが言った
「何が無くなるの?」ココが言った
「う〜んと、つらいのと痛いのと憎いの」悪魔タタンが言った
母のオーガズムの叫びが耳につく
「ギャング達はいなくならない?」ココが言った
ネズミは干からびていて
バイクのホイールに憎しみを絡ます
鳩が浮浪者目掛け石を投げた
町人を拷問するための棒が弓なりだ
ギャングが警察局長を介して武器を仕入れる
日光がネズミの交尾を照らすことはない
国境ぎわにある検問の鉄柵が錆びて無い
乾帯が殺人を白日の下に晒す
紛争帰りの青年が言う
母亡き少女が盗みに精を出した
上物の背広ギャングが市長と酒を酌み交わしている
ギャングとの密約が警察を潤す
日差しが強かった
ココが晒された父の頭部が町の経済を回したことを知ったのはずいぶん経ってからだった
名も無い男が今日も死んだ
宴で踊る売春婦達が白い罪人を勃起させた
墓石の裏に酒がいくつも置かれていた
その時ココが鉄骨を見た
白い罪人が部屋の内装を気にしなかった
線香花火が三百九十七本
白い罪人の宴のために用意されたピザを野良犬が盗んで食べた
火照って服を脱いだ女の腰が曲がった
「おい、一等上等な精力剤をおくれ」白い罪人が言った